第10話 小日向真司9歳

誠司が死んだのは、鉄工所内での事故が原因だった。

クレーンで吊り上げた資材が荷崩れを起こした。

真下にいた作業員をかばって、助けに入った誠司がその下敷きになった。

救急車で病院に運ばれたが、すぐに息を引き取った。


小学校から引き戻されて、家の中に慌ただしく人が出入りしている。

真司は何も状況が飲み込めなかった。

ただ母が狂ったように泣いていることで、とてつもなくたいへんのことが起きたことだけはわかった。


告別式で文枝や祖父母が泣いている姿を真司は見た。

“なんで泣いているんだろう”

“なんでぼくはこんな所にいるのだろう”

“なんでお父さんの大きな写真が飾られているのだろう”

不思議に思えてならなかった。


真司に誠司の死を理解できなかったのではない。

心が自動的に理解する思考を停止していた。

9歳の真司が受け止めることができず、幼い心が自動的に防御した。


それから数日後だろうか。

なぜ父親が家に帰ってこないのだろうかと思ったのは・・・。



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