第8話 小日向真司7歳

誠司はたまの日曜日くらいが真司の相手をしてやろうと思った。

誠司は文枝と二人の息子を連れて近所の公園に出掛けた。


「真司、キャッチボールをするぞ」

家から持ってきたゴムボールを真司に投げてやった。

「ぼくはいいから、歳之と遊んであげていいよ」

「今日は真司とキャッチボールがしたい気分なんだ」

“俺といる時は気を使わなくていいんだぞ、真司”

誠司は心の中でそう思った。


二人はゴムボールでキャッチボールを始めた。

この頃は巨人の長嶋や王の全盛期だったから、親子はたかがキャッチボールにも熱が入る。

それに真司が意外にいい球を投げる。

“こいつ、筋があるぞ”

誠司も親バカの一人だった。


文枝に抱かれていた歳之はボールを目で追っていた。

ただボールを投げてそれをキャッチする。

こんな単調な遊びなのに、楽しくて仕方がない。


二人は時間を忘れてキャッチボールに没頭した。

これが真司と父の最初で最後のキャッチボールになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る