第50話 遭遇
*
バーバラと別れた後、大成とビーチャムは研究所を出た。
例の魔導師ギルドに向かうためだ。
バーバラにも同行を希望したが「あとは自分たちでやりなさい」と一足先に帰られてしまった。
「そこまでおんぶに抱っこになるわけにいかないもんな」
ふたりは紹介状を持って通りを歩いていく。
レストラン店主のダニエルの情報によれば、目的地はクオリーメンの中心地の一角。
大成たちは午後の人通りの多い往来を進んでいった。
その途上である。
「あのー、魔導師ギルドってどこですか?」
何処からそんな言葉が彼らの耳に入ってきた。
思わず大成とビーチャムは目を見合わせると、声の方向へ視線を転じた。
「わたし、どうしてもそこへ行きたいんです」
どうやらその者は道ゆく人に魔導師ギルドの場所を訊ねているらしい。
年齢は二十歳前後だろうか。
金髪ショートの可憐な女性冒険者...といった様相の彼女は、魔導師には見えない。
「うんうん。わかりました。ありがとうございます!」
目的地への行き方を教えてもらった彼女は、去っていく相手に感謝を告げ、喜び勇んで足を踏み出した。
と思いきや、そのまま踏み留まった。
「なんだ?」
大成たちが奇妙な動物を見るような視線を彼女に貼りつけていると、不意に彼女の視線もこちらへ向いた。
「おいタイセー。あの女、なぜかこっちを見ているぞ」
「あ、ああ。俺たちになんか用かな」
などと言っている矢先。
いきなり彼女が引きつった笑顔を浮かべたかと思うと、急にこちらへズンズンと迫ってきた。
「なっ!?」
あっという間にびっくりする二人へ肉薄してきた彼女は、口をひらく。
「い、今、見てました?」
「あ、ああ」
大成が答えた。
「そ、その」
「?」
彼女は額にだらだらと冷や汗を垂らして言った。
「教えてもらったけど......全然わからないんですぅ!!」
コイツ大丈夫か、と言わんばかりにビーチャムは唖然とするが、大成はぷっと吹き出した。
「まあ、そういうこともあるよな」
「そ、そそそそうですよね!」
「実は俺たちも今からそこに行くんで、一緒に行きますか?」
大成の提案に隣のビーチャムが顔をしかめる中、神様に救われたかの面持ちを彼女は滲ませた。
「ありがとうございますっ!」
「いえいえ」
「わたし、ナナラ・ローパーって言います!」
「俺は徳富大成です」
「ええと、とくとみたいせい、ですか」
「呼びづらいよね。タイセーでいいですよ」
「わたしのことはナナラでいいです!」
「あと、こちらはレオニダス・ビーチャム」
「レオニダス......じゃあ、レオくん!」
「は?」
ビーチャムは明らさまに嫌そうな顔をする。
「まあまあ」と大成はビーチャムをなだめた。
「タイセーくんとレオくん。よろしく!」
ナナラは屈託のない笑顔を輝かせた。
それから魔導師ギルドへ向かって歩いている数分間の間に、大成とナナラのやり取りはすっかり友人同士のようになっていた。
「まさかナナラが魔導師だとは思わなかったよ」
「それを言うならタイセーが商人でレオくんが博士って言うのもびっくりだよ」
「そういえば、魔導師ギルドに所属するのって、なにか特別な手続きはあるのか?」
「面接やったり試験やったり色々あるけど、ギルドによるよ。あと魔導師にもよる」
「なんだかずいぶん詳しそうだな」
何気ない一言だった。
なんの他意もなかった。
ところがナナラは、どういうわけかひどく
「えっ、だ、だって、わわわたし、ま、魔導師だし?」
大成はきょとんとする。
その隙を突いたようにビーチャムが割り込んできた。
「貴様の等級はなんだ」
「へっ?」
「聞こえなかったのか。貴様の魔導師の等級は何かと聞いているんだ」
「あっ、あー!!」
ナナラが唐突に声を上げた。
「いきなりやかましいぞ。一体なに...」
ビーチャムが言いさした時、大成も「あっ」と声を洩らして前方を指さした。
「ビーチャム。あれって魔導師ギルドだろ」
彼らの先に、魔導具ギルドの看板を掲げた酒場風の外観の建物が見えた。
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