第22話 企画会議
大成の事業計画がまとまると、机を挟んで二人は向かい合った。
計画書の作成中、ビーチャムは一切口を挟まなかった。
専門外ということもあるが、徳富大成という人間の考える「ビジネス」が具体的にどんなモノなのか、興味があったのだ。
「ん?」
大成の書いた計画書を見てすぐにビーチャムが疑問を示した。
「
「そうだ」
「少々意外だな」
「もちろん、いずれは文字送信魔導具を商品化してビジネスにしたいと思ってる。でもまずは火の魔法石から始めたいんだ」
「形にしやすいからか?」
「余計なお世話かもしれないが......」と前置きをしてから、大成は答える。
「ビーチャムに暗い影を落としてしまった火の魔導具で人々の生活を豊かにする。これを俺たちのビジネスのスタートにしたいんだ」
「!」
思わずビーチャムは目を見張った。
本当に不思議な男だ......と、改めて思う。
「気を悪くさせてしまったかな」
「いや、そんなことはない」
「そうか。良かった」
大成はほっと一安心し、ビーチャムは計画書に視線を落とした。
「で、企画会議とやらを始めるのだな」
「ああ。開始するぞ」
大成はすっくと立ち上がり、手振りを交えて話し始めた。
「まず、この『火の魔法石プロダクト』は、魔力注入魔導具の存在が前提で成立するものだ。なので早急にやらなければならないことは魔力注入魔導具の研究開発ということになるが、これについてはビーチャムなら難しくないと考えていいんだよな?」
「ああ。バーさんの協力は不可欠だが、理論的にも技術的にも僕ならば難しくはない。作るまでに大した時間は要しないだろう」
「よし。では、まず最初に、なぜ魔力注入魔導具が必要なのかを説明する」
「火の魔法石だけでは売り物にはならない、ということではないのか?」
「その通りだ。そもそも魔法なしでも火は起こせる。そんな火の魔法石を商品として売るのは厳しいだろう。これは他ならぬビーチャムが言っていたことだよな」
「キッチンで話したな」
「だがそれだけではない」
「ほう」
「生産力の問題だ」
「なるほど。そういうことか」
「火の魔法石に関わらず、どの魔導具を作ろうが、最終的にはバーバラさんに魔力注入をお願いすることになる。バーバラさんがこの研究所に常駐してくれるならいいが、そうもいかないだろう」
「それは無理だ。バーさんは老魔導師ながらも忙しい人なんだ。ここには手が空いたタイミングで来てもらっている」
「つまりバーバラさんのスケジュール次第で生産力が大きく左右してしまうんだ。個人のスケジュールに製品の生産力を依存するのは非常に好ましくない。あまりにも供給が不安定になりすぎる」
「そこで魔力注入魔導具が必要というわけだな。いや、ちょっと待ってくれ」
「なんだ?」
「ということは、魔力注入用魔導具は生産設備として必要なのであって商品にするわけではない。となると、結局のところ火の魔法石を売るだけになるよな?」
「最初はな」
「ん?よくわからないぞ?」
「ビーチャム。今の俺たちにとって大きな問題が二つある。ひとつはすでに話しているよな」
「僕も貴様も魔力がない。だからバーさんに頼らざるを得ない」
「そうだ。ただそれについては魔力注入用魔導具である程度は解消できる」
「ではもうひとつはなんだ」
大成はここぞとばかりにビーチャムへ向かってビシッと指をさした。
「俺たちには金がない!!」
「そ、それは」
ぐうの音も出ないビーチャム。
そこへ大成が畳みかける。
「金がなければ、そもそも商売をすることもできないんだ!」
「で、ではどうするんだ」
「だからまずはとにかく小金を稼ぐ!」
「小金?」
「ビーチャム。火の魔法石の石は、ただの石だよな?」
「あ、ああ、そうだな」
「その辺に落ちている石でいいんだよな?」
「いくつか試した結果、川辺の石が一番良かったが」
「つまり労力を無視して考えれば、原価はゼロってことだ!」
「金がなくても商品の生産はできるということか」
「本当は火の魔法石だけでは商品として弱いが、それでも原価ゼロで生産・供給できるというのは、資金力ゼロの俺たちにとっては最大の武器になる。というより、武器にするんだ」
「言っていることは理解したが、それで具体的にどうするんだ?」
大成はふっと策略に満ちた笑みを浮かべると、キッチンからありったけの火の魔法石を両手に抱えて持ってきた。
「こいつらの数をもっと増やすぞ」
「それは簡単だが......そんなに売れるのか?」
「売らない」
「は?」
「まずはこいつをたくさん作って、ご近所さん含めて皆さまにお配りするんだ!」
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