第14話 刺客
屋敷では壁に大きな穴が開くほどの大爆発が起こった。
八代は自分は助からないと思っていた。
しかし意識があった。
「………あれ…?ワタクシ…生きて…」
お嬢にも意識があって、駆けつけたきた八代のもとへ向かった。
「花梨ちゃん!!大丈夫!?」
すると八代を心配するお嬢の耳によく聞き覚えのある声がした。
「遅くなってすみません。お嬢、そして皆さん。」
お嬢は涙を流した。
「黎…、黎っ!!」
お嬢が今度は黎のもとにかけつけて抱きしめた。
「あれだけの大爆発を…一体どうやって…。」
そう疑問に思った八代の目に赤い鎧を身につけ兜を被った人型のようなものを中心に光り輝いているのが映り、長きに渡る暗闇の空から徐々に明かりが差してくるのが分かった。
「あれは…太陽様…。」
「はい。彼に爆破をお2人から遮るように守って頂きました。そして彼は死に、今蘇っているのです。」
「あれが不死鳥(フェニックス)の蘇る姿…。」
遠くから見ていた菱沼の目から見てもとても輝いていた。
そして輝きが徐々に薄れ太陽の姿が輪郭からはっきりと認識できるようになっきた。
「こいつは一つ貸しだぞ、黎。」
「ええ、助かりました。この借りは忘れませんよ。」
「ありがとう…太陽…。」
お嬢も太陽にお礼を言った。
「でも黎、いくら太陽が不死身でも、私に舎弟は絶対に死なせないって約束したでしょ!?」
お嬢は怒っているがお嬢の言うことは今の南グループにとっては黎も最もだと感じた。
「はい。約束を破ってしまってすみません。処分の覚悟はできています。しかし今は敵軍が攻めてきているのでこの状況をまずは打破しましょう。」
お嬢はずっと黎に抱きついたまま不機嫌そうだったがなんとか妥協したように、
「そうね。」
とダンテとライトが戦っている方へと目をやった。
「…なるほど…これが今の南グループか…。」
太陽がボソッと呟いた。
「悪くございませんでしょう?」
八代が太陽の感情を見透かしたようにからかった。
「…ッフン。とりあえず今は奴らを始末するのが優先だろう?」
そう太陽が返事をした途端、敵軍の足取りの様子がおかしくなった。
敵陣営の地面から複数の腕が生えて敵達を地面の中に引きずり下ろそうとしているのだ。
「はいは〜い皆さ〜ん、ご飯の時間ですよ〜。たくさん食べて栄養をつけるのですよ〜。」
どこからともなく女の声が聞こえた。
「この声は…レナちゃん!?」
地面から生えてきたのは二階堂レナのアンデッド達の腕だった。
「やっほー!お嬢と黎お兄ちゃん達!あ!お嬢が黎お兄ちゃんに抱きついてる!やっぱり2人って付きってるの!?」
同じ女の声の方向から聞き覚えのある子供の声がしたためお嬢と黎はそちらに目をやると裕也の大きなシャボン玉に二階堂と裕也が入り宙に浮いていた。
黎に抱きついていたお嬢が裕也の表情を見て顔を赤らめて黎の体を離した。
「コラーーッ!裕也ーーー!そんなんじゃないわよーーッ!後でお仕置きするわよーーッ!」
お嬢がからかう裕也に向かって叫んだ。
「お久しぶりですねお嬢様〜。この方達は恐らく戦闘不能になると自爆をされるみたいなので私の屍人達の栄養になって頂こうかと思いまして〜。」
するとお嬢は少し考えていたが。
「ええ、いいわ。南グループの舎弟でもないし、どうやら話の通じる相手じゃないみたいよね。花梨ちゃんが私が爆発に巻き込まれそうなとき駆けつけてくれたのも、何か思い当たる節があったんだと思うわ。」
お嬢が八代に目を向けると八代はそれに応えるかのように頷く。
「ありがとうございます〜。ではお言葉に甘えていただきますね〜。」
みるみるうちに敵は地面に飲まれていき、やがて一人残らず完全に飲み込まれ、屋敷の外は見晴らしが良くなった。
「それでは私は塔に戻って仕事の続きをしてきますね〜。」
「バイバーイ!また後でねー!それと2人とも喧嘩は程々にね!夫婦喧嘩は犬も食わないってねー!」
そう言って裕也と二階堂は去っていった。
「コラーーッ!!裕也ーーッ!!待ちなさーーいっ!!」
お嬢は怒っていたが、なんだか心のどこかで嬉しそうだった。
その頃深海では…
「…なるほど。つまりあなたはその者に一杯食わされたってわけですのね。」
「はい、私とした事が不覚でした。」
「あらそう。ではそんなあなたに一つアドバイスをしてあげますの。」
「…一体何でございましょう?」
「この世に完璧な者なんていないんですのよ。あなたは私に忠実な完璧な執事であなたにとって私は完璧なお嬢だと思われているのならそれは大きな誤解ですのよ。」
「…!」
「南グループ十の掟その二、正解する選択ではなく後悔しない選択をすること。あなたの今回の失敗が悔いのない選択だったのならばそれでいいんですの。それに、掟その三にあるように、1人で何でも抱え込まなくていいんですの。あなたの慎重さは私も認めていますの。でもあなた1人でどうにもならないこともあるんですのよ。そのときのために南グループがあるんですの。あのアマのことは気にくわないですがアイツの考えてること分からなくもないですし、十の掟は私も嫌いではないんですのよ。」
「…お嬢…ありがとうございます。」
「それでは私は眠りにつきますのでこの後どうするかは自分で考えるんですのよ。」
「…はい。おやすみなさいませ。お嬢、やはりお美しい…。」
その頃竜の山にて…
「ここがお前の住んでるところなのカ?死骸だらけだゾ!」
千佳が頭蓋骨を高々と持ち上げた。
「ゴルァ!!遊んでねーでテメェも仕事手伝いやがれ!!」
「それにしても空の旅は楽しかったゾ!今度は何処に行くんだゾ?」
「だーかーらー!それを屍の塔に運ぶのをテメェも手伝えつってんだ!!袋かなんか持ってきて詰めるなりしやがれ!」
「屍の塔?お前あんなところまでわざわざ行き来してるのカ?それなら…」
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………」
物凄い地響きがする。
「うわ!なんだ!?」
「ドーーーンッッッッッッ!!!」
すると千佳の真横に雲より高い塔がそびえ立った。
「名付けて屍の塔2号だゾ!」
「なッ!!」
「そもそも屍の塔は千佳が遊びで作ったんだゾ!死んだ者たちを弔う場所としてのパワースポットなんだゾ!」
「おい、俺様の今までの苦労は…」
「千佳に任せれば一瞬で解決だゾ!」
リソスはそれを聞いて気を失って倒れた。
お屋敷にて…
「…つまり彼らは、目的のためなら手段を選ばない刺客、自軍さえも使えなくなれば切り捨てるってことね。だからあの時あいつは自爆を…。」
お嬢、黎、菱沼、八代は広間のテーブルに添えられた椅子に座りながら話し合っていた。
「しかし、俺の見た目をしたそいつはお嬢を攫おうとしたんですよね。やつらの目的って一体なんなんでしょう。」
「それについてはワタクシもわかりかねますが、黎様に変装していた者、その者が今回の4人のA級舎弟達を裏で動かしていたと考えるのが妥当ですね…。」
八代がそう言うと菱沼が疑問に思った。
「4人のA級舎弟といえば、太陽様とは和解できた感じでしたが、他の御三方はどうなったのでしょうか?」
八代の表情は真剣だった。
「恐らく黎様に変装していたことを考えるとその者はあらゆる者の姿に変装できる能力があると仮定できます。その前に私と黎様は一度千佳様が天宮様に殺し屋兄弟を脱獄させたと考えました。しかし4方が手を組んでいたとして少なくとも太陽様はそんな野蛮な事を考えられるような方だとは思えません。つまり黎様に変装していた者がそれぞれ4方に別の姿で別の内容を伝え、南グループで内乱を起こすように仕向けたのだと考えられます。菱沼様のおっしゃる御三方が屋敷までやって来ないことを考えれば内乱は起こらなかったため直接自らの軍を率いてやってきたというところでしょうか。」
「ねぇ、花梨ちゃんの言う内乱って言うのは具体的に誰と誰を争わせるためのもののことなの?」
お嬢が八代に尋ねる。
「はい。まずは屍の塔にいらっしゃる御三方対殺し屋兄弟です。こちらは黎様と裕也様が止めることに成功されました。続いて、恐らくその後は黎様対太陽様、江戸村様対海斗様、そしてリソス様対千佳様だと思われます。」
黎はすぐに引っかかった。
「待ってください八代、天宮は誰とも争わせるつもりがなかったということですか?」
八代は残念そうな顔をした。
「はい。天宮様は所在も不明でその刺客に唆されても、誰かと争う様に仕向けるのは難しかったのか、あるいは…」
「天宮様自身が、その刺客か…。」
菱沼がボソッと呟いた。
「晶ちゃん…。」
お嬢は菱沼が何が言いたいのかなんとなくわかっていた。
「だ、だって殺し屋兄弟を脱獄させたのも、天宮様だったんですよね!?それなら尚更…」
感情的になる菱沼の疑問に八代は、
「はい。ですがそうと決まったわけではありません。太陽様は結局あの刺客の軍勢が攻めてきた後、忽然と姿を消してしまいました。まだ可能性は未知数です。」
「太陽は変装した俺が動いてる間も俺が捕食していましたし、彼を刺客と言うのは無理があるのではないでしょうか。」
「それに太陽様はお嬢様と八代さんの自爆する刺客の身代わりになってくださったじゃないですか!?」
「はい。ですがあれが太陽様ご自身の演出と想定することも可能ですし、裏で天宮様と結託されている可能性だってあります。」
「八代さんは太陽様のことを疑っているのですか!?私は見てましたよ!刺客と太陽様が対峙していて2人が別人であるところを!!」
菱沼の叫びに広間の空気が重たくなるのをそこにいた全員が感じていた。
「ごめんなさい…。つい…。」
「ねぇ、みんな。」
お嬢の声を聞いて3人がお嬢に視線を集めた。
「ちょっと、休もう?ね?皆頑張ってくれたんだしさ、今こうして皆が無事であることが私はすごく嬉しいよ。」
お嬢の言葉に3人は少し反省した気持ちになった。
「私は皆を信じたい。ここにいる3人も、今回のA級舎弟の4人も、それと、リソスも咲もね。」
「お嬢…。」
黎は言葉を失った。
お嬢は泣き虫で、怖がりで、わがままで、お人好しで、誰よりも舎弟のことが大好きで、真っ直ぐで、そんなお嬢を黎は…。
「それじゃあみんな!一度解散しましょ!」
「…そうですね。」
「あ、黎はちょっと私の部屋に来なさい。」
お嬢が左手で黎の右腕を引っ張った。
「あ…はい。」
黎はお嬢の部屋に連れて行かれた。
お嬢は黎をお嬢のベッドに座らせ、お嬢が黎の左隣に座る。
「どうして呼ばれたか、わかる?」
黎には覚悟ができていた。
「はい。先の件についての処分ですよね。覚悟はできています。」
「それだけじゃないわ。あなた、私を置いて勝手に出ていったでしょう?」
「…はい。」
「これだけ好き勝手やって、今日という今日は許さないわよ。」
「…。」
「…。」
「…あの、お嬢、俺の処分の内容は…」
黎がそう言いかけた瞬間、黎の口がなにか柔らかいもので塞がれた。それは黎にとっては初めての感触だった。黎の視界にはこれまでに無いくらい近い距離の目を瞑ったお嬢の表情。
そしてしばらくしてお嬢が静かに黎の顔から顔を遠ざける。
「しと…しょに…さい…。」
お嬢が何か言っているが上手く聞き取れなかった。記憶もまだ共有していないため黎にはお嬢が何を言いたいのかわからなかった。
「…お嬢…今なんて…」
「私と一緒に…寝なさい…。」
お嬢が黎を抱きしめてそのまま2人でベッドに横になった。
「…わかりました…。お嬢…。」
黎もお嬢の背中に手を回して抱きしめた…。
第二章 下剋上編 〜完〜
次回 第15話 誘致
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