第12話 裏切り

「こ、これは一体どういうことでしょう…!?空が突然暗く…!?」


 菱沼がお嬢の部屋の窓から空を眺めて言った。


「………黎…黎だわ…。」


 しばらく口を閉ざしていたお嬢が虚ろな表情で小声で口にしたのを菱沼は聞き取った。


「黎様…ですか?」


「黎を…黎を止めないと…!!」


 お嬢が突然立ち上がって部屋を出ようとした。


「お嬢様!?」


 しかし扉は開かなかった。


 ダンテとライトが外側から扉を抑えていたのだ。


「開けて!!お願い!!早くしないと!!黎が…!!みんなが…!!」


 お嬢は泣き叫びながら扉を強く両手で叩いた。


「お嬢様!!お嬢様!!一旦冷静になりましょう!!黎様がどうしてこのようなことをされたのかご一緒に考えましょう!?きっと黎様なりの考えがなにかあるのかと思われます!!」


 菱沼もお嬢を落ち着かせようと抑えようとする。


「いや!離して!!」


「ドンッ!」


 お嬢が菱沼を振り払うと菱沼が床に倒れ込む。


「あ…あ…晶ちゃん…。」


 倒れた菱沼を見てお嬢が動揺する。


「い…いや…!そんな…私…なんてこと…!」


「お嬢様…私は大丈夫です。」


 お嬢は泣き崩れた。


「ごめんなさい…。ごめんなさい……。」


 そんなお嬢を菱沼は優しく抱きしめた。


 屍の塔にて…


「…うーん…。」


「ようやく目が覚めましたね。」


「レナお姉ちゃん?あれ?僕は一体…。それに、夜…?」


「いえ、あれは皆既日食と言って私達から見て月が太陽に完全に重なってるんですよ。」


「へー、そんな事があるんだー。」


「自然現象の一つですが、今回の場合はどうやら違うみたいですね…。」


「…そうなの?それよりも黎お兄ちゃんは?それに殺し屋兄弟もいないね?」


「なにやら急用を思い出したと言ってどこかへ行ってしまわれました。裕也さんが突然眠ってしまったので私は見守るようにとお願いされました。殺し屋兄弟は私のアンデッドの餌になって頂きました。彼らは話も通じませんし既に南グループの一員ではありませんから。」


「そうだったんだ!ありがとーレナお姉ちゃん!」


「…。」


 海中にて…


「なかなかしぶといですね。まさか爬虫類でありながらエラ呼吸してないでしょうね。それにしても皆既日食ですか…」


「カキィン!」


「ゴポッッ!」


 突然深海の方から斬撃のようなものが海竜の首を切断し、海中で海竜の大量の血飛沫が浮き上がっていく。


 リソスの前足から海竜の牙が外れた。


「斬撃…。まさか…。」


「海斗、あなたこの私のリソス様を溺死させようだなんて一体どういうおつもりですの?」


 海斗は海中で何処にいても音波を通じてどの生物とでも会話ができる。


「…お嬢。…申し訳ありません。」


「一旦リソス様は陸に引き上げてすぐに私のもとへ戻ってきなさい。」


「…かしこまりました。」


 海斗はリソスに対して海水の浮力を急上昇させ、海面までリソスを押し上げていった。


 平原にて…


「突然夜になってしまったゾ!これは何事だゾ?それにても天宮は一体何処に消えたんだゾ?全く気まぐれなヤツだゾ!」


 軍団を率いる千佳がブツブツという。


「千佳様、これは夜になったのではなく、皆既日食という現象ですよ!こんなタイミングで起こるのは不自然です!きっと彼の仕業でしょう!」


「かいきにっしょく?難しいことはよくわからないゾ。」


「恐らくこれは、太陽様も予期していたことなのでしょう。なのであのとき太陽様は私達を砦から追い払うよう仕向けたのだと思われます。これだけ大量の軍が彼に捕食されてしまっては太陽様からすれば私達に顔向けできない出来事となってしまうでしょうから。」


「ほしょく?なんか土屋言ってることのワケがわからないゾ?太陽はどうなっちまったんだゾ?」


 千佳は頭がパニックだった。


「おそらく彼、いや、南グループのS級舎弟の黎様に『捕食』されたのでしょう。いくら不死身だとしても捕食されてしまえば復活はできません。」


「あの太陽がやられたのカ!?これから千佳達はどうすればいいんだゾ…?それにその黎っていうS級舎弟、そんなに恐ろしいのカ…?」


「はい。集団で動いていては目立ってしまいますし、発見され次第まとめてやられてしまう可能性もあるので、それぞれ少数に分かれて行動するといいかと思われます。」


「わかったゾ土屋!チーム編成はお前に任せるゾ!」


「承知しました。」


 そう言って土屋の指示のもとで軍団を少数に分け、千佳と土屋は別行動をとった。


 ……………


「あいつは馬鹿で本当に助かります。」


 ……………


 お屋敷にて…


 屋敷の広間の玄関の扉からノックの音が聞こえてくる。


「私です。ただいま戻りました。開けてください。」


 広間のテーブルで時前のパソコンと向き合ってる八代に聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。


 八代が玄関の扉に近づく。


「黎様…ですね。扉をお開けする前に、念の為お嬢様に黎様が戻られたことを報告させて頂いてもよろしいですか?」


「ええ、構いません。」



 次回 第13話 悲劇

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