遺書
ごめんなさい。皆さんに、本当のことを伝えなければいけませんね。ようやく決心がつきました。
sechigaraさんへのインタビューの中で、数年前とある大学のオカルト研究会で集団自殺事件が起こった、という話がありました。
実は僕の兄は、その事件で亡くなった学生のうちの一人です。
大学のオカルト研究会に所属していた当時大学二年生の兄は、本当に毎日楽しそうに過ごしていました。
それが、事件が起こる半年ほど前から、急におかしくなり始めたのです。
その時の僕には、それがなぜかわかりませんでした。
その時兄たちが『レッツゴー!みぎおくん』の最終回についての調査、研究を行っていたということを知ったのは、事件から一年ほど経った頃です。
ある日ネットサーフィンをしていたら、兄の大学て起こった集団自殺事件についての記事を見つけました。
たしか、オカルト系の情報が多く掲載されていたそこそこ有名なウェブサイトです。
そのサイトに、集団自殺をしたオカルト研究会の学生たちは、事件の半年ほど前から『レッツゴー!みぎおくん』について調べていた、ということが書かれていました。
どこでこんな情報を入手したんだろう、と不思議に思いました。
でもそれよりも、兄たちがみぎおくんについて調べていた、ということが気になりました。
もしかしたら、兄の自殺にはこのアニメが関係しているのではないかと思ったからです。
そして、兄が亡くなって以来一度も入っていなかった兄の自室に入り、みぎおくんに関する資料などを必死に探しました。
でも見つかったのは、オカルト研究会のメンバー同士が回す交換日記のようなボロボロのノートだけでした。
そこには、少しだけみぎおくんのことが書かれていました。兄が書いたものではありませんでしたが、そこにはみぎおくんについて調べていくことにに対する恐怖が綴られていました。紹介させていただきます。
『12月7日 連日雨。嫌になる。
もう、やめにしませんかね。私は、いや、私たちはなんだか、本当に良くないものに足を踏み入れてしまった気がします。
誰でしたっけ。みぎおくんの最終回について調べようって言った人。まさかこんなことになるとは思ってなかったでしょう。皆そうです。これが、これについて調べることが、こんなにも恐ろしいことに繋がってしまうだなんて。
やめたい、と何度も言いました。皆もやめよう、と言いました。自分たちの身に着実に危険が迫っていることは、ここの全員が肌で感じていました。
それなのに。
私たちはやめることができなかった。まるで何かに操られたかのように、研究を続けてしまいました。
もう、手遅れです。
私たちは受け入れるしかないのでしょう。一度足を踏み入れてしまったが最後、私たちを待ち受けているのは果てしない恐怖と死です。でも、死は怖くない、と言っていました。みぎおくんですよ。私が見た最終回で、みぎおくんはそう言っていました。あれ?本当にそんなこと言ってたっけ。わからなくなってきました。
時々、思うんですよね。〈レッツゴー!みぎおくん〉なんて作品は、そもそもこの世に存在しなかったんじゃないかって。
みぎおくんとは何だったのでしょう。あれは私たちにたくさんの人を殺めさせました。たとえ直接でなくとも、彼らが死んだのは間違いなく私たちが聞いたからです。みぎおくんについて。
もう、逃げられない。
私たちは大変なことをしてしまった。
その罪を償うには、もう』
3ページにわたって、以上の文章が書き殴られていました。字は最後になっていくうちに乱れています。
『その罪を償うには、もう』
もう、の後に来る言葉はわかりきっています。
僕はこのノートを読んで、兄たちが自殺したのはみぎおくんについて調べていたからだと確信しました。
でもその時僕は、みぎおくんについて調べようとは思いませんでした。むしろ、絶対に調べてはいけないと思いました。
調べたら、きっと兄と同じ運命を辿ってしまうからです。
でも、それが最近、おかしくなり始めました。
調べたくなったのです。
いつも通りに生活していたら、「みぎおくん」という言葉が脳内にポンと出てきました。
その時から、寝ても醒めてもみぎおくんのことが頭から離れなくなってしまったのです。
なぜかはわかりません。
でも、無性に調べたくなったのです。
みぎおくんについて、たくさんの人に聞きたいと思うようになったのです。
なぜでしょうか。
わからないって言ってるだろ。
たくさんのたくさんのたくさんの人に聞きたいと思いました。みぎおくんについて、細かく細かく聞きたいと思いました。
きっと彼らは、僕の調査に協力してくれた人たちは、死ぬんだろうという確信がありました。
ころしたくない。いやだ。
でも、聞かずにはいられなかった。
SNSで調査をした時、もっともっと広がれ、と思いました。たくさんの人に見てもらいたいと思いました。
みないで。
もう終わりです。深淵に足を踏み入れてしまったのは、私も同じでした。
ごめんなさい。皆さん。
ですが皆さん。いい知らせがありますよ。
この記事は、読むだけではみぎおくんの影響を受けません。
そんなたちの悪いものじゃありませんから。
これを書くことがやめられないんです。でも、これ以上人を殺めたくない。だから、読んでいる皆さんだけはみぎおくんの影響を受けないようにしました。本当です。
信じてください。しんじて。
誰も殺したくてやってるんじゃない。
大丈夫ですよ。
大丈夫。大丈夫。大丈夫。
みぎおくんがあなたに影響を与えたりなんかしません。
私は善人です。ありがとう。
大丈夫。心配しないで、夜はよく眠れましたか?
大丈夫。これは呪いではありません。
大丈夫。大丈夫。大丈夫。
しにはしない。
大丈夫。
笑
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