第24話
「……セイ、起きてくれ」
「どうした、もう交代の時間か?」
焚火を前に休んでいたセイだったが、交代前にレリアに身体を揺り起こされた。
怖いくらいしんと静まり返った森の中、ぱちぱちを木の燃える音だけが響いている。
虫の声も少なく、ただただ静寂が辺りに広がっている。
「違う……そうではなくて」
レリアの言葉の途中で、ガシャンと静寂を破るように金属鎧の音が森に響いた。
彼女もはっとして音の方へ向くものの動けない。
「……なるほど」
すぐ傍、という訳ではないが嫌な音だ。まだ大深林を抜けていないだろうし、どこかの騎士団の夜警歩哨の巡回ということもあるまい。
焚火の灯りを目印に夜の行軍も考えられなくもないが、危険でまず考えられない。
「リビングメイルか何かか……」
しかも複数の音がする。が、人の話し声らしきものはなく、時々叫び声が上がっているようだった。
近くでないとはいえ、暗い森の中に響く人らしき叫び声。一人だと恐怖でがたがたと震えていることだろう。
レリアが心細くなったのか、セイの傍で彼の腕を抱き締めている。
「わからない……が、一人ではどうしようもなくて……」
自分がどういう行動をしているか、理解しつつもレリアはセイを頼る。
「そうだな、俺も一人で対処は無理だろう。だが、どうする。こちらから様子を探りに行くか、それともここでじっと待つか」
腕を抱き締めているレリアの様子を見ながら問いかける。
レリアは横に首を振った。
「無理矢理動いても夜だからな……やはりここで待つしかないか。となると今日は徹夜か……」
少し距離があるとはいえ、あきらかに魔物らしき気配がするのだ。大丈夫、後任せるから、俺寝るね、という訳にはいかないだろう。
「すまないな……」
レリアが謝罪する。不安そうな表情で辺りを観察する彼女。
「いや、それはいいが……休めないと思うが、目を閉じて少しだけでも休んでおいたほうが良い。しばらくは俺が警戒するから」
「しかし……」
「このままだと二人とも持たない。俺は先に休んだだけましだし」
「そうか……ではそうさせてもらう」
レリアがセイの横で目を閉じる。目を閉じるだけでも大分違うというものだ。
「……」
ガシャンガシャンという金属音は断続的に聞こえてくるが、近付いてくるようなものではなさそうだ。
焚火に追加の木を投入しながらセイは周りの様子を気にしていた。
焚火を目印にやってくるなんてこともないようだ。
金属音、リビングメイル系統の魔物が居るということは、それ相応の理由があるということでもある。
大深林の拡大で飲み込まれた砦か何かの跡だろうか。魔素の影響で打ち捨てられていた鎧が動き出したと考えるべきだろう。
「……レリア?」
セイの腕を掴んだまま彼女は寝息を立てていた。緊張の糸が切れてつい眠りに落ちたのかもしれない。
魔素の影響から逃れるために、鎧を着けたままの休憩が続いたし、限界が来ているのだろう。
ここに来て、今までは出会わなかった魔物との戦いに緊張を強いられ疲労の蓄積はピークに違いない。
彼女の言動にも弱気なものが混じり始めた。
それでも健気にともに居てくれるというのは、謝罪と感謝両方感じている。
「……レリアは本当にいい女だな」
お前は足手纏いになるかもしれないが、野営の人員が欲しいから一緒に来いと言われて解ったといえるその心意気。男前だが、絶対悪い男に騙されて酷い目にあると思うから注意したほうがいいと思うぞ。
……まあ、もう手遅れでもあるのだが、それでも構わないと言ってしまうところが彼女なんだろう。
そんな彼女に対して俺は何をしている。……些細なことにこだわってこんな彼女を見殺しにするのかと自分に問い掛ける。
「セイ……んんっ……大胆だな……そんな、ところ……」
寝言だろうか、一体夢の中で自分にナニをされているのだろうかと思いながらセイはレリアを見守る。
自慢であろう髪の毛ももうぐしゃぐしゃで汚れてしまっている。
こんな森の中では、身支度もまともに出来はしない。けれどそれに関して彼女は文句は言わないでいる。
おそらくはかなり上の身分の女性だというのに本当にしっかりとしている。騎士としての心得を叩き込んだ上司が立派なのだろうか。
「……それに比べて」
セイは暗闇を見つめながら一人呟く。自分の何と臆病なことか。
「あ……セイ……ゆっくりと……なっ」
レリアの艶かしい寝言を聞きながらセイは一人悩み続けた。
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