第22話



「さすがに、ペースも落ちるな……」


 セイが呟く、

 何とか妖精達を退け、休息を取る二人。


 妖精との戦いで彼らは消耗していた。


 ここに来て、魔物との遭遇頻度が上がっている。魔物が強化されつつ繁殖するには、魔素の濃さ的にはこれくらいが最適だということなのだろうか。


 休息を取りながらも、油断は出来ない。


「そうだな……かなり移動したと思うのだが……」


 辺りを見回すレリア。見渡す範囲に怪しい気配はない。


「下手に迂回しすぎると、方向を見失いそうだしな……多少の荒事は覚悟していたが、このままだと厳しいな」


 セイがショートボウの矢の残数を数えている。撃ちもらしなど、拾えるものは拾っているが、移動優先のため消耗が激しいことは確かだ。

 何処まで移動すればいいか、という先が見えないだけに彼の言葉も本当かどうかは解らないのだが。


「……うむ」


 レリアが頷く。

 今までと違って、神経を消耗する。下手するとすぐに命に関わる問題と直面しているのだ。厳しいのは確かである。


「なるべくはやく抜けたいところだが……植生も変わってきてるし、何より怪しい植物が増えてきている」


 セイが指差す先には、空飛ぶ魔物。

 だが、こちらに気付いている訳ではなくてどうも動きがおかしい。

 剣の柄に手を掛けつつレリアが目を凝らしてみていると、その魔物は大きな貝が口を開けた様な植物へとふらふらと飛んでいた。


 羽根を休めるのか、それとも何かを得ようとしたのか、大きな葉の間に魔物が降り立つと、ぱくりとその植物はその口を閉じて魔物を捕らえてしまう。


「ヴィーナスフライトラップ……大きなハエトリソウみたいなものか」


 ただ、セイの知っているハエトリソウはゆっくりと消化液で獲物を消化するような肉食性植物だったが、目の前の植物は捉えた後は、咀嚼するように激しくその口を動かしている。


「しかも、あれだけの動きをするってことは……動く可能性もあるな……やっかいだ」


「……」


 おぞましい光景を前に冷静に観察するセイとおぞましさに身体を震わせるレリア。

 ぐしゃぐしゃという音がこっちにも届く。


「激しい食事だ、うかつに近寄れないな……ふらふらとハエだかトンボだかの魔物が飛んでいったのも気になる。何か誘因効果のある匂いを出しているのかもしれない。それが人にどう作用するかは解らないか試したくはないな」


 油断無くヴィーナスフライトラップを観察しながらセイが推測を述べる。


「そうだな……」


 セイの言葉に同意するレリア。妖精の粉に幻惑された身としては得体の知れない匂いとか言われると反射的に避けたくなってしまう。


「ともかく安全に休める場所を探そう……」


 そんな場所があるのか解らないが、緊張で消耗する精神や累積してくる疲労と戦いながら二人は魔物の森を進んでいった。


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