第7話



「何もないな……これはまた見事に綺麗に掃除されている」


 セイはギルドグループとしてライたちと一緒にディッテニィダンジョンへと潜っていた。とはいえ、先行する騎士団があらかた魔物たちを倒しているので後詰のギルド冒険者たちは苦労することなくダンジョンを進んでいる。


 それでも、時折魔素溜まりと呼ばれる場所から魔物が出現するが、ベテラン冒険者たちの敵ではない。その魔物のリポップも特別な魔物が出るという報告はなくいつもの冒険初心者向けの魔物ばかりである。


 迷宮内も特に変わった様子はなく、変質化の兆候もない。

 ちなみに変質化とはダンジョンの難易度が急に変わるような変化のことで、出現する魔物たちが何段階も強くなったり、ダンジョンの構造が変わったり、それほど階層がなかったはずのダンジョンが、何十層という複雑なダンジョンになったりというもので、観測例がない訳ではないがとても珍しい現象である。


「そうね……これだと私達は必要なかったと思うわね」


 ライのパーティの前衛を努める剣士の少女が目の前の光景に感想を述べる。

 殺風景なダンジョンの通路、先行隊が踏破して、だたの地下の通路と化していた。


「リーシャ不満そうだね」


 ライが苦笑いを浮かべる。


 リーシャと呼ばれた少女剣士。見目麗しい白金色の長髪をポニーテールにまとめ、大剣を振り回すライのパーティにおけるアタッカーである。

 それだけに活躍の場がないというのは非常に不満らしい。

 まあ大剣だと狭い通路では制限された戦いになるので、今回は片手剣を持ってきているのだが。


 青灰色の瞳がライを捉え彼に不満を訴えている。


 もともと釣り上がっていてややきつい印象を与える彼女だが、あきらかに不機嫌が原因でいつも以上に目が釣りあがっていた。


「そりゃそうよ。お偉いさんの思惑とかまったく知らないけど、これだけの人数集めて何もないなんて……」


 そこまで口にしてはっとなるリーシャ。


 ライはその視線を受けて肩を竦める。


「その辺りはギルドも気にしてたし大丈夫だと思うよ。ベテラン冒険者も街の方に待機してもらってるのも何人も居るし、問題はないみたい。このダンジョンに人を集めて何かを企むってことじゃないみたい」


「……そう、ならいいんだけど……セイはどう思う?」


「解らん。がまあ実入りの良い依頼なら楽できていいんじゃないか? もちろん油断はしないほうがいいと思うが……。そういや、この先に広場みたいなのあったろ? 確か」


 セイが辺りを警戒しつつ進む。魔物の気配はなく、お気楽に進む別パーティの話し声が通路に響いているくらいだ。


「うん、あったね。そういえば……特に何かあったっていう記憶はないけど」


 ライがギルドから提供されたダンジョンマップを思い浮かべながら答える。実際に行ってみたこともあるが何にもない空間だった。おもわせぶりな石碑みたいなのはあったが、触ってみても何も起きなかった。


「何かあるなら、たぶんあそこだろう。今回突入した冒険者、騎士団が集結してもまだ余る広さなんておかしいし、集まることを想定したものがある……かもしれない」


「でも散々調査した後だし……」


「ほかに心当たりがないし、何かあるとしたら程度の話だ。気にすることはない、単なる与太話だ」


 セイはそういいながら、あれ? これって何かをフラグを盛大に立てていないか? と自分の発言の迂闊さに危機感を覚える。


「そうね、そんなこと滅多にないよね」


リーシャがセイの言葉を受けて呟くが、セイにはその言葉もフラグにしか思えなかった。


「……」


「……」


 何か思うところあるのかリーシャがセイを見つめる。セイもリーシャを見つめる。

 二人は息を合わせたかのようにライに視線を向けて溜息を吐いた。


「ん? 何? どうしたの二人仲良く」


 ライは二人の心情を知ってか知らずか、首をかしげて無邪気に笑っていた。


「変なの」


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