第5話
ディッテニィダンジョンはセイが現在活動拠点にしている街からさほど遠くない場所に存在するダンジョンである。
古代遺跡の建造物の延長あるいは融合で出来たと思われる小規模なダンジョンだ。
ただ遺跡に何らかの力がまだ残っていると推測されていて、他のダンジョンに比べて、魔物の出現頻度、強さ共に低く、比較的新人の冒険者でも挑むことの出来る迷宮として親しまれている。
「さしずめゲームならチュートリアルダンジョンと言った所か」
初心者に向いているダンジョンとされているディッテニィダンジョンだが、罠も仕掛けられているし、油断をすれば命を落とすことだってある。まあ、魔物が闊歩するこの世界において死はそんなに遠い存在ではない。
準備を怠ればすぐに死神においでおいでされてしまうものだ。
チュートリアルのようなナビゲートもなければ、絶対に死なないでクリアさせるような仕組みも当然ながらない。
ゲームのようであってゲームのようでないこの世界。死んでもよほどでない限り生き返れるなんてことはないので、慎重を期して挑む必要があるのだ。
……未踏覇ダンジョンを我が物顔で闊歩する凄い奴もすぐ身近にいるというものまた凄いところではある。
ともかく、この世界に来てからセイが最初に挑んだ迷宮ディッテニィダンジョン。
またここに来ることになるとは思わなかった。
魔物が少なく比較的安全、ということはその分魔物を退治しての報酬も少なく、いわゆる美味しくないダンジョンということで、普段はそれほど人も居なくひっそりとしている。
そんな迷宮がこれほどまで賑わうことになるとは思わなかった。
「随分と人が来てるね」
なかなかの大規模攻略になっていることにライがはしゃいでいる。
「こんな迷宮に一体何があるっていうんだろうな」
ギルドから派遣された冒険者数十人と、装備を固めた騎士団らしき集団と補給の部隊。一体この迷宮に何があるのかと思ってしまうのだが、その辺りの情報は特に流れてきていない。
この迷宮の管理は新人冒険者でも攻略できる難易度、そして突然変異的な進化も今のところ起こっていないということで、ギルド協会の管理下管轄となっている。
急に強力な魔物が出てきたりしてないか、定期的にギルド職員や中堅冒険者を派遣したりして、監視も怠ってはいないものの、安定しているしギルドだけで対処できると思われている、そんなダンジョンなのだ。
そこに騎士団が大挙して押し寄せてくるなんて、一体この迷宮に何が起こったのか、あるいは起こるのか。
ギルド側もかなり混乱して、一応自分たちの領分ということで信頼できる冒険者たちを監視ではないが、何かあったときのための保険として随行させることの許諾を得たのだ。
そもそもギルド管理下であるのだから、好き勝手に騎士団にさせる訳にもいかない。
騎士団側も、先見の言葉の『多くの者と共にダンジョンに向かうことで』というくだりもあってかギルド側の人員を受け入れることにしたのだ。
とはいえ、攻略の中心には次期女王と目される姫騎士様が据えられるということで、混成パーティのような、暗殺を含め何が起こるか解らない組み合わせでなく、完全に別部隊別働隊としてギルドの冒険者は独立した位置にあった。
もちろん積極的に騎士団との交流を深めるなんて事はない。
「こうして見るとなかなかの趣があるなぁ」
魔力を帯びた柱が立ち並ぶ遺跡を見つめる。最初にここを訪れたときは、そういうところに目を向けるような余裕もなく、ただただ生き残ることだけを考えていたな、などと昔のことを思いながら、今ではこうして眺める程度の余裕が出来たと自分の成長をかみ締める。
とはいえ、油断したら何かのフラグが立ちそうなので、そういうことは口にしない。
「何かがありそうというのも解る気がする……ってライ何をしてるんだ?」
「いや、ここってどうみたって新人向けのダンジョンじゃない? 実際そうだし、安定もしているよね。なのになんで今あんなにごっつい騎士団がやってくるのかなーと思って。ここに何かあるとかどうだろうと思って」
そういいながら遺跡の柱を触ったりしている。まだダンジョンの入り口にも入っていないのに……まあ魔力を帯びてたり怪しいのは怪しいけれど、調査の結果、魔物避けの結界機構ではないかという推論が出てそれっきり調査は打ち切られていた。
「何かありそうか?」
「んー特に怪しいと思うところはないかな……」
ぺたぺたとあちこちを調べながら答えるライ。むしろ怪しいところがあったら即フラグが立ちそうなだけにほっとするセイ。
「そうだよな」
冠する名前は意味深ながら、ロマンと趣はあるものの新米向けだと言われているダンジョン。表の遺跡部分はそこそこ広いが中に関しては深くも広くもない印象だった……たぶん。
「ここに何かあるという話は聞いたことないしなぁ、本当に不思議だ」
セイは騎士団の拠点を見ながらそう呟く。高貴なお方の姿でもみられればと少しだけ思うものの残念ながらその姿を確認することは出来なかった。
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