第50話「期末面談Ⅱ」

「実は、今日君を呼んだ理由は他にもあるんだ。フューカインドの階級については知っているね」


 仲沢の言葉に友菜は頷く。


 フューカインドにはC、B、A、Sと社員にランクがつけられており、それぞれのランクの中にも10級〜1級まで分けられている。


 新人である友菜たちはC10級が割り当てられ、Bランクはリーダークラス(井場はB10級)、Aランクは課長クラス、Sランクは部長クラスとなり、一番高いS1級に仲沢や鷲山銀華といった取締役たちがいる。


 ランクの昇格・降格はその年の働きぶりによって決まる。特に円卓決議の戦績は昇格に大きく関わってくる。


 仲沢は続けた。


「君の今年の働きぶりは素晴らしかった。三賀森物産との契約締結、円卓決議の戦績も二勝〇敗と申し分ない。私としては、特例で君をAしても良いのではと思っているのだが、どうかな」


 友菜の鼓動が高鳴る。


「もちろん、昇格するにあたって査定を受けてもらう必要がある」

「査定、ですか?」


「難しい試験を課すわけじゃない。Aランク相当の仕事を担当し、問題なく仕事がこなせるようだったら晴れてAランクに昇格することができる。まぁ、それ以外にも方法はあるっちゃあるけど」


 友菜は真顔で考え込んだ。


 ランクについては入社時の研修で学んだことがある。階級が上がれば上がるほど、使える権限も増え、給料も大幅にアップする。


 でも、それが正しいことなのか。給料が上がり、レベルの高い仕事に携わることが正しいことなのか?


 三賀森物産の人々の顔が浮かぶ。

 人を助けることに上も下もないはずだ。

 なら自分は——


「大変ありがたいのですが……」と友菜は切り出した。

「あたしには分不相応と言いますか、あたしは今の仕事に満足していますし、出世も正直そこまで興味がないんです。偉くなるよりも大切なことがあると思っていて……」


「それはそうだね」仲沢は頷く。


「あたしは、もっと身近な人を助けたいんです。三賀森物産みたいに自分が守れるものを一つずつ増やしていって……。それで、もっと大きな仕事をしたい、と思うようになったら、改めてご提案いただけますでしょうか」


 仲沢は何よりもまず部下の意思を尊重する。たとえ自分の提案を断るようであっても、そこにしっかりと理由があるのであればマイナスな評価は下さない。彼は穏やかに「わかった」と言った。


「それで、もし可能ならでいいのですが、その査定用の仕事を別の人に斡旋というか、紹介することはできないでしょうか」


 仲沢は片眉を上げる。


「つまり、君よりもAランクに適性がある社員がいるということだね。誰だろう」

「茉莉乃……じゃなくて、渡邉さんです」


 仲沢の目が少し大きくなる。


「渡邉くん……。またどうして」

「彼女、ここに配属されてからすごく頑張ってると思うんです。夜遅くまで資格の勉強をしていて、大きな仕事をしたいとも言っていました。きっと彼女の方があたしよりAランク社員にふさわしいと思います」


 仲沢は「わかった。検討しておこう」と言うと、ソファから立ち上がった。


「話は以上だ。引き続き、職務に邁進してくれ」

「ありがとうございます!」


 友菜が部屋から出ていったことを確認すると、仲沢は自分のデスクに寄りかかった。


 とても大きなため息を吐く。


「羽坂くん。もし君に弱点があるとすれば、それは他人の気持ちを推し量れないことだよ」


 彼の言葉は誰にも届くことなく、オフィスの空気に溶けていった。





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