ポットク鉱山②(下) ノーサ
私の名前はノーサ。この町に住む老炭鉱夫のケルトン爺の娘。
…って言っても本当の娘じゃないけどね。
ギデサルムでも一流の鍛治師が揃うこのポットク鉱山で私は師匠の元で、一人前の鍛治師になるまでに、日々努力している。
しかし、現実は残酷だ。人間である私は、師匠の弟子の中でもかなり浮いた存在であるからだ。師匠は人間である私を快く迎えてくれたが、雑用ばかりで今だに鉄火場に入った事はない。
しかし、私は諦めない。町外れの使わなくなった廃工房を貸してもらい、毎日こんな風に錬成や鍛治の練習に勤しんでいるのだ。
「よぉ、こんな町はずれの廃れた鍛冶場で女が一人で何をやってるんだ?」
「誰っ…!?」
私は置いてあった小刀を手に取り、暗闇に潜むソイツに向ける。
「待って!!別に俺は君を襲いにきたとかそうゆうのじゃなくて…」
まさか小刀を向けられるとは思わなかったのか、暗闇からの声は慌てたようにそう言った。
「ん?よく見たらアンタ…さっき爺ちゃんと一緒にいた奴じゃないの?」
********
その女性は一時的に警戒を弱める。
「ほっ…良かった、俺はレント。ここで一体何をしてるんだ?」
俺は率直な疑問をノーサと呼ばれた女性に投げかける。
「別に、あんたには関係ねぇよ。さぁ帰った帰った」
ノーサは不貞腐れたように俺に言った。
と…ふと俺は、地面に落ちている紙を拾う。
「これ…鎧の設計図じゃねぇか。お前が作ったのか?」
「作ってない、ただ書いただけ」
「へぇー…よく出来てるじゃねぇか。俺の村の鍛治師と大差ないくらい上手い」
俺は率直な意見を彼女に言う。
「そ、そう?悪い気はしないけど」
彼女は照れながら言った。
…これはいける!と思った俺はそのまま本題に切り出した。
「ケルトンさんから話は聞いた。ずっと家に帰ってないんだってな」
ノーサは俺が言ったことに対し、嫌々ながらも答えた。
「あの爺さん…?別に家なんか帰らなくたっていいでしょうに。だって私は遠くにいなくなるわけもなければ、死ぬわけでもないんだし…」
「ケルトンさん、自分の事すごく責めてたぞ。どうしてお前のことを素直に応援してやれなかったのか、どうして彼女の夢を否定してしまったのか。それが彼から出てきた言葉だった。帰ってあげろよ…お前に謝りたいってさ」
彼の思いを俺は言葉にして、代弁した。
「何を今更。そんな今更謝罪程度で私たちの関係は変わらない。結局爺とはそれまでの関係だったってことだよ…」それに対し、彼の思いはノーサへ届かない。
まずいな…話がどんどん悪い方向に向かっている。一旦この話は切り上げるか……
「そう言えばノーサ。お前はどうして鍛治と出会ったんだ?」
と俺は話を切り替えた。
すると、案の定一番聞いて欲しいことを聞かれたなのか、ご機嫌になったノーサは話を続けた。
「そりゃあ、一番大きいのは師匠との出会いだな。私と師匠の馴れ初め、聞かせて欲しいか?」
俺はノーサの問いに対して、首を縦に振った。
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