第9話 ミミの告白

学校を休み始めて、一か月が経った。単身赴任中のパパが久しぶりに帰ってきている。


「ミミが学校に行かなくなったのは、全部パパのせいよ!」

ママはそう言いながら、パパの背中をバシバシ叩いた。パパは痛そうに顔をしかめていたけれど、反論はしない。ママの性格を知り尽くしているからだ。


――ひどい。

パパは、世界でたったひとり、ミミの味方なのに。

リコちゃんはもう友だちじゃない。

学校の先生も、クラスのみんなも敵。

味方は、パパしかいない。


だから、ミミは決意した。

――ママを殺す。


こんな親子、どこにもない。

だから終わらせる。


計画は練った。

場所はあの調整池。

毎日ジョギングで走らされ、心がすり減った思い出の場所。


「ジョギングの時間だよ」

ママを連れ出し、いつものコースを走る。

そして、あの石の前で足を止めた。


「ママ、座って」

「もう疲れたの? 弱虫ね。……明日から学校に行きなさい」


――誰のせいで学校に行けなくなったと思ってるの?

分かろうともしない。


「ママ、目をつぶって。手品をしてあげる」

「へえ? 手品? ……新しい世界を見つけたのね」


ママの両手をロープで縛り、さらに足も縛った。


「どんな手品なの? 一瞬でほどけるとか?」

「違うよ。ママが死ぬ手品」


その瞬間、胸の奥がざわついた。

これは復讐。支配の終わり。


30分後。

校長先生、担任の葉月先生、その恋人、そしてユーチューバーのKONTOさんが到着するはずだった。

メールも送った。コメントも残した。

必ず来る。


ママの後ろから声をぶつける。


「ママが嫌い。二度と顔を見たくない」

「何を言うのよ」

「ゲームも、漫画も、みんなと同じものが欲しかった!」

「……え?……そうなの? 知らなかった」

「回るお寿司だって行きたかった!」

「くだらない。商業主義に踊らされたいの?」

「そういうママが大嫌い」


「……やめなさい。ロープを解きなさい」


そのとき、声がした。

「……これは、いったい……」

校長先生たちがやってきたのだ。


驚く大人たちを前に、ミミは涙を流した。


「家にいる時間は地獄なんです。

何もかも決められて、できなければ罰。……増えていく罰。

だから嘘をつきました。先生を悪者にすれば、その時だけママが優しくなるから……」


校長先生が低く言った。

「つまり、嘘だったんだね」


KONTOさんがカメラを向ける。

「皆さん、これは教育虐待です。加害者は……この母親です!」


ママが青ざめ、ミミはポケットからナイフを出した。


「これで終わりにする」

首に刃をあてる。

                

――その時。

背中から抱きしめられた。


パパの匂い。

「パパ……?」


「分かった。ミミ、もういい。

パパと二人で暮らそう。ママとは別れる。

二度と会わせない。みんな、聞いてましたね?

ミミは転校する。俺が守る」


パパがナイフを奪い取り、池へと投げ捨てた。

水面に輪が広がり、刃は静かに沈んでいった。


ママは崩れ落ち、泣き叫ぶ。

校長先生は葉月先生に言った。

「戻ってきてくれませんか」

けれど、先生は答えず、恋人が首を振った。


警察官が現れ、ママの縄をほどいた。

ママは震えながら言った。

「……ごめんなさい」


――この光景を、ミミは絶対に忘れない。

一生、忘れない。

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