五一.これからの話
かつらとリュウが洗濯をしている間、
「このズック、カイとリュウにどうかな」
康史郞は木箱から出てきたズック靴を取りあげた。
「ヒロさんは、鍵をくれた時に『足りないものがあったら好きに使え』って言ってた。折角だから店番代としてもらおうか」
カイはズックを見つめながら言った。
「ヒロさん、分かってるじゃないか。俺も店番すれば良かったな」
康史郞は冗談っぽく笑う。そこに隆がやって来た。
「カイ君、洗濯物をどこに干せばいいか教えてくれないか」
「ヤマさんたちはいつもリアカーの周りに引っかけてたんだけど、今ミシンの布が掛かってるんだよな」
カイは考え込む。康史郞が言った。
「家みたいに洗濯紐があれば中に干せるんだけど」
「麻紐で良かったらあるぞ」
「それなら中に引っかける場所を作ろう。カイ君、トンカチと釘を探してくれないか」
隆は片付けで出来た空間を見つめた。
カイと康史郞が麻紐をより合わせ、二重にしてから隆の打った釘の間に渡す。試しに洗濯物を干してみると垂れ下がることなく引っかかった。リュウの服だけではなく、カイの下着も干してある。
「これで仕事中に雨が降っても大丈夫だし、洗濯物も取られる心配がなくなったな」
カイも満足気だ。
「みんな、遅くなったけどお昼にしましょう」
かつらとリュウが戻ってきたので、皆は休憩を取ることにした。蒸したサツマイモと水筒のお茶という簡素な食事だが、働いた後なので何よりのご馳走である。
「これから君たちがここで暮らすとしたら、役所に届け出もしないといけないな」
「それがいいわ。配給や衣料切符がもらえれば今より暮らしやすくなるし、今度ヒロさんに会ったときに相談してみて」
隆とかつらのアドバイスを、カイとリュウはうなずきながら聞いている。
「僕も康史郞がやってるみたいに、洗濯や裁縫、料理をもっと覚えたいな」
リュウの言葉に康史郞が張り切って声を上げた。
「よし、じゃ頑張って教えるか」
「代金は払わないぞ」
カイの突っ込みに一同は笑った。代わりに康史郞が尋ねる。
「それじゃ、今度古い毛糸の湯のしをしたいんだけど、湯のしの道具はないかな」
「明日わたしが繕い物を受け取りにお店に寄るから、探してもらえないかしら。もちろんお金は払うわ」
かつらの頼みにリュウはうなずいた。
「分かったよ」
「しかし、まだヤマさんと組んでたヤクザがいるからな。もしかしたらここやお店、あるいは
「『まつり』のおじさんにも助けてくれるよう頼んでおくわね」
隆とかつらの言葉を聞いた康史郞は考え込んだ。
「そうだよな。あの店はヤマさんの店だし、正式にヒロさんがもらったわけじゃないもんな」
「ヤマさん、これからどうなるんだろう」
心配そうに目を伏せたリュウの肩にカイが手を置いた。
「ヤマさんには世話になったけど、どこかでやり直してくれればいいさ。それより俺たちがやり直さないと」
「うん、頑張ろう」
リュウは顔を上げた。
なんとか片付けも一段落し、かつらたちはカイとリュウに見送られて帰宅の途についた。
「ミシンの件、修理のめどが立ったらよろしくお願いします」
かつらの言葉に隆はうなずく。
「もちろんだよ」
「ところで、今度の
「私がご一緒していいんですか」
隆が問い返す。
「ええ、もうすぐ兄たちの命日なので」
「姉さん」
康史郞は驚いてかつらの顔を見た。
「康史郞にも、隆さんにも、聞いて欲しいことがあるんです」
かつらの目には決意が宿っていた。
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