第23話
授業が終わると、わたしはすぐに一人で教室を出た。
まっすぐ帰路につく。2日連続で一人ははじめてだった。
みさきはあの瑠佳って子と寄り道するらしい。
べつに邪魔する気はないし、好きにすればって思う。だから話が面倒になる前に、さっさと身を引いた。
わたしの直感は当たった。
直感というか、嫌な予感。
急にうじゃうじゃとみさきの周りに人が寄ってくるようになった。
いったい何が起きてるの? 昨日、わたしがちょっと目を離したすきになんかやってたってこと?
ほんの一日でこれって、このまま放っといたらどうなっちゃうの?
みさきもみさきで、はっきりしない。
言われるがままに流されてる。男子には強く出たりするけど、女の子には甘い。
優柔不断なのは昔からだ。そういうとこ直してほしい。
いい加減、みさきがなに考えてるかわからなくなってきた。
……いや、おそらく考えているであろうことはわかる。手に取るように。
他の子と仲良くしてみせて、わたしに嫉妬させようとしてるらしい。
もう見え見えすぎて呆れた。かわいいとすら思えた。
けどだんだん腹が立ってきた。
そんなので嫉妬すると思われているのがむかつく。そして実際イライラしてしまっているのがむかつく。
莉音とじゃれてるのすら気になるなんて、どうかしてる。
みさきからすればしてやったり、なんだろうけど、きっと本人が思ったより周りにグイグイ来られて断れなくなってる。引っ込みがつかなくなってる。
思いつきで行動して、先のことなんてちゃんと考えてない。ばーか。
……はあ。
わたしってやっぱり、嫌な女だ。
そこまでわかってて、怒ったふりして、いや本当に怒ってはいるんだけど、みさきのことを突き放してきた。
でもそもそもの話、わたしが悪いよね。
きのう、みさきの口から好きって言われたのに、変なひねくれを起こして、おかしなこと言って。
みさきが変なことやり始めたのも、わたしがちゃんと言わないのが悪い。
自分の気持ちをごまかしてるくせに、相手には求めるって、ずるいよね。
もうやめよう、こんなの。意地悪はもうやめる。
わたしも、ちゃんとみさきの気持ちに応えよう。
わたしもみさきが好き。だから他の子と仲良くしないでほしい。わたしだけ見てほしい。
そうやって、ちゃんと言う。
最初からそうすればよかったんだ。
電車を降りた先で、少し回り道をしてスーパーに立ち寄った。
今日は晩御飯に、みさきの好きなハンバーグを作ってあげることにした。
合いびき肉と、玉ねぎ。卵とパン粉はまだあったはず。
付け合わせにブロッコリーと人参……はみさきが食べないから、ポテトとコーン。たぶんそんな時間ないし、こっちは冷凍のやつでいいか。
ちょっとしたデザートにフルーツゼリーなんかも買った。
それからまっすぐみさきの家に帰宅。
変な感じだけど、昨日もそうだった。でも今日は隠れる必要はない。
うちにlineで一報入れて、みさきには一応サプライズにしたいから、黙っておく。
キッチンで下ごしらえを始める。
たまねぎを刻んで炒める。こねたお肉をまな板に叩きつける。ストレス解消。
できあがったものを一度冷蔵庫へ。
慣れたもので、六時前には下準備が終わった。
いつ帰ってくるかわからなかったから、そのままリビングで待つ。
ちょっと寄り道する程度なら、そんなにかからないはず。てか、遅くない?
一回電話したほうがいいかな?
でも電話するのもなんか変だし。なんて言ったらいいかわかんないし。
lineしてもよかったけど、なんて送る? それにやっぱり驚かせたいし。
わたしはソファにもたれながら、テレビを垂れ流しにしていた。けどすぐに消した。
なんだかそわそわしてきて、意味もなく部屋の中をウロウロした。
一度洗面所に行って、鏡の前で髪を整えた。
鏡の自分に向かって笑いかけてみる。笑顔の練習。
みさきは制服にエプロンがかわいいって言うから、あえて着替えなかった。
エプロンもつけたまま。
なんかこれって、変なプレイみたい?
目を閉じて、みさきを出迎える姿を想像する。
驚いた顔のみさきが立っている。わたしは笑いかける。
急にドキドキしてきた。なんて言おう。
意地悪してごめんね。べつに怒ってないよ。
わたしも、みさきにちゃんと言いたいことがあって。
でいけるかな?
でも肝心のその後が……。
好きです、付き合ってください……? はなんか変かも。
付き合うとかじゃなくて……一緒にいたいです? 一緒にいて? わたし以外の子と仲良くしないで?
違うな、告白じゃなくて命令になってる。
なんで命令したがるんだわたし。
そんなことをしているうちに、時刻は七時半を回った。
わたしはテレビもなにもつけずに、リビングのソファで横になっていた。
いい加減わたしもお腹へってきた。
ご飯は2人分用意してあるから、先に食べられなくもない。でもそれやったら台無し。我慢する。
けれど、いくらなんでも遅い。
もしかして帰りになにかあった?
心配になって何度目かのスマホ確認をする。連絡も何もない。
そのとき通路の方から、がたん、と音がした。
家のドアが開く音だ。わたしは猫のようにすばやく身を起こした。すこし遅れて、足音が近づいてくる。
「未優? いるの?」
通路からみさきの声がして、心臓が激しく脈打ちだした。
わたしは胸に手を当てて、大きく息を吐いて、吸って、立ち上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます