第12話 過去との因縁に決着を

「いや~今日からやっと海星と暮らせるね?」


「だね。まあ、やっとって言っても僕たちが出会ってからそんなに時間は経ってないけど。」


「こういうのは時間じゃないの!」


「確かに。」


 紫苑の言う通りだ。

 僕はつい最近関係値は時間と比例しないと学んだばかりじゃないか。


「今日も一緒に帰ろうね!」


「もちろん。僕は紫苑を送ってからいったん家に荷物を取りに行くね。」


「うん!じゃあ、もしかして夕飯は海星が作ってくれるの?」


「もちろん!今日は同棲初日だし紫苑が食べたいものを作るよ。」


「本当!?」


「うん。荷物を紫苑の家に置いたら食材を買いに行こうか。」


「うん!楽しみだなぁ~」


 本当に嬉しそうにそう言ってくれる紫苑を見ているとなんだか僕まで幸せな気持ちになってくる。


「じゃあ、午後の授業も頑張らなくちゃ!」


「だね。適当に頑張るよ。」


「だめだよ!授業はちゃんと受けないと!」


 怒られてしまった。

 やっぱり紫苑は真面目だ。


「はい。」


「よろしい。じゃあ、頑張ろっか!」


「はいよ。」


 こうして僕たちはそれぞれの教室に戻った。

 この後の授業も特に問題はなく終わった。

 もしかしたら、僕の顔が少しにやけていたかもしれないけどそこは仕方がないと思う。


 ……………………………………………………


「待ちましたか?」


「待ってないよ。じゃあ、行こうか。」


「はい。」


 僕は自然に紫苑の手を取った。

 少し驚いたかのように目を見開いていたけどすぐに僕の手を握り返してくれる。

 その行動に周囲の視線はすぐに集まる。

 やはり、男子からは悲鳴が女子からは黄色い歓声が上がっていた。


「なんか周りから見られてるね。」


「そうですね。でも、昨日も手をつないだ時こんな感じでしたよ?」


「そうだったね。まあ、早いとこ帰ろうよ。」


「ですね。今日は楽しみです!」


 紫苑の手を握りながら僕たちはいったん紫苑の家に向かう。

 とはいっても今回は紫苑の家に滞在することは無くいったん家に荷物を取りに帰るんだけど。


「ねえ、海星の彼女って藤音 紫苑なの!?」


「なんだいきなり。関わらないでくれって何回も言っているはずだが?」


「うるさい!海星を返してよこの泥棒猫!」


「泥棒猫ってお前何言ってるんだよ。お前が僕を捨てたんだ。紫苑はそんな僕を助けてくれただけだ。お前がそんな暴言を言う資格はない。わかったらどこかに行ってくれ。そして僕と紫苑に関わらないでくれよ。」


「いやだ!あれは冗談だったの。だからもう一回私と付き合ってよ。」


「それは無理ですよ。海星はもう私の彼氏ですから。」


 僕と茜の間に割って入った紫苑はどこか怒っているように見えた。


「外野は黙ってて!」


「外野ではありません。私は海星の彼女なので当事者ですよ。私は海星を手放す気はありませんよ?私は彼が大好きですから。」


「そんなのあなたが決めることじゃないでしょ!誰と付き合うかは海星が決めることよ!」


 どうやら、僕は本当に紫苑に好かれているらしい。

 こんな形でなんだけど確認出来て嬉しい。


「そうだな。誰と付き合うか決めるのは僕だ。だから茜と付き合う気なんて微塵もないし僕も紫苑と別れるつもりなんて毛頭ない。だから金輪際関わらないでくれ。」


「なんでそんなこと言うのよ、、私は本当に貴方のことが、」


「海星行こう。」


「うん。」


 僕たちはそれだけ言い残してその場を後にした。

 校門の前で言い争っていたためかなりの数の人に見られていたけどそれはしょうがないだろう。

 振り返ると茜は膝から崩れ落ちているけどそんなことはどうでもいい。

 これから僕と紫苑の同棲生活がやっと始まるのだ。

 過去を清算できたと思えばよかったのかもしれない。

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