第9話 僕だけが知っている完全無欠の素顔
あれからは特に何もなく一日の授業が終わった。
茜に話しかけられるかと少し心配ではあったけどそんなことは無く放課後を迎えることができた。
ホームルームも終わり後は昇降口で紫苑を待つだけだ。
「待ちましたか?海星。」
「いや?全然。僕もちょうど今来たところだったから。」
まだ学校の中だからか敬語で話しかけてくる紫苑はやっぱりどこからどう見ても完全無欠の生徒会長といわれるにふさわしいと思う。
それと同時にみんなが知らない紫苑を僕だけが知っているというのはなんだか優越感を感じる。
「じゃあ、早いうちに帰りましょう。」
「うん。」
こうして学校内を二人で歩いていると周りからの視線がすごい。
でも、そんな嫉妬の視線すら少し気持ちがいいと思ってしまうのは僕の心が醜いからだろうか?
「そういえば、今日は話しかけられなかったのですか?」
「うん。話しかけられなかったよ。なんだか暗かったけど僕にはもう何も関係ないことだから。」
「意外と容赦ないですよね。」
「そうでもないよ。あんな経験をすれば多少はね。」
あんな経験は二度とごめんだ。
もし、紫苑があの時僕のことを見つけてくれなかったらもしかしたら死を選んでいたのかもしれない。
そう考えると紫苑には本当に感謝しかない。
「なんで少し顔がにやついているのですか?」
「いや、紫苑と出会ったときのことを思い出してね。」
「それでなんでにやついているのですか?」
「付き合うまでの期間は本当に短かったけど僕はちゃんと紫苑のことが好きだと思ってたらつい。」
「、、、そうですか。」
「なんか顔赤くない?」
「そんなことないです。きっと海星の勘違いですよ。」
頬を真っ赤にしながら紫苑は俺から眼をそらした。
こういった行動一つ一つが本当に可愛らしい。
学校では完全無欠といわれているだけあって真面目な紫苑だが家ではそうじゃなくなる。
そのギャップがまた可愛い。
「まあ、それは良いとして今日紫苑の家に寄って行っていい?」
「いいけどどうしてですか?」
「いや、晩御飯を作ろうかと思って。」
「いいの!?」
「もちろん。紫苑は本当においしそうに食べてくれるからこっちとしても作り甲斐があるよ。」
本当に自分の作った料理をおいしそうに食べてくれると、また作ろうという気になるのだ。
それに、放っておくと碌な食事をしなさそうで心配というのもある。
「じゃあ、お願いします!」
「任せといてくれ。」
両親に帰りが少し遅くなる連絡を入れてから俺たちは紫苑の自宅に向かった。
一日ぶりに紫苑の家に訪れたがさすがに部屋はまだきれいなままだった。
流石にここで汚部屋に戻っていたらさすがに泣いてしまっていたかもしれない。
「冷蔵庫には前に買った食材が残ってる?」
「うん。何一つ使ってないからね!腐る前に全部使っちゃって!」
「はいはい。」
紫苑はもう家なのでいつもの生徒会長モードではない。
おそらく僕だけが知っている本当の紫苑だ。
今日の晩御飯は何にしようか。
僕は家で食べるからいいとして、紫苑は何が食べたいだろうか。
「何かリクエストはある?」
「う~ん。特にないかな?」
「了解。」
料理を作る側としては一番困る返答が来たけど、そうだな。
よし!カレーにしよう。
カレーなら二日くらいもつから紫苑も晩御飯に困らないはずだ。
「やりますか。」
袖をまくって手を洗いカレーを作り始める。
材料は冷蔵庫にあったし、時間もたくさんある。
でも、今日は一緒に晩御飯を食べることができないのが残念でならない。
…………………………………………………………………………………………………
そうこうしているうちにカレーが出来上がった。
意外と時間がかかったため、すぐに帰らないといけない。
「本当に帰っちゃうの?」
「うん。今日は家で晩御飯を食べるから、ごめん。」
「いやいやいや。全然謝らないで!?作ってもらったのはこっちだから!」
「うん。じゃあ、また明日学校でね。」
「はい。また明日。」
そう告げて足早に自宅に向かった。
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