ヴァンパイアの連続殺人事件<3>

打ち合わせ通り和司は高台に登っていた。その近くで弘也はスタンバっている。


『いつでもいいぞ、カズ』


木剣を持った弘也はいつでも走れるように構えていた。


『来たぞヒロ。西の方角。デカいコウモリだ』


弘也の合図で弘也は走りだした。


『おい、全然見えないぞ。本当にこっちか?』


『ずっと遠くだ。まだ飛んでいる』


弘也は全然見えないヴァンパイアの姿に内心焦りを感じ始めた。


『まずい!コウモリの姿が消えた!』


『何だと?!』


家の中に侵入したか。被害者が出る前に取り押さえられるか。弘也は走るスピードをさらに上げる。


『ダメだ!逃げられた!!』


「くそっ!!」


和司の無念の言葉に弘也は走るのをやめて地面に木剣を叩きつけた。


結局、ヴァンパイアを取り逃がしてしまった訳だが、南東へと飛び去っていくコウモリを和司は見逃さなかった。


「街の外壁まで飛んでいった?あっちの方向に何があるんだ?」


『俺はこのままヴァンパイアがコウモリが取り付いた家に行って被害を確認する』


「分かった。俺もそっちに行く」


当該の家に事情を説明して子供の部屋に入れてもらうと、ベッドに横たわったままぐったりしている娘の姿があった。まず両親が取り乱さない様に部屋の中には入れさせずにランタンの灯りで遺体の検視を始めた。この遺体も左頸動脈に二つの刺傷。同一犯の仕業だと断定された。その後、部屋の外でオロオロしている両親に亡くなった旨を話した。その瞬間両親は泣き崩れる様に座り込んでしまった。




−−翌日、ギルド


「何やってるんですか!!」


ギルドに呼び出されるなりギルドマスターに大声で怒鳴られた。


「殺人事件を解決するのはあなた達の専門分野のはずですよね?!」


「弁解の余地もありません・・・」


二人は肩を落としていた。




ギルドを出た二人は部屋に戻った。


「あのやり方じゃヴァンパイアの方が移動が早くて追い付けない。どうにかして先手を打つ方法を探さないと。何か方法はないか?」


「今回の一件で気付いた事があるんだ。ちょっとこれを見てくれ」


和司はアカッシスの地図を広げた。


「今回の事件で出現したヴァンパイアは食事・・の後この方向に向かって飛び去っていった」


「この先に何があるんだよ?」


和司は事件があった家からヴァンパイアが飛び去っていった方向に向かって二本の線を引いた。


「あの高台と、俺が高台から飛び去っていった方向に直線を引いて、交差した部分がここ。距離で考えるなら外壁の近く。北西の方角だ」


「ただ意味もなくそっちに向かうとは思えないな。行ってみるか」




二人が向かった先は古い洋館だった。


屋敷の壁一面に蔦や曲がりくねった木の枝で覆われており、言われてみないとそれが建物だと認識できない。


「はじめまして。ここの主人のハーバート・ウォルストンです」


「警視庁捜査一課の前川といいます」


「同じく春日です」


二人は反射的に警察手帳を見せたが、主人のハーバートはそれに顔を近付けてじっと見入った。


「けーさつ?」


「あぁ、この街の治安を維持する者と思ってください」


「治安を・・・ですか。それがうちとどんな関係が?」


ハーバートはひとまず二人を中に通した。カビ臭く湿った空気が辺りを漂う。廊下には蝋燭一本置かれてなく、薄暗い空間が続く。二人は案内されたのは居間だった。対面に置かれたソファに二人は腰掛けた。


「先程の治安の話の続きを聞かせてください。うちがどう関係してるのでしょうか?治安を犯した心当たりはありませんが」


和司と弘也は顔を見合わせてどう説明すべきか考えた。


「実はイブラクウィック町で発生した連続不審死事件で周辺に注意を呼びかけているところです。それと、昨夜犯行に及んだと思われる巨大なコウモリがこちらの方角に向かって飛び去ったのを確認しました。今日はその件で目撃していないかお話を聞きに来たんです」


「昨夜・・・ですか。私は何も見てませんね。何せ出かけていたのですから」


「深夜にお出かけ?ちなみにどちらに?」


「私は夜の星を観察してるんですよ」


「職業は天文学者なんですか?」


「そこまで本格的な物ではありませんが」


「にしてもこの洋館の中は薄暗いし空気が悪いですね。少し窓を開けませんか?」


弘也は立ち上がって窓のカーテンを開けた。それを見たハーバートは思わず身構えた。


「何なんですかあなたは!人の家の窓を勝手に開けるとは!」


「勝手に触った事についてはお詫びします」


弘也は誤りながらカーテンを元に戻した。それでもハーバートの怒りは収まらない。


「これ以上話す事はない!帰れ!」


激昂したハーバートをこれ以上刺激しない為に二人はそそくさと家の外に出て街に戻る事にした。歩きながら二人はハーバートについて話を進める。


「なぁヒロ、カーテンを開けたのには何か理由があるんだろ?」


「ヴァンパイアの弱点は太陽に弱い事なんだ。だから試しにカーテンを開けて様子を確かめてみた」


それで何の関連性もない行動を起こしたのか、と和司は納得した。


「あの慌てようを見るに、限りなくクロに近いな。洋館の中に灯りの一つもなかった」


「ヴァンパイアってのはどうやったらなれるんだ?遺伝的な物か?体質か?」


「それなりの秘術で儀式を行う、かな。自発的になるケースが多いけど」


「メリットはあるのか?」


「不死の存在になれる。デメリットはさっき説明した通り太陽に弱くなる事だ。だから昼間はヴァンパイアとしての活動はできない」


「太陽に弱くなるって事は日中は家の外に出られない。引きこもりって奴か」



「あのヴァンパイアと同一人物である事が証明できれば逮捕できる」


「体毛をDNA鑑定したいが機材がないんじゃどうにもならないな。他の方法で同一人物だと証明させないと」


「銀の武器で傷を付ければそう簡単に癒えない傷跡が残る。ヴァンパイアに付けた傷と同じ傷がハーバートの身体に付いていれば決定的な証拠になる」


「銀ねぇ、俺達の手持ちで買えるかどうか」


どうすれば銀の武器が手に入るのか。二人の頭の中で入手方法を考え始めた。

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