6.きっかけ

 オフィスに戻った僕達は、得られた事実を霞に報告した。

 同日に首を吊った五人――首藤、星野、熊谷、虎井、金田は皆同じ小学校の同級生であり、その中でも首藤がリーダー格だったこと。彼らにいじめられた大江という生徒は首を吊って亡くなっていたこと。

 そしてもう一つ。大江が亡くなった時期は、くだんの同窓会よりも少し後。首藤達が首を括った日こそ、大江の命日だった。宮元の家を辞した後、大江の実家を訪ねて確認している。話を伺った大江の母親は首藤達の死を聞いて、今更償ったところで息子は帰ってこないと静かに涙を流した。

「宮元の言う通り、いじめられて自殺した大江の怨念が縊鬼となって首藤達に首を吊らせたんでしょうか」

 筋の通る話だが、霞は眉間に皺を寄せて難しい顔のままだ。何か気になることでもあるのだろうか。

「大筋は間違っちゃいないと思うが、大江はんだ?」

「え?」

 そうだ、大江の怨みが縊鬼を作り出したとするならば、彼の死後すぐに首藤達は後を追うように首を括っていたはずだ。

 これでは菅原すがわらの道真みちざねの祟りと同じだ。当時の人々が「こうに違いない」「こうであれ」と願った結果、彼の死から何年も経っている清涼殿の落雷事故は彼の仕業と噂された。そうして彼は死後も謂れのない罪を着せられ、怨霊として、天神として祀り上げられた経緯がある。僕は短絡的な思考に至った自分を恥じた。

「とはいえ、大江をいじめていた全員が死んだ以上、いじめとの関連は疑いようがない。その上で縊鬼が発生するきっかけがあったはずだ」

「――同窓会」木下さんが何かに気づいた様子で声を上げた。「亡くなった皆さんは同窓会に参加してましたよね。かつてクラスメイトを死に追いやったいじめっ子達が何食わぬ顔で同窓会に来ている姿を見て、宮元さんを始めとした当時のクラスメイト達は彼らに良くない感情を抱いていた。縊鬼を作り出したのは亡くなった大江さんではなく、宮元さん達同級生なんじゃ……?」

 僕の背筋が冷える。縊鬼の話を聞いた際に浮かべた感想を思い出していた。現代の日本における死刑の方法は絞首、つまりは首吊り。そして、人に首を吊らせたい思いが作り出した縊鬼。人を死に追い込んでおきながら裁きを受けずに生きている首藤らを怨んだ宮元らかつての同級生が、大江の命日に縊鬼による絞首刑を執行させた……。

「その可能性は高いな」

 顎をつまんだ霞が呟く。居ても立っても居られなくなった僕は立ち上がった。

「もう一度、宮元を当たってみます。口振りから、縊鬼を作り出したのは彼のはず。認めることはないでしょうが、揺さぶりをかけることはできるはず」

「わたしも行きます」

 続けて立ち上がった木下さんと共に、僕は再度宮元の家へ向かった。

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