3.首吊り予告
「首吊り事件、ですか」
僕こと
亡くなったのは大学生の首藤
霞は僕達の前に紙を広げた。それはリアルタイム型SNS、ツイートゥーの呟きを拡大コピーしたものだった。
ケンジ@Kenjihara
信じられん……首藤が死んだ。
でもアイツ、死ぬ前に「これから首を吊る」って言ってた。冗談かと思ったけど、やっぱりあの時止めておけばよかったんだ
「今は削除されているが、知人が首藤の死後にアップした呟きの魚拓だ。これによると、首藤は死ぬ前に知人にこれから死ぬことを伝えている。これから死ぬ人間がわざわざそんなことをするか?」
確かに妙な話だ。自ら死を選ぶのであれば、止められることを考えて他言はしないはずだ。本気で死ぬつもりであれば、他者に話すメリットはない。
「特怪に持ち込んだってことは、この件も陰法師が関わってるの?」
僕の後輩かつ霞の同級生でもある
「人に首を吊らせる妖怪は幾つか伝わっている。例えば青坊主。香川の伝承では女の前に現れて『首を吊らんか』と囁きかけてくる。断れば問題はないが、無視すると無理矢理首を吊らせてしまう。他には、急に『首を吊る予定がある』と言い出した男を必死に止めたところ、男は縊鬼に憑かれていた、なんて話もある。今回の事件は後者に近いな」
古くから鬼や妖怪として語り継がれたモノは、全て人の負の感情から生じた陰法師と呼ばれる存在だ。となると、人に首を吊らせたい思いが青坊主や縊鬼を作り出したのだろうか。
近年になるが、日本における死刑の方法は絞首刑、つまりは首吊りだ。もし、縊鬼や青坊主が相手の死刑を望む思いから生じた存在だとしたら――と考えて、氷柱を差し込まれたように背筋がひやりとした。二つの陰法師が非常に恐ろしく感じられた。
暗澹とした夜の海に似た霞の双眸が、僕と木下さんを見据える。
「まずは首藤の発言が本当かどうか調べる。二人はケンジを当たってくれ」
「はいっ」
思わず浮かんだ鳥肌を悟られぬよう、僕は機敏に敬礼した。
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