第12話 最終城壁での戦闘(2)


篝火かがりびに照らされた剣士たちは、城壁の外側のへりから少し下がって剣をかまえている。


なるほど。よじ登ってくる人獣じんじゅうを城壁上でむかつのね。地面に降りて平場ひらばで闘うより、闘う相手がしぼられる。


けど、乗り越えられたらアウトだ。城の中にも被害が出る。と、思って視線を下げると、城壁の下にも少数ながら剣士が配置はいちされてる。


聞いてる話を総合そうごうする限り、最終決戦さいしゅうけっせんに近い。突破とっぱされたらアウト。きっと、この宮城きゅうじょうにまで攻め込まれる。


……いや、俺に何が出来るかなんて分かりませんよ。でも。でもね。もう少し、早く呼んでもらっても良かったと思いますよ。下手したら、今晩中にやられちゃいますよ。


もちろん、召喚にリーファ姫の命が犠牲ぎせいになってるのも分かる。ただ、昨夜ゆうべ見た人獣じんじゅうたちの獰猛どうもうさを思い返すに、とても城壁を守り切れる気が……。


その瞬間。城壁の向こう側から跳び上がるのが見えたのは、獅子ライオンがたの人獣だった。


望楼ぼうろうから最終城壁まで、たぶん100mくらい。たてがみと、ムキムキ過ぎる胸板むないた迫力はくりょくがビリビリとひびいて俺のところまで届いてくるような錯覚さっかくおそわれた。


刹那せつな。立ちはだかったオレンジ色の髪の毛をした小柄こがらな剣士の長い剣が振り上げられるや、獅子型人獣の首が飛んでいた。


振り返りざま次のおおかみ型人獣をててる。流れるような剣捌けんさばきで、次々にたおしていく。


距離きょりはなれてるので、何が起きてるか、なんとなく分かるけど、近くで見れば速過はやすぎて目が追い切れないはずだ。


同時に城壁の至るところに人獣たちが姿を現し、剣士たちとの戦闘が次々に発生している。


――剣士、強えぇぇ。


いや。人獣たちも尋常じんじょうでない動きでおそかってる。スピードも速いし、力も強い。けれども、剣士たちも負けてない。


――数か……。


剣士たちが斬っても斬っても、人獣たちは姿を現す。


斬り捨てた人獣の屍体したいは足場の邪魔にならないよう、次々にり落としてる。あれだけでも、相当そうとうに体力を持っていかれるはずだ。


戦闘が始まってなしだけど、もう剣士一人あたりで3体はってるはず。320名中、300名が城壁に上がっているとして、約900体。それなのに、人獣たちは変わらないペースで現れ続ける。


始まって5分として、日没にちぼつからまでを10時間と仮定すると、一晩で剣士一人あたり360体、剣士団全体で10万8千体を斬るペースだ。


――10万て。


大学受験を終えたばかりで計算スピードが上がってる。なんて、呑気のんきなことも頭をよぎったけど、10万という数字のインパクトの方が大きい。一晩で10万だ。仮にこの12日間、毎晩同じペースだったとすると、すでに120万の人獣をたおしている。


なのに城壁を2つ突破されて、最終城壁に押し込まれていることを考えると、全体でどれだけの数の人獣に囲まれているのか想像もつかない。


しかも、城壁の向こう側には篝火かがりびの光は届いてないはず。剣士たちから見れば、暗闇くらやみの中から次々に人獣が飛び出してくる状態。そうとうな緊張きんちょういられながら斬り続けてる。


えっ? これ、10時間も続くの……?


てるだけの俺の緊張も半端ない。手の平にイヤな汗が出る。いや、全身がジワリと汗ばんできた。


俺に何が出来るのか、何を求められてるのか、まだ全然分からないけど、せめて、しっかり観察くらいはしないといけない。


「マレビト様……」


という、シアユンさんの声でわれかえった。


「はい」


「気をめると続きません。お茶をれましたので、良かったら」


「ありがとうございます」


受け取ったお茶を一気に飲み干すと、のどがカラカラになってたことが分かった。


えらいところに呼ばれたという、俺のがわの事情はともかく、命をしてでも召喚におよんだリーファ姫の事情はよく分かった。


打つ手がない――。

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