勇者ホイホイの殺人

暗闇坂九死郎

勇者ホイホイの殺人

第一幕 勇者ホイホイ

第1話 決死

 ――現在、オレは森の中で敵に囲まれている。


 敵は白い毛に覆われたオオカミのような四つ足のモンスター。その数、七匹。

 敏捷びんしょう性に優れ、鋭い爪や牙による攻撃は一撃でも食らえば致命傷になりかねない高い殺傷能力を持つ。


 一対一なら対処のしようはあるが、七匹はあまりにも数が多すぎる。このままでは、オレに倒せるのは最初に飛び掛かって来る一匹だけで、残りの六匹のエサになる未来が待っている。


 ――無論、そんな未来は御免だが。


 ならば、先手必勝。オレは相手が攻めてくるより先に素早く敵に駆け寄り、剣を振り下ろす。最も近くにいた一匹の首をねることに成功する。が、敵がこの隙を見逃してくれる筈もない。敵二匹が同時に、別方向からオレに飛び掛かる。これでは返す刀でどちらか一匹を斬ったとしても、必ずもう一匹の攻撃は食らうことになる。


 ――


 オレは敵の一匹の喉笛のどぶえを剣の先で突き刺すと、そのまま力任せにもう一匹のいる方へ振り抜いた。


 敵の白い胴体から青い血飛沫ちしぶきが上がる。


 ――これで、残り四匹。




「よし、そろそろ適当に死んでいいぞー」




 樹上じゅじょうからそんな気の抜けた声がしたのと、背後から攻撃を受けたのはほぼ同時だった。

 オレは敵の体当たりをモロに食らい、体勢を崩されたところを残りの三匹に襲い掛かられる。

 敵の一匹がオレの肩を地面に押さえつけ、別のもう一匹が脛骨けいこつすね当てごと嚙み砕いた。あまりの激痛に意識が飛びかける。こうなれば、最早助かる見込みはない。オレはこのままモンスターのエサとして殺される運命を受け入れた。


 ――そのときだ。

 上空から唐突とうとつに、直径10メートルはあろう馬鹿デカい氷のかたまりが降ってきたのは。


 巨大な氷塊ひょうかいは敵モンスターの群れもろともオレの肉体を押し潰し、オレこと戦士・ケン=クローニンは通算九十九度目の死を迎えることとなった。

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