第51話 「なんでそんな簡単に言うのですか?」
「小さい頃は気味悪がられたものです。誰と話してるのかと。父上も白夜は見えなかったみたいですし」
「そっか。ということは……白夜さんは葉緩に縁がある存在というわけだ」
にこっと葵斗が白夜に笑いかけると、白夜もまたにっこりと微笑み返した。
葉緩はなんだかわからずに二人を交互に見るしかない。
「察するに、葉緩の枝かな?」
「……ふぁ!?」
「鋭いなぁ。さすが、執念深さはよく似ている、というか同じだな」
勝手に納得しあう二人についていけない葉緩は泣きっ面に白夜に視線を向ける。
「枝? 私の枝って、あの手折った枝だというのですか?」
「そうだ。気づくのが遅いぞ。本当に鈍い娘だ」
(白夜が……連理の枝?)
共に生まれ、葉緩の成長を見守っていた存在。
白蛇の姿をしており、時に人の姿になって葉緩の支えとなった。
金色の瞳に、白い髪。
……まるで連理の枝と同じ色だ。
「どうやら木から離れると人格が宿るようだ。折れた私は葉名とともに過ごし、そして今のお前のもとに再生した」
つまり葉名は白夜を折ったのだ。
自分勝手に、白夜を木から折って引き離した。
そう自覚するととたんに罪悪感に襲われて、涙が出そうになる。
手を伸ばして白夜の白い手を強くつかんだ。
「怒ってますか? 折られた時、痛くありませんでしたか?」
葉緩の言葉に白夜は目を丸くし、吹き出すように笑い出す。
「はっ……はは! 折った心配をするとは! ……本当に、お前はやさしすぎるんだ」
涙がこぼれるほどに腹をよじらせて笑ったあと、白夜は葉緩に距離を詰めて目尻にたまった涙に唇をよせる。
今にも泣きじゃくりそうな葉緩の頬を指でつついて、ニヤッとイタズラに微笑む。
「そんなことでは苦労するぞ。こやつの執念は狂ってるからな」
「ひどい言いようだなぁ。仕方ないよ。俺は葉緩じゃないと興奮しないんだ」
「こっ!?」
「この先どうなっても知らんぞ」
「どうとでも。……ずっと何かが引っかかっていた。16の年が巡ってやっと理解したんだ。俺は絶対に葉緩からはなれない」
葉緩の枝は折れて存在しない。
だが葵斗が葉緩の匂いをかぎとったということは、葵斗の枝が葉緩の枝に向かっている可能性がある。
絡みつく相手が不在で、葵斗の枝は宙ぶらりんというわけだ。
「たぶん、俺の枝も人格があるんだよね。すっごく圧があるというか」
「やたらと確信があったのは枝のこともわかって言っていたんですね。……なんだか、ズルいです」
「私が木に戻れば、葵斗の枝はすかさず伸びるのだろうな」
白夜の言葉に背中に嫌な汗が流れた。
「木に……戻る……」
「私が木に戻れば葵斗の匂いがわかるかもしれないぞ?」
たしかに葉緩は葵斗の匂いを知りたかった。
だがそれは白夜が枝に戻ることを意味すると理解し、青ざめて首を横に振る。
「葉緩の気持ちのままに。俺は葉緩が好いてくれるならそれだけで幸せだから」
「私は……」
「夫婦となりたい、が願いだったな。枝が絡めば咎める者はいなくなるかもしれん」
言葉を詰まらせる葉緩に間を詰めるようにかぶせてくる。
淡々とした様子の白夜に葉緩は震えて唇を噛みしめると、限界値に達した感情を静かにこぼした。
「なんでそんな簡単に言うのですか?」
「……葉緩?」
「白夜にとってはそんなっ――!」
――伝わらない。
葉緩と白夜は同じはずなのに、何一つ葉緩の気持ちが伝わらずに悲しくなった。
眉間にシワをよせ、焼けつく喉のまま葉緩は葵斗の腕から抜け出し走り出す。
――生まれたときから共に笑い、傍にいた白夜が離れる。
そんなのは嫌だと現実を受け止められず、背を向けてひたすらに駆けた。
たとえ連理の枝だとしても、葉緩にとって白夜は白夜だ。
いまさら枝として扱えと言われてはいそうですかとすんなり受け入れることは出来なかった。
「……阿呆が」
大気に溶け込むような呟きは葉緩に届かない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます