第50話 「なんでそんな簡単に言うのですか?」
小さい頃、さみしさを感じていた葉緩のそばにいてくれた姉のような存在。
だから余計に白夜に見透かされていると、対等ではないと不機嫌を表に出してしまった。
「ただ白夜は秘密主義というか。たまには教えてくれてもよかったのではと……」
そこまで口にして、白夜のひょうひょうとした顔を凝視する。
「もしかして私と葵斗くんのことも知っていたのではないですか?」
「知ってるといえば知っていた。だが葵斗がどうしたかったまでは知らん」
「……そもそも、なんで葵斗くんは白夜が見えるのです?」
はっきり答えない白夜に問うてもきりがない。
ならば葵斗に質問をした方がマシだと、葉緩はふてくされながら疑問を投げかけた。
だが葵斗も白夜同様、首を傾げてあいまいに白夜に目線を向ける。
「わかんない。けど白夜さん、いい匂いだよね。 葉緩と同じ匂いがする」
「まぁ、生まれた時からずっと一緒にいますから。匂いが同じでも不思議はないです」
思い出すのは白夜と過ごした幼い頃であった。
葉緩は近所の人によく一人で喋っている変わった子とみられることが多かった。
「小さい頃は気味悪がられたものです。誰と話してるのかと。父上も白夜は見えなかったみたいですし」
「そっか。ということは……白夜さんは葉緩に縁がある存在というわけだ」
葵斗が白夜に笑いかけると、白夜もまたにっこりと微笑み返す。
白夜が葵斗と向き合っている姿はなんとなく不思議に思えてしまい、葉緩は渋い顔をするしかなかった。
「察するに、葉緩の枝かな?」
「……ふぁ!?」
「鋭いなぁ。さすが、執念深さはよく似ている、というか同じだな」
何を察したらそのような答えになるのか。
葉緩が驚いていると、白夜はそうそうとあっさり認めてしまう。
そんなのは初耳だと、葉緩は長年一緒にいる白夜に眉をつりあげる。
「枝って、あの手折った枝だというのですか?」
「そうだ。気づくのが遅いぞ。本当に鈍い娘だ」
カチンとくるよりも、ショックの方が大きくて葉緩は足元をふらつかせる。
(白夜が……連理の枝?)
共に生まれ、葉緩の成長を見守っていた存在。
白蛇の姿をしており、時に人の姿になって葉緩の支えとなった。
金色の瞳に、白い髪。
――まるで連理の枝と同じ色だ。
「どうやら木から離れると人格が宿るようだ。折れた私は葉名とともに過ごし、そして今のお前のもとに再生した」
つまり葉名は白夜を折ったのだ。
自分勝手に、白夜を木から折って引き離した。
そう自覚するととたんに罪悪感に襲われて、涙が出そうになる。
手を伸ばして白夜の白い手を強くつかんだ。
「怒ってますか? 折られた時、痛くありませんでしたか?」
葉緩の言葉に白夜は目を丸くし、吹き出すように笑う。
「はっ……はは! 折った心配をするとは! 本当に……お前はやさしすぎるんだ」
涙がこぼれるほどに腹をよじらせて笑い、白夜は葉緩に手を伸ばして目尻にたまった涙を拭う。
今にも泣きじゃくりそうな葉緩の頬を指でつついて、ニヤッとイタズラに微笑む。
「そんなことでは苦労するぞ。こやつの執念は狂ってるからな」
「ひどい言いようだなぁ。仕方ないよ。俺は葉緩じゃないと興奮しないんだ」
「こっ!?」
「この先どうなっても知らんぞ」
葵斗の暴露に葉緩が驚愕しているのに、白夜は笑って受け流す。
他人事だと思って笑う姿に葉緩は好き勝手言いやがってとワナワナと拳を震わせた。
「どうとでも。……ずっと何かが引っかかっていた。十六の年が巡ってやっと理解したんだ。俺は絶対に葉緩からはなれない」
葉緩の枝は折れて存在しない。
だが葵斗が葉緩の匂いをかぎとったということは、葵斗の枝が葉緩の枝に向かっている可能性がある。
絡みつく相手が不在で、葵斗の枝は宙ぶらりんというわけだ。
「たぶん、俺の枝も人格があるんだね。白夜さんが悩むほどに曲者だ」
あの白い枝一つひとつに人格があるとしたら、白夜は木から離れてずっと葉緩に寄り添っていたことになる。
まるで子どもを心配するように、付かず離れずと葉緩の選ぶ道に続いていた。
本来ならば絡んで成就する想いがあるのに、葉緩の心を優先させた。
全部、白夜はわかっていたと知り、葉緩の心にモヤがかかる。
「やたらと確信があったのは枝のこともわかって言っていたんですね。……なんだか、ズルいです」
「私が木に戻れば、葵斗の枝はすかさず伸びるのだろうな」
「木に……戻る……」
成就するということは、白夜がいなくなるということ。
葉緩が笑っていても泣いていても、感情を共有する白夜はいない。
振り返っても葉緩は一人で生きていかねばならないことを示していた。
ズクンと心臓が動揺しているのに、白夜は何でもなさそうな顔をして淡々と言葉を続けた。
「私が木に戻れば葵斗の匂いがわかるかもしれないぞ?」
たしかに葵斗の匂いを知りたかった。
しかしそれは白夜がそばにいる前提での話。
香りを知るには白夜を木に戻し、失うことを意味していた。
――そんなこと、葉緩が受け入れられるはずもない。
「葉緩の気持ちのままに。俺は葉緩が好いてくれるならそれだけで幸せだから」
「私は……」
「夫婦となりたい、が願いだったな。枝が絡めば咎める者はいなくなるかもしれん」
無理をしなくていいと葵斗は気づかってくれるが、白夜は何をどうすればいいかを語るだけ。
まるで箇条書きに記載された事項をツラツラと音読しているみたいで、胸くそ悪かった。
「なんでそんな簡単に言うのですか?」
それほどまでに白夜にとって葉緩との時間はサヨナラ出来ることなのか。
バレたら仕方ないので帰ると、魔法が解けたみたいに関心が消えたみたいで悔しくてたまらなかった。
「……葉緩?」
「白夜にとってはそんなっ――!」
――伝わらない。
葉緩と白夜は同じはずなのに、何一つ葉緩の気持ちが伝わらない。
焼けつく喉に手をあてて、葉緩は葵斗の腕から抜けると全力で走り出した。
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