大脱走(アクセル視点)

「なにごとだ!」


 俺たちはすぐに作戦室に向かった。非常時には自分をはじめとした、指揮官たちが集合する手はずになっているからだ。

 そこにはすでに数名の騎士が集まっている。


「第一食糧庫と厨房から火の手があがりました。中は真っ黒こげです!」

「黒こげ? 何があった!」

「わかりません。とにかく一瞬のことで……!」

「北の武器庫からも火の手があがっています!」

「第二食糧庫から出火!」


 城のあちこちから、火事の報告があがる。

 窓の外を見ると、報告にあった場所以外からもちらほらと赤いものが見え始めていた。


「避難と、消火だ! 女子供を城から出せ! 男は全員消火にあたれ!」

「はっ!」

「それから、塔に閉じ込めている人質は……」

「殿下!」


 兵がまた部屋に飛び込んできた。


「今度はなんだ!」

「人質が脱走しました!」

「は?!」


 予想だにしなかった報告だ。


「全員鍵付きの部屋に閉じ込めて、見張りを立てていたはずだろう!」

「それが、すべての鍵が何者かによって開錠されていたのです。見張りが火事に気を取られたすきに、一斉に脱走を……!」

「なん……だと……?」


 思わず頭を掻きむしりたくなる。

 人質は計画の要だ。

 彼らを失ってしまえば、三国との交渉も、その先の計略も、何もかもが崩れてしまう。


「城門をおろせ! 跳ね橋をあげろ! 誰もここから出すな!」

「それでは避難が……!」

「人質を失うほうがもっとマズい。いいか、絶対に門を開けるな!」


 命じると、兵は青い顔で退出していった。


「殿下、報告です!」


 また別の兵が走りこんできた。

 今度は何があったというのだ。


「地下牢が……破られました」

「は……?!」


 この城には、他の多くの城と同様に犯罪者を留め置くための部屋がある。人質を閉じ込めていた塔とはまた別の意味の監禁部屋だ。こちらにも鍵と屈強な見張りが配置してある。

 そこが破られた?


「どんな手練れが襲撃してきたんだ!」

「いえ……それが……誰も」

「誰もいなくて、牢が破られるわけがないだろうが」

「本当に誰もいないんです! 気が付いたら、牢の鍵が全部あいていて、火事に驚いているうちに、中の奴らが一斉に外に出てきて……!」


 塔の人質と同じことが、地下牢にも起きたらしい。


「人質もそうだが、犯罪者もマズい……! 全員一歩も外に出すな!」

「無理です! 火を見た使用人たちが、外に出せと城門に殺到していて……!」

「止めろ!」


 その声に呼応するかのように、ドン! と大きな音が響いた。

 方角は、城門のあるあたりだ。

 慌てて窓から外を見る。


「ああ……すでに……」


 兵が力なくつぶやく。

 城門はパニックになった者たちの手で開け放たれてしまっていた。


「止められないのなら、追え! 全員連れ戻すんだ!」


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