第三王子の事情
状況をいまいち把握しきれていない私を見て、ルカは大仰にため息をついた。
「俺は、オーシャンティアの王子っていっても、身分の低い妾が産んだ三番目なんだよ。第一王妃が産んだ兄貴が上にふたり、後妻に入った第二王妃との間にもひとり弟がいる。まあ、いらない子ってやつだな」
「いらないって、そんな」
身分社会のこの世界で、産まれた順番や母親の格が生い立ちに影響することは、理解している。だとしても、やはり王の血を受け継いだ子供だ。いらない扱いはどうなんだろう。
「いーっていーって、事実は正確に把握しとかねーと、足元すくわれるから」
本人は気にしてないように見えるけど、やっぱりちょっと納得がいかない。
私が渋い顔をしていると、隣で運命の女神が首をかしげた。
「あれ? コレットさんとアクセルの結婚は、同盟国にとって重要な問題ですよね? どうしてそんなところにいらない子が?」
「言われてみれば、そうだね」
「うん?」
女神の声が聞こえないルカが首をかしげる。
「ルカがどうして他国の結婚式に派遣されてきたんだろうって」
女神の『いらない子』発言を省いて私が通訳すると、ルカは肩をすくめた。
「実は、オーシャンティア王室情報部は、あんたたちの結婚式の裏で何かキナくさいことが起きてるって、勘づいてた」
「えー?! だったら、早く言ってよ!」
「周りに吹聴して回れるほど、確証はなかったらしい。だから他国に警告を出せなかった。また、立会人の派遣をやめることもできなかった」
「派遣しないでおいて、何も事件が起きなかったら、今度はオーシャンティアの誠意が疑われちゃうもんね」
「そこで、国の要人を派遣したという体面を保ちつつ、いつでも切り捨て可能な駒として、第三王子の俺が派遣されたってわけ」
「……!」
「ケチオヤジは、捨て駒に身代金を払わない。俺の命はアクセルたちにそのことが伝わって、利用価値なしと判断されるまでだ」
そんなことない、とは言えなかった。
彼の言うことにスジが通ってたからだ。冷たいようだけど、彼の言う通りの判断をする王侯貴族は多いだろう。
「……同情した?」
ルカは妙に大人びた笑顔を作る。
「頼む、逃げるなら俺を連れてってくれよ。子供ひとりじゃ何もできない。あんたに頼る以外に、助かる道が思いつかねえんだ」
彼の目は必死だった。
ここでチャンスを逃したら、後がないことがわかってるんだろう。
その姿は、ウソ泣きをしていた時以上に痛々しい。
こんな子供を放っておけるか。
私はルカの背中をバン、とわざとちょっと強めに叩いた。
「子供が変な心配しないの! この程度で見捨てるつもりなら、最初から声をかけてないよ」
「……ありがとう」
「ディーも、変な冗談言っちゃダメだからね?」
「私はいつも本気ですが」
慇懃無礼従者、余計タチ悪いな。
「おい……アンタ、コレットのための従者なんだろ? そんな調子でいいのかよ」
ルカの疑問を、子ユキヒョウは鼻で笑う。
「創造主が算数もできない女神で、お仕えする相手が弱者を見捨てられないお人よしなんですよ? ただ命令に従っていては、あっというまに全滅です」
「うっ」
「従者の私が最悪を想定し、ツッコミ……いえ諫言するくらいでちょうどいいのですよ」
ディーの言うことは正しいけど!
もうちょっと言い方ってものがあると思うの!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます