第57話
自分のこれまでの努力は無駄になったと、ハリィメルは思っていた。
一位をとり続けたことも、ハリィメルが意固地になってこだわっていただけで、別に誰もハリィメルに一位をとれと望んでいたわけでもない。ハリィメルの順位なんかどうでもよくて、どんな成績だろうが結局は途中で退学させるつもりだったのだ。
クラスの連中だって、ハリィメルがいなくなれば「あのガリ勉、退学したのか」と思うだけで、他になにも感じないだろう。
だって、ハリィメルは勉強しかしていなくて、クラスメイトとなんの交流も持たなかった。学校に来なくなったことを惜しんでもらえるような関係じゃない。
ハリィメルはそう思う。
だが、ロージスはそれを打ち消すように力強く言った。
「みんな、お前が戻ってくるのを待っている。俺が「ハリィメルを引っ張り出すために協力してくれ」と言えば公爵に直談判するくらいに、みんなはお前を心配しているんだ」
「そんなわけ……」
ハリィメルにはそう簡単に飲み込めなかった。
ロージスは嘘を言っているのか? でも、なんのために?
「信じられないなら信じなくてもいいさ。ただ、このままなら俺の思いどおりだ」
「思いどおり?」
「ああ」
ロージスはにーっこりと笑った。
「クラスのみんなに説得された父上が俺に言ったんだ。次のテストでも俺が一位をとれたら、ハリィメル・レミントンと正式に婚約させてやるって」
『ハリィメル・レミントン嬢が優秀なのはわかった。だが、婚約を申し込むのならお前自身がレミントン嬢より優秀でなくてはいかん!』と言い出した公爵が出した条件だという。
「次のテストで俺が一位をとれば、婚約成立だ。お前がこのまま引きこもっていれば、婚約は確実だな」
ハリィメルは声をなくした。
「それが嫌なら、次のテストで俺を負かすしかないな」
ロージスはハリィメルと目を合わせて微笑んだ。
「……なんで、あなたがそこまで」
ハリィメルの問いに、ロージスはなにか言おうと口を開いた。
だが、なにも言葉が出てこず、二、三度ぱくぱくと動かした後で決まり悪そうに目をそらす。
それでもなにか伝えようとする意思はあるのか、口は開いたままで両の手を空中にさまよわせて、大きな体をもじもじとくねらせる。
ここのところろくに食べてもおらず、すっかり体力の落ちているハリィメルは実は立っているのもやっとなのだが、ロージスのよくわからない態度に腹が立って気力を振り絞って怒鳴った。
「言いたいことがあるなら言ってください!」
「――っ、お前が好きだからだよっ! わかれよ、バーカ!!」
真っ赤な顔で怒鳴り返されて、ハリィメルは目を点にした。
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