第40話
教室を後にしたハリィメルは、足早に図書室を目指した。
一歩進むごとに、心臓の動きが激しくなってくる。
言ってしまった。けど、これでよかったんだ。
(私には、あの人達に関わっている余裕なんかないんだから)
ハリィメルは自分にそう言い聞かせ、震えそうになる足を必死に動かして図書室にたどり着いた。いつもの席について、ほっと息を吐く。
教室で発言した時は頭も胸もあんなに冷えていたのに、今になって心臓は騒ぎ頭までカッカと熱くなってきた。
(大丈夫。もう全部終わったの)
クラスメイトの前で嘘告を暴露してしまったので、高位貴族の令息令嬢を侮辱したお咎めがあるかもしれないが、先に「恋人同士」などと心にもないことを言ってハリィメルを貶めたのはあちらだ。こちらが一方的に責められるいわれはない。
心を落ち着けようと、広げた教科書の字を目で追うが、なにも頭に入ってこない。
それでもなんとかして勉強に集中しようとしていると、転げるような格好でロージスが図書室に飛び込んできた。
彼はハリィメルの前に立つと、真剣な表情で言った。
「話がある」
「私には話すことはないです」
ハリィメルはロージスの顔を見ずに答えた。
「頼む、聞いてくれ。俺がお前にしたことは……」
「私は」
ロージスの弁解を聞きたくなくて、ハリィメルは強い口調でさえぎった。
「あなた達の会話を偶然聞いてしまって、嘘の告白をされるとわかりました。ガリ勉だからってそんな悪ふざけの標的にされて、悔しくて、少しやり返してやりたくなったのです」
教科書をみつめたまま、決して顔を上げずにハリィメルは早口で自分の気持ちを伝えた。
「誓約書なんか作ってからかったことについては申し訳ありません」
「いや、それは……」
「でも、おあいこということで」
嘘の告白でだまそうとした方と、だまされたふりをして相手に無駄な労力を使わせた方。
どっちの罪の方が重いのか、ハリィメルは知らない。
「私のやったことが気に入らないなら、ちょっとした冗談にも仕返しをしてくるような狭量なガリ勉だとでも広めてくれてかまいません」
ロージスがなにか言いたそうに口をはくはくさせているのに気づいていたが、ハリィメルは教科書の文字を睨みつけながら告げた。
「もう、私の邪魔をしないでください」
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