第35話




 結局、ダイアンとティオーナから有効なアイディアは得られず、ロージスはぶちぶちぼやきながら街中を歩いた。


「あいつら、途中から新作スイーツの話ばっかりしていて、俺の悩みを聞いていなかっただろう。まったく」


 ロージスがこんなにも頑張っているのだから、もう少し親身になってくれてもいいではないか。


「まあでも、あのふたりではハリィメルの心を動かす方法なんてわかるわけないか。ハリィメルの一番近くにいるのは俺なんだからな」


 ひとりで歩きながら得意げに胸を張るロージスを、通行人が不気味そうに避けて通り過ぎる。

 学校でのハリィメルはほとんど誰とも話さない。最初は無視されまくったとはいえ、今となってはハリィメルと最も会話をしているのはロージスだ。学校で一番ハリィメルと親しいと言えるだろう。


「いやいや。そもそも俺とハリィメルは『交際中』なんだった」


 交際を申し込んで了承され、別れていないのだから、自分達は間違いなく恋人同士だ。

 放課後は一緒に勉強して、帰りは家まで送っている。誰に聞いたって「恋人だ」と認められるだろう。


 そうとも。恋人なのだから、休暇中にデートに誘うのも当然だ。もっと強気に行こう。


「よし! 帰る前に、この辺にいい店がないかちょっと見てみるか」


 ハリィメルを誘うための下見だと、ロージスは周囲の店を眺めて回ることにした。若者に人気そうな店がいいだろう。だが、あまりに混んでいては落ち着かないし、ハリィメルも嫌がりそうだ。


「お。あの店は良さそうだな。雰囲気がいいし、若い女性客が多いみたいだ。人気のメニューでもあるのかな」


 一軒のカフェに目をつけたロージスは近くに寄ってみようとそちらへ足を向けた。

窓辺に座っている客の姿が見える距離まで近づいたところで、ロージスは足を止めた。

 よく見知った人物の、見知らぬ姿がそこにあった。


 ワンピース姿で頬を染め微笑みを浮かべ、知らない男と向かい合うハリィメルを目にしたロージスは、凍りついたようにその場に立ち尽くしたのだった。


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