3.蝶達とスライムのまさかの戦闘能力
俺がみんなに逃げてくれと伝えると、みんなは厳しい表情をしたまま俺を見つめてきた。ほら、早く逃げるんだ! 奴らの狙いはどう考えても俺なんだから。今逃げるなら、怪我をしないで逃げられるかもしれないだろう!!
後になればなるほど、俺を襲うゴブリン達の攻撃で、怪我をする可能性が増えるんだから。それに怪我ですめば良いけど、もしかしたら死ぬ可能性も。俺は後で神に文句を言えば良いけどさ。優しいみんなは生きるべきだよ。
『ばぶう!!』
俺は強めに、みんなにそう言った。だけどみんなは逃げる様子を見せず。それどころか、みんなで頷き合った後、俺の方を見てきて優しく笑い。それからすぐ厳しい表情に戻ると、ゴブリン達の方を向いた。
その姿勢はどう考えても俺を守っているようで。本当に頼むから逃げてくれよ。みんなが死ぬところなんて見たくないんだ。
ほんの少しの時間だったけど、俺に優しくしてくれたみんな。孤独だった俺の側に来てくれたみんな。そんなみんなが傷ついたり、死ぬところは見たくないんだ。
しかし俺の気持ちとは逆に、みんなは逃げないまま。またゴブリンが俺に近づき始めた。ああ、もう!! 俺は動かしにくい手を動かして、少しでもみんなを守ろうとする。だけどみんなは俺の手から出ようとして。
しかも蝶達は邪魔するなくらいの勢いで、小さい細い足で、俺の手を叩いてきた。スライムも同じだ。手を伸ばしてきてパシパシ俺の手を叩く。
そんな俺達の間で攻防が繰り広げられているうちに、気がついたら1匹のゴブリンが、俺達のすぐ近くまで来てしまっていた。しまった、と思った時には、斧を振り下ろされる寸前で。俺は目を瞑り、少しでもみんなを守ろうとする。そして……。
ん? 何だ? どうしたんだ? おかしなことが起こった。何故かいくら待っても、斧によるそれ相応の痛みや衝撃など、何も俺を襲ってこなかったんだ。
それどころか辺りはしーんと静まり返っていて、さっきまでのゴブリン達の笑い声も聞こえない。
そんな静まり返っていたところに、ドサッ!! という音が。俺は恐る恐る目を開けてみた。すると俺の手の中には透明な蝶とスライムが。何故かもふもふの蝶の姿が見えず、慌てて周りを確認する。と。
え? どうして倒れているんだ。俺のすぐ側、何故かゴブリンが倒れていた。斧が隣に転がっているから、多分さっき俺を襲おうとしたゴブリンで間違いないはずだけど。それによく見ると、ゴブリンの胸あたりから、緑の液体が流れ出していた。
あれって……、ゴブリンの血か!? 何だって胸から血を流して倒れているんだ!? ん? もふもふの蝶がいないこと、そしてゴブリンが血を流して倒れていることに気を取られていて、向こうを見ていなかったが。
他のゴブリン達全員が、俺じゃないけどみんな驚いた顔で固まっている。多分倒れているゴブリンが関係しているんだろうとは思うけど。
ゴブリンが驚くような、何があったんだ? と、シュンッ!! フワッ!! と言う感じに。凄いスピードで飛んできて、最後はフワッと、もふもふの蝶が俺の胸の上に降りてきた。その体には緑色のドロドロが付いていて。
それ、ゴブリンの血じゃ。何でそんなゴブリンの血だらけなんだよ。もしかしてゴブリンに何かあった時に巻き込まれたのか?
もふもふの蝶に透明な蝶が何か言うと、俺のお尻を綺麗にしてくれた魔法で、自分の体を綺麗にしたもふもふの蝶。
それからぐっ!! と何故か足で拳を握るような格好をして。それに対して同じような格好をする透明な蝶とスライム。
ぜんぜん状況に付いて行けていない俺は、みんなに声をかけようとしたんだけど。でも、今まで驚いていたゴブリン達が声を上げ始めた。それはとても怒っているような声で。そして今度は2匹のゴブリンが前に出てきた。
するともふもふの蝶が透明な蝶の肩を、ポンっと軽く叩きうんうん頷き。それからスライムの方を見て、また頷いたんだ。それに頷き返す2匹。その瞬間、
『ぐぎゃ!!』
と、前に出た2匹のゴブリンが襲ってきた。それと同時に目の前から消える透明な蝶とスライム。そうして一瞬遅れて、襲ってきたゴブリン達が、その場に倒れた。
1匹はさっきのゴブリンみたいに、胸に穴が空いた状態で血を流しながら。もう1匹は頭に穴が空いた状態で、やっぱり大量の血を流しながら。
そうしてまたまた数秒後。俺の胸の上に、急に姿を現した透明な蝶とスライム。やはりこっちもさっきのもふもふの蝶同様、ゴブリンの血まみれになっていて。
すぐにもふもふの蝶が、2匹のゴブリンの血を魔法で綺麗にする。それからそれぞれハイタッチのような仕草をして。その後は俺に向かって、むんっ!! と胸を張り、凄いだろう的なアピールをしてきたよ。
もしかして……。もしかしてあのゴブリンをやったのは、みんななのか? 小さい体で、何かあればすぐに吹き飛ばされちゃうような、とてもとても弱そうな姿をしている、小さなみんなが。本当にあのゴブリンを?
「あぶぅ、あ~ぶ?」
みんながゴブリンを倒したのか? 今のはそう聞いたんだ。するとすぐに頷くみんな。それからまた拳を握る格好をする。
ああ、そうなんだ。やっぱりそうなんだま。みんな凄いなぁ。俺は動きにくい手で、何とか何回か拍手をした。
いやさ、衝撃的な事実に、ただ拍手するしかなかったんだよ。うん、とりあえずみんなが無事で良かった。それと俺を守ってくれてありがとう。
『グガガッ!!』
『ギャアァァァ!!』
そんな俺達のやり取りの最中に、声を上げた残り2匹のゴブリン。今までで1番怒っているようだった。まぁ、それはそうだろう。まさかこんな小さな子達に、自分達の仲間がやられたんだから。
再び戦闘態勢に入る蝶達とスライム。斧を構えるゴブリン。お互いが見合ったまま、沈黙が流れた。と、それは一瞬だった。目の前のゴブリンが倒れたんだ。蝶達やスライムが動く前に。そして……。
「森が騒がしいと思ったら、これは何の騒ぎだ」
今度はしっかりと、言葉が分かる声が聞こえたんだ。
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