第2話

 川原で意識を取り戻したとき、日はすっかり高く上がっていた。昨夜のことを思い出し、絶望的な気分になる。あの後、気を失ってしまったのか。桜介は一体どうしてしまったのか。明らかに異常だった。

 起き上がって、対岸を見ると、桜介の姿は見えず、キャンプ道具も無くなっていた。とにかく、このキャンプ場から出て一刻も早く家に帰ろうと立ち上がる。

 すると、対岸に子供が2人、こっちを見ている。子どもたちはこっちに向かって手を振っている。子供の無邪気な声に思わず涙が溢れてくる。その時、子どもたちが川を渡って近づいてきた。


 子どもたちは、無邪気な笑顔を見せながら、一緒に遊ぼうと呼びかけてきた。

「いえ、私は……」


「行こうイこウ」


 子どもたちは眞規子の手を取りどんどん上流に進んでいく。

「ねぇ、君たちどこまで行くの?私人を探さなくちゃいけないし、もう帰らないと」

 眞規子の呼びかけを無視し、子どもたちはなおも進んでいく。手を振りほどこうとしても、子供の力とは思えないほどの強い力で掴まれて半ば引きずられるようにさて連れて行かれる。


 眞規子は恐怖を感じ始めた。何かがおかしい。この状況をなんとかしないと。そう思い、眞規子はもう一度子供たちに優しく話しかける。

「お願い、聞いて、お姉ちゃんは今人を探してるんだ。一緒にキャンプに来てたけどはぐれちゃったみたいで」


「大丈ブ、先にイッタ」

「隠レた、隠れンボ、もう見ツかラナイ」


 眞規子の全身が粟立つ。そして異変に気づいた。子供たちの手が所々紫色や白に変色し、膨張してブヨブヨになっている。腕には深くエグれて大きな傷になっている箇所がある。まるで小説や映画などで読んだり見たりする水死体のようだ。

「離して!!」

 半狂乱になった眞規子は、無我夢中で抵抗した拍子にバランスを崩し転倒する。しかしそんなことはお構いなしに子供たちは眞規子を引きずっていく。


 しばらく引きずられた先に、箱がぽつんと置いているのが見えた。あの箱は昨夜、見知らぬ人の側にあった箱ではないか。


 子供の一人が眞規子から手を離し箱に近づく。残った一人は相変わらず子供とは思えない力で眞規子の手を掴んでおり、逃げられる隙が無い。

 箱に近づいた子供が箱に手をかける。眞規子は箱の前まで引きずられていった。箱が開き始める。箱が完全に開くその瞬間、眞規子は下を向き目をつぶった。見ればもう戻ってこれない気がしていた。


 ところが、後ろからガッと頭を掴まれ無理やり箱の方に顔を上げさせられた。見たくない、でも、見えないのは怖い。

「眞規子」

 桜介の声が聞こえ、思わず目を開ける。


「見ィツケた」


 目の前には、全身が白と紫に膨れて膨張し、目は白濁し左右別の方を向いた、かろうじて女の子と分かる人だったものが箱の中に詰まっていた。

 ソレがおもむろに口を開いた。


「隠れンボ、楽シイね?」


 その言葉とともに伸ばされた手に捕まえられ、眞規子は箱の中に引きずり込まれていった。







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