落ちこぼれクラスの地味な少年、実は五属性を極めた英雄なので最底辺から成り上がる~最強の少年は唯一才能がない土属性を使いたい~

むらくも航

第1話 落ちこぼれクラスの地味な少年

 その日、少女は信じられないものを見た。


(なんなのよ、これ……!)


 目の前に広がったのは、規格外の魔法。

 たった一人の少年が作り上げた光景だ。


 だが、さらに気になったのは──少年のバッジ。


(これが最底辺のF組なの!?)


 少女が目を疑う中、少年はため息をつく。

 覇気を感じない様で口にしたのは──


この程度・・・・、土属性でも出来たらなあ……」


 不思議な悩みだった。







「お前たちはクズだ。未来はない」


 教室内に、教員のとうひびいた。

 だが、下を見つめるばかりの生徒は反論しない。

 それを良いことに、ハゲた偉そうな教員は続ける。


「中でも、わざわざ編入してこの組に入るなど、人生が終わっている」


 そんな言葉が向けられたのは、一人の少年だ。


「なあ、レクス?」

「あ、あはは……」


 少年の名は──『レクス・アストラル』。

 新学年が始まり、この“F組”に編入した生徒だ。

 黒い短髪に平均身長、外見は特徴のない地味な少年である。


 苦笑いを浮かべるレクスは、ふと心の中で思った。


(やっぱり僕は最底辺かあ……)

 

 ここは、最高峰の学院──『レミオール魔法学院』。


 掲げる校訓は“実力主義”だ。

 A~Fまである組は、上から成績順に決められる。 


 授業、教員、設備。

 どれを取っても、最も優れた環境である。

 ──ただ一つの組を除いては。


「まあ、『無能のF組』は全員一緒か! がっはっはっは!」


 レクスが所属するクラスは、別名『無能のF組』。

 実力順で最底辺に決められた彼らは、激しい“差別”の対象となっている。


 一つだけ離れた隔離校舎。

 担任はおらず、学年の区別も無い。

 設備は草が茂ったグラウンドのみ。


 学び舎としては、最低の環境と言えた。


「俺みたいな優秀な教員が来てやるだけでも、ありがたいと思えよ! ま、授業はしねえがな!」


 偉そうにしているのは、本校舎の教員である。

 F組で授業をやる義務はないため、こうして罵倒を繰り返しているのだ。

 

 ──と、ここでようやく授業終わりのチャイムが鳴った。


「チッ、もう終わりか。F組はストレス発散に良いのによ」


 教員は、次の本校舎では授業をするのだろう。


「じゃ、お前らの宿題は……自分の無能さを考えてくることかな、なんちって。がっはっはっは!」

「「「……」」」


 そうして、最後までバカにしながら教室を去って行った。


 少しすると、生徒も席を立ち始める。

 その中で、何人かはレクスの周りに集まった。


「気にすることないよ、レクス」

「本校舎の教員はみんなああだから」

「レクスの土属性はちょっと地味だけど、悪くないと思うぜ」


 周りの生徒たちは優しい。

 だがそれは、半分諦めている様にも見えた。


「う、うん……」


 これがF組の日常風景だった。







「また授業をしなかったのですか!」


 少し時間は経ち。

 学院端の広間にて、少女の声が響き渡った。


「F組だからと差別して!」


 目を惹くような、鮮やかな赤色ロング。

 毛先には少しピンクも混じっている。

 抜群のスタイルにより、スカートは少し短く見え、誰もがドキっとする制服姿だ。


 彼女の名は──『エイファ・ソラーレ』。

 三年A組に所属する生徒である。


 エイファが声を上げる相手は、先ほどF組で授業をしていた教員だ。


「わたしは栄誉と誇りを持ってここに入学した!」

「ふむ」

「そのはずが、実態はこんな場所なんて! F組に対して申し訳ないと思わないのですか!」


 しかし、教員はまゆ一つ動かさない。

 むしろニヤリとながら教えを説く。


「何度も説明したじゃないか、このシステムの合理性を」


 学院では、むしろF組差別を“推奨”している。

 教師自らがF組差別をするよう仕向けているのだ。

 

 するとどうなるか。

 A~E組生徒は優越感に浸り、自信を持つ。

 同時に、F組にはいきたくないと努力をする。

 

 その結果、学院は数々の優秀な人材を輩出してきた。

 F組を踏み台にすることによって。 


「エイファ、お前は頭が良いんだ。それぐらい分かるだろう?」

「だからって──」

「それとも、お仕置きをされたいのかな?」

「……!」


 エイファは、何度もF組の待遇について抗議をしてきた。

 彼女自身はA組のため見逃されてきたが、そろそろ教員のしゃくにさわったようだ。


「お前が手を上げれば処分の対象だ。しかし、我々は違う」

「なに!?」

「F組には何をやってもいいと許可が出ているんでね。それの一環としようか」


 この男も、腐っても学院の教員だ。

 魔法の実力はそれなりにある。

 加えて、エイファからは手を上げられない。


 それを利用して、教員は一歩ずつ迫る。


「幸い、お前は体の育ちが良いみたいだしなあ」

「……っ」

「さーて、お楽しみといこうかな」


 ──そんな二人の横から、誰かが割り込んだ。


「それはよくないと思いますよ」

「……!?」


 一瞬驚く教員だが、その姿にすぐに表情を戻す。

 現れた少年が、見たことのある者だったからだ。


「ははっ、誰かと思えば“地味ガキ”のレクスじゃないか!」

「地味ガキ?」

「ああ、そうだ。お前が裏で何と呼ばれているか知っているか?」


 ニヤリとした教員は、指で数えながら罵倒を始めた。


「地味ガキ、時代遅れの遺物、F組に編入した雑魚……他には何があったっけなあ」

「……」


 レクスが編入テストで使ったのは、土属性。

 この時代、“地味”と言われる不人気属性だ。

 持って生まれた時点で、魔法の道は諦めた方が良いとまで言われる。


 加えて、レクスの土属性はつたなかった。

 それらの結果から、編入後F組へと直行だったのだ。


「それでも最高峰に入学できていいなあ。ま、生徒はわざわざ・・・・多めに取ってるんだがな」

「え?」


 違和感をたずねるレクスに、教員は学院の秘密を口にする。


「差別の対象は多いほど良い。つまり、才能がない者も積極的に入学させ、F組に捨ててるんだよ。優秀な者を育てる駒としてなあ」

「……!」


 それには、隣のエイファが黙っていなかった。


「教員がそんなことを……なんて非道な!」

「黙れ。お前も今からそこに落ちるんだよ」

「!?」


 エイファの口ごたえが気に入らない教員は、今しがた決めたのだ。

 彼女をF組へ落とすことを。


「それが嫌なら、俺のしもべになりなさい」

「なっ!?」

「教員にたてついた罰だ。さあ、どちらを選ぶかな。名を汚すことか、身を汚すことか、なんちって。がっはっはっは!」

「くっ……!」


 F組行きか、しもべか。

 ハゲた教員は二択を迫り、ゲスな表情を浮かべる。

 すでに欲望を我慢しきれていないのだ。


 途端に動きを取れなくなるエイファだが──


「じゃあF組生徒がたてついたら、どうなりますか」


 レクスが彼女の前におどり出た。


「ああん?」

「少年!?」

 

 エイファと教員が目を見開くが、反応はまるで違う。

 教員の方は大声で笑い始めた。


「何を言い出すかと思えば! お前に何ができる地味ガキ!」


 完全にレクスを舐めているのだ。

 卑劣な態度のまま、魔力を込める。


「決めたぞ。お前もろともらしめてから、じっくりとエイファちゃんにお仕置きしてやる」

「……」

「見ろ、この魔力を!」


 教員の手には、赤く燃え上がるような巨大な魔力が灯る。

 その大きさには、エイファが焦って声を上げた。


「……! これはまずい! 少年、私のことはいいからすぐに謝るんだ!」

「いえ」


 それでもレクスは余裕を保っていた。

 そして、対抗するようにレクスも灯す。


「多分、大丈夫です」

「……!?」


 教員よりも、ずっと巨大な魔力を──。

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