落ちこぼれクラスの地味な少年、実は五属性を極めた英雄なので最底辺から成り上がる~最強の少年は唯一才能がない土属性を使いたい~
むらくも航
第1話 落ちこぼれクラスの地味な少年
その日、少女は信じられないものを見た。
(なんなのよ、これ……!)
目の前に広がったのは、規格外の魔法。
たった一人の少年が作り上げた光景だ。
だが、さらに気になったのは──少年のバッジ。
(これが最底辺のF組なの!?)
少女が目を疑う中、少年はため息をつく。
覇気を感じない様で口にしたのは──
「
不思議な悩みだった。
★
「お前たちはクズだ。未来はない」
教室内に、教員の
だが、下を見つめるばかりの生徒は反論しない。
それを良いことに、ハゲた偉そうな教員は続ける。
「中でも、わざわざ編入してこの組に入るなど、人生が終わっている」
そんな言葉が向けられたのは、一人の少年だ。
「なあ、レクス?」
「あ、あはは……」
少年の名は──『レクス・アストラル』。
新学年が始まり、この“F組”に編入した生徒だ。
黒い短髪に平均身長、外見は特徴のない地味な少年である。
苦笑いを浮かべるレクスは、ふと心の中で思った。
(やっぱり僕は最底辺かあ……)
ここは、最高峰の学院──『レミオール魔法学院』。
掲げる校訓は“実力主義”だ。
A~Fまである組は、上から成績順に決められる。
授業、教員、設備。
どれを取っても、最も優れた環境である。
──ただ一つの組を除いては。
「まあ、『無能のF組』は全員一緒か! がっはっはっは!」
レクスが所属するクラスは、別名『無能のF組』。
実力順で最底辺に決められた彼らは、激しい“差別”の対象となっている。
一つだけ離れた隔離校舎。
担任はおらず、学年の区別も無い。
設備は草が茂ったグラウンドのみ。
学び舎としては、最低の環境と言えた。
「俺みたいな優秀な教員が来てやるだけでも、ありがたいと思えよ! ま、授業はしねえがな!」
偉そうにしているのは、本校舎の教員である。
F組で授業をやる義務はないため、こうして罵倒を繰り返しているのだ。
──と、ここでようやく授業終わりのチャイムが鳴った。
「チッ、もう終わりか。F組はストレス発散に良いのによ」
教員は、次の本校舎では授業をするのだろう。
「じゃ、お前らの宿題は……自分の無能さを考えてくることかな、なんちって。がっはっはっは!」
「「「……」」」
そうして、最後までバカにしながら教室を去って行った。
少しすると、生徒も席を立ち始める。
その中で、何人かはレクスの周りに集まった。
「気にすることないよ、レクス」
「本校舎の教員はみんなああだから」
「レクスの土属性はちょっと地味だけど、悪くないと思うぜ」
周りの生徒たちは優しい。
だがそれは、半分諦めている様にも見えた。
「う、うん……」
これがF組の日常風景だった。
★
「また授業をしなかったのですか!」
少し時間は経ち。
学院端の広間にて、少女の声が響き渡った。
「F組だからと差別して!」
目を惹くような、鮮やかな赤色ロング。
毛先には少しピンクも混じっている。
抜群のスタイルにより、スカートは少し短く見え、誰もがドキっとする制服姿だ。
彼女の名は──『エイファ・ソラーレ』。
三年A組に所属する生徒である。
エイファが声を上げる相手は、先ほどF組で授業をしていた教員だ。
「わたしは栄誉と誇りを持ってここに入学した!」
「ふむ」
「そのはずが、実態はこんな場所なんて! F組に対して申し訳ないと思わないのですか!」
しかし、教員は
むしろニヤリとながら教えを説く。
「何度も説明したじゃないか、このシステムの合理性を」
学院では、むしろF組差別を“推奨”している。
教師自らがF組差別をするよう仕向けているのだ。
するとどうなるか。
A~E組生徒は優越感に浸り、自信を持つ。
同時に、F組にはいきたくないと努力をする。
その結果、学院は数々の優秀な人材を輩出してきた。
F組を踏み台にすることによって。
「エイファ、お前は頭が良いんだ。それぐらい分かるだろう?」
「だからって──」
「それとも、お仕置きをされたいのかな?」
「……!」
エイファは、何度もF組の待遇について抗議をしてきた。
彼女自身はA組のため見逃されてきたが、そろそろ教員の
「お前が手を上げれば処分の対象だ。しかし、我々は違う」
「なに!?」
「F組には何をやってもいいと許可が出ているんでね。それの一環としようか」
この男も、腐っても学院の教員だ。
魔法の実力はそれなりにある。
加えて、エイファからは手を上げられない。
それを利用して、教員は一歩ずつ迫る。
「幸い、お前は体の育ちが良いみたいだしなあ」
「……っ」
「さーて、お楽しみといこうかな」
──そんな二人の横から、誰かが割り込んだ。
「それはよくないと思いますよ」
「……!?」
一瞬驚く教員だが、その姿にすぐに表情を戻す。
現れた少年が、見たことのある者だったからだ。
「ははっ、誰かと思えば“地味ガキ”のレクスじゃないか!」
「地味ガキ?」
「ああ、そうだ。お前が裏で何と呼ばれているか知っているか?」
ニヤリとした教員は、指で数えながら罵倒を始めた。
「地味ガキ、時代遅れの遺物、F組に編入した雑魚……他には何があったっけなあ」
「……」
レクスが編入テストで使ったのは、土属性。
この時代、“地味”と言われる不人気属性だ。
持って生まれた時点で、魔法の道は諦めた方が良いとまで言われる。
加えて、レクスの土属性は
それらの結果から、編入後F組へと直行だったのだ。
「それでも最高峰に入学できていいなあ。ま、生徒は
「え?」
違和感をたずねるレクスに、教員は学院の秘密を口にする。
「差別の対象は多いほど良い。つまり、才能がない者も積極的に入学させ、F組に捨ててるんだよ。優秀な者を育てる駒としてなあ」
「……!」
それには、隣のエイファが黙っていなかった。
「教員がそんなことを……なんて非道な!」
「黙れ。お前も今からそこに落ちるんだよ」
「!?」
エイファの口ごたえが気に入らない教員は、今しがた決めたのだ。
彼女をF組へ落とすことを。
「それが嫌なら、俺のしもべになりなさい」
「なっ!?」
「教員にたてついた罰だ。さあ、どちらを選ぶかな。名を汚すことか、身を汚すことか、なんちって。がっはっはっは!」
「くっ……!」
F組行きか、しもべか。
ハゲた教員は二択を迫り、ゲスな表情を浮かべる。
すでに欲望を我慢しきれていないのだ。
途端に動きを取れなくなるエイファだが──
「じゃあF組生徒がたてついたら、どうなりますか」
レクスが彼女の前に
「ああん?」
「少年!?」
エイファと教員が目を見開くが、反応はまるで違う。
教員の方は大声で笑い始めた。
「何を言い出すかと思えば! お前に何ができる地味ガキ!」
完全にレクスを舐めているのだ。
卑劣な態度のまま、魔力を込める。
「決めたぞ。お前もろとも
「……」
「見ろ、この魔力を!」
教員の手には、赤く燃え上がるような巨大な魔力が灯る。
その大きさには、エイファが焦って声を上げた。
「……! これはまずい! 少年、私のことはいいからすぐに謝るんだ!」
「いえ」
それでもレクスは余裕を保っていた。
そして、対抗するようにレクスも灯す。
「多分、大丈夫です」
「……!?」
教員よりも、ずっと巨大な魔力を──。
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