街の探索
「ふあ……、あぁ〜……っ!」
ホールで働きだして数日後……、目を覚ますと既に陽が真上くらいまで昇りきっていた。
今日は休みを貰っているから別に遅くまで寝ていても怒られることはないけど、流石に寝すぎた……。
慣れない異世界での生活や、ウエイトレスの仕事で疲れが溜まっていたようだ。
ベッドから起きると、同僚の先輩方から貰った、長袖のブラウスと、スカートへと着替えた。
ベージュ色を基調とした、ごく普通の街娘みたいな格好だ。
この世界では肩出しの服や、半袖以外の露出が多い服は存在しないようだ。
尤も私はあまり肩出しや露出の多い服は着ないため、特に問題はない。
この世界の普段着を着るのは初めてだけど、特におかしい所は無いようだ。
身だしなみを確認した私は、冒険者ギルドの2階にある間借りした部屋を出ると、一階にあるホールへと向かうことにした。
「お、カナちゃん起きてきたか。メシはどうする?」
「あ、はい。お願いします。」
「分かった。適当になんか作ってやるよ。」
ホールへと降りるとグレンさんの姿があったので、適当なものをお願いすると、カウンター席へと座ることにした。
ここでの間借りしている部屋の代金や食事代は全て給料からの天引きとなっている。
どのくらい引かれているかは分からないけど、キチンと働いていればマイナスになることはないだろう。
「はいよ、カナちゃん。出来たぜ!」
グレンさんの作ってくれた料理が目の前へと置かれる。
今日の朝食……と行っても、昼食と兼用になるけど、メニューはパンとスープ、ウインナーと目玉焼きのようだ。
「グレンさん、ありがとうございます!それではいただきま〜す!」
まずは、スープを一口飲むと、コクのある味が口に広がる。
グレンさんは料理も上手いようだ。
「今日はカナちゃん、休みだがどうするんだ?」
「今日は街を色々と回ってみようと思います。まだどこに何があるのか全然分かりませんからね。」
「確かにそうだな。自分が住んでる街くらい把握しておかねえとな!でも、カナちゃん金持ってないだろ?どうするんだ?」
お金は無いことはない……。
ただ、元いた世界のお金なのでここではまず使えないので実質無一文ということになる。
「お金は……、元いた世界のお金ならあるんですけど……。」
「カナちゃんがいた世界の金……ねぇ……。ふむ……、マジックショップにでも持っていけばもしかしたら買い取ってくれるかも知れねえな……。あとは、買い取ってくれると言えばガラクタ屋くらいか……?」
「ガラクタ屋……、ですか……?」
「ああ、そうだ。珍しいものを買い取っては、物好きな奴らに売ってるんだ。異世界の金って言えば喜んで買い取ってくれるだろうぜ。」
「なるほど……。そのガラクタ屋ってどこにあるんですか?」
「ガラクタ屋はここから北に700メートルくらい歩いたところだ。店の前までガラクタが並んでるらすぐに分かるはずさ。」
「分かりました。とりあえずそのガラクタ屋に行ってみることにします。」
「そうだ、カナちゃん……。出かけるついでで悪いんだが、お使いを頼まれてくれないか?」
「いいですよ、どうすればいいですか?」
「この剣をね、武器屋に持っていってほしいんだ。後この手紙も武器屋の店主に渡してほしいんだよ。」
グレンさんはそういうと、一本の剣と手紙を私に手渡してくる。
剣を持つと、ずしりとその重さが腕に伸し掛る。
(冒険者の人はいつもこのくらいの重さの剣を持っているんだよね……。)
ただ持つだけならいいけど、これを持って振り回しながら戦うとなると、かなり腕に負担が来そうだ……。
「カナちゃん、あとこの街の地図だ。あまり街の中を出歩いたことないだろうから迷子にならないよう、渡しておこう。」
私は街の地図を手に入れたっ!
「それじゃあ、メシを食べてからでいいから頼んだよ。あと、街の外れにあるスケベ通りには近付かない方が良い。しつこい客引きも多いからな。」
「はい、分かりました。」
スケベ通りか……、この前迷って行っちゃったんだよね……。
今日は迷子にならないように気をつけよう。
私はご飯を食べ終わると、グレンさんからのお使いへと出掛けることにした。
街を歩いているといるんな人が目に付く。
人間やエルフは勿論、毛深い動物が二足歩行で歩いているような獣人や、獣耳のついた人間のような半獣人、私よりも背の低い、がっしりとした体格のドワーフ族などなと、色んな種族の人が街を歩いている。
冒険者ギルドのお客やスタッフもそうだけど、こういう所を歩くと本当にここが異世界なんだなと思う。
「ここが武器屋かな……?」
ギルドを出て、地図を見ながら歩くこと時間にしておおよそ十数分、目的地の武器屋と思われる場所へと辿り着いた。
店の中を除くと、剣や槍、それに鎧などが並べられているから間違いないだろう。
「すみませ〜ん……。」
「いらっしゃい!おや……?嬢ちゃん、見かけない顔だが、ウチになにか用か?」
店に恐る恐る入ると、黒く日焼けした、スキンヘッドの強面の中年男性がにこやかな笑顔を浮かべていた。
(この人には悪いけど……、逆に笑顔が怖い……。)
「あの……、グレンさんからこの剣と手紙を渡すように言われたのですが、こちらの店主の方ですか……?」
「確かに、俺がここの店主だが……。グレンさんって……、あの冒険者ギルドのギルマスのグレンさんのことか?」
「はい。」
「なるほど、グレンさんからの依頼か……。え〜っと……。」
武器屋の店主は私から剣と手紙を受け取ると、まずは手紙を読み始めた。
「ふむ……、カナちゃんってのは嬢ちゃんのことか?」
「あ、はい。カナは私ですけど……。」
「なるほどな……。よし分かった!出来上がったら俺からギルドに持って行くって伝えておいてくれ!」
「分かりました。えっと……。」
「俺のことは武器屋のオヤジとでも呼んでくれ!」
「分かりました、オヤジさん。それではお願いします。」
「おう!グレンさんによろしくなっ!」
私はオヤジさんに頭を下げると武器屋を後にした。
オヤジさんは、見た目こそ怖いけど、気さくで人当たりが良さそうな人みたいだ。
武器屋を出たあと、ガラクタ屋へと向かうことにした。
(グレンさんはガラクタ屋はすぐに分かるって言ってたけど……。)
周囲を見渡しながら歩くと、一軒だけ妙な異彩を放っている店があった。
「ここかな……?」
今日もらった地図を見ながら言われた方向へと歩いていくと、それらしき店へと辿り着いた。
「確かにガラクタだらけ……。」
ガラクタ屋と言われている通り、店の前までガラクタにしか見えないものが無造作に置かれており、それは店の中も同じだった。
(とりあえず、入ってみるかな……。)
中に入ると、通路の左右に棚があり、その上に数え切れないほどのガラクタがこれもまた種類など無視して無造作に置かれている。
特に掃除もしていないのか、ガラクタの中には埃を被っている物まである。
そんな通路の奥にはカウンターが見えるが、店主と思われる人はそこにいなかった。
「あの〜……、すみませ〜ん……。」
カウンターへと着いた私は声を掛けるも誰も出てこない。
よく見ると、カウンターの所にベルみたいなのが置かれており、「用のある人は押してくれ」と書かれている。
(とりあえず押すか……。)
そのベルを押すと、「チーン」という金属音が鳴り、カウンターの奥から店主と思われる、無精髭を生やした年配の男性が出てきた。
「ああ、お客さんかい……?ふぁ……。」
店主と思われるその人物は寝ていたのか、頭を掻きあくびを噛み殺しながら出てきた。
こういう店だから余り人が来ないのかも知れない……。
「すみません、これ買い取れますか?」
私はスカートのポケットに仕舞っていた財布から5,000と600円のお金を店主へと見せた。
「ん……?ないだいこりゃ……?」
「え〜っと……、異世界のお金です。」
「ほほ〜……、これは驚いた、異世界の金か……!」
店主は訝しげな表情で日本円を手に持ってみたり、透かしてみたり、硬貨は軽く指で叩いてみたりと何かを確かめているようにも見える。
「ふむ……、確かにこんなものは見た事ない、初めて見るよ。いいだろう、買い取ろう!」
店主はそう言うと、直ぐに私にこの世界のお金を手渡してくれた。
「5,600エントでいいかい?」
「あ、はい。ありがとうございました。」
エントか……、この世界での通貨単位なのだろう。店主は大小様々な硬貨を手渡してくれた。
(お金の価値は1エント=1円となっています。)
大きさによって金額が違うのだろう。
私は受けとったお金を財布へと仕舞うと、ガラクタ屋を出ようとすると、数人の冒険者とすれ違った。
「ジイさんいるかいっ!?こいつを買い取ってくれないかなっ!?」
その冒険者達は兜まで揃った、奇麗な青色をしたフルプレートアーマー一式を重そうに抱えていた。
どこかの冒険で見つけたのだろうか……?
重たいのなら、組み上がっている鎧を各部位にバラせばいいのにとも思うけど、ばらせないのかも知れない。
(ま、私には関係ないか……。)
そんな事を思いながら私は街への散歩を続けることにした。
地図を見ながら街を歩いていると、大きく分けて幾つかのブロックに分かれていることが分かった。
まずは、街の人達が住んでいる住宅通り、様々な職人さん達が住む職人通り、色んなものが売っている商店通り、レストランや食堂などが並ぶメシ屋通り、冒険者達が利用する宿屋が並ぶ冒険者通り、そして、スケベ通りに分かれている。
冒険者ギルドは冒険者通りの辺りに、今日行った武器屋は職人通りに、先程行ったガラクタ屋は職人通りと住宅通りの間くらいにあった。
そして、私は今職人通りにある雑貨屋へと来ていた。
元いた世界と似たような物もあれば、この世界独特のようなもの、さらに女の子が好きそうな可愛らしいものから誰が買うのか、ヘンテコな物まで多種多様な種類が所狭しと売られている。
可愛いネコのような置物を買おうかと思ったけど、3,500エントと意外と高く、買うのは諦めた……。
(お金が貯まってから買おうかな……。)
他にもなにか無いかなと思い、眺めていると店の隅の方に、大人の玩具的な物まで普通に売られていた。
(……。)
どうやら世界が変わってもこういうものは変わらないらしい……。
しかも、高いものは15,000エントと意外と高い。
(別の所にも行ってみようかな……。)
今日は何も買わずに雑貨屋を後にすると小腹が空いたのでメシ屋通りへと向かうことにした。
メシ屋通りへと着くと、美味しそうな匂いが色んな所から漂ってくる。
さらに、屋台みたいな所でも肉や魚などを焼いているので、なおさら食をそそられる。その結果……。
「あ、これも美味しい♪」
当然というか、必然というか……、色んなところで買い食いをしまくっている私がいた。
買って食べたのは、魚の串焼き、ウサギ肉の串焼き、キノコの串焼き、何かの果物を使ったジュース、そして、デザートにクレープのようなもの、その他諸々を買い食いをして、今日だけで3,500エントも使っていた。
多分今日は夕飯は入らないだろうな……。そんな事を思いながら冒険者ギルドへと戻ることにした。
そして、案の定この日は満腹で夕飯は食べれなかったのだった……。
その日の夜……。
「お邪魔していい?」
一人でお風呂に入っていると、一人のエルフの女性がやって来た。
「あなたがカナちゃんね。話は聞いているわ。初めまして、私はティア。ギルドでクエストの受付をしているの。よろしくね。」
「あ!はい!こちらこそ初めまして……!これからよろしくお願いします……っ!」
「ふふ、そう固くならなくていいよ。それより……、今日もいいお湯ね……。」
ティアさんがお湯に浸かるとその大きな胸がお湯にプカプカと浮いていた。
(胸って浮くんだ……っ!)
ティアさんのスタイルの良さと、胸が浮くという驚愕の事実を知った……!
「ん……?ああ、この胸ね……。大きくて困ってるのよ……。男性からはイヤらしい目で見られるし、肩は凝るし……。」
「そ……、ソウデスネ……。」
私はもう少し大きい方が良い……。
自分の胸をペタペタと触ってみるが、相変わらず小さい……。
Aカップ程度な私の胸に比べればティアさんのは遥かに大きい……。
邪魔なら分けて欲しいくらいだ……。
私は心の中で血の涙を流しながらティアさんと話をするのだった。
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