2章 オダ郡を一つにまとめる

第25話 サブロー、王都に呼ばれる

 マリーが戻って数日後、オダ郡にアイランド公国の王都であるキュートスクからルードヴィッヒ14世の名前でサブロー・ハインリッヒを招聘する手紙が届けられる。


「こちらが陛下より賜った書状にございます。御目通しを」


 いつもなら『あいわかった』と言いたいところだがこういう時、真面目になれるのもまたサブロー・ハインリッヒという男である。


「謹んでお受け取り致す。使者の方も長旅でお疲れでしょう。すぐに御返事させていただきますゆえ、あちらでお休みくだされ」


「かたじけなく」


 使者が促された方にあるソファーという長椅子にもたれかかるとサブローは、その書状を開いて読み進める。


 要点だけをまとめると。


 この度、正式にオダ郡の領主として任命するにあたり、王都へ来ること。


 その時になぜ魔法を使えるのかを明確にすること。


 タルカ郡とナバル郡、双方に演習と称して与えた損害を補填すること。


 オダ郡は、人質としてマーガレット・ハインリッヒをルードヴィッヒ14世の側女として差し出すこと。


 まぁ、要するにお前が悪いから仕方なく領主に任命してやるけど、賠償金は払えよ。


 後、人質は勿論だけど魔法使える人材はこっちが欲しいからその辺りも詳しく宜しくみたいなノリである。


「舐められたものだな」


 使者に聞こえない程の小さい声で、サブローは密かに怒っていた。


 一国を預かる王がここまで無能なのかと。


 その周りにいる奴らまでここまで無能なのかと。


 相手が喧嘩腰なら遠慮してやる必要はない。


「使者殿、王都に行くことをサブロー・ハインリッヒは、お受けすると陛下にお伝えください」


「ありがとうございます。これで、やっと解放されます。では、そのようにお伝えします」


 こうして、役目を終えたことをホッとした様子で帰っていく使者を見送るとサブローは、家臣たちを集め会議に移る。


 呼ばれた面々の1人目は、この度、正式に将軍として復権し、オダ郡の兵千を束ねることとなったロー・レイヴァンド。


 2人目は、サブローが3歳の時に名前を与えられた奴隷たちを率いる青年、ヤス。


 3人目は、サブローが3歳の時に奴隷たちをしごきという名の暴力を奮っていたが、模擬戦に負け、心を入れ替え、忠節を尽くす騎馬隊を率いる兵士、タンダザーク。


 4人目は、元ナバル郡の武将で、アイランド公国における将軍位に付く男、マッシュ・キノッコ。


 これにサブローの身の回りの世話をしているエルフのマリーを加えた5人である。


 勿論、マリーは現在、人間に変化していて、エルフであることを知っているのは、サブローだけである。


「よく集まってくれた。まずは、これを見てもらいたい」


 サブローが皆の座る机の上に使者が持ってきたルードヴィッヒ14世の書状を置く。


 それを見た全員があり得ないといった表情をしている。


「若、そもそも魔法は使っておりませんな」


 まずはローから簡単な確認が飛ぶ。


「あぁ、たまたま突風が吹いて、それがタルカ郡の兵士の首を飛ばしただけだな。鎌鼬かまいたちの風という言葉があってな。こういう神様の悪戯いたずらみたいなことをそう呼ぶのだ。


 それにまぁ神様の悪戯だとサブローが答える。


「ガハハ。しかし、受けた側としてはたまったものではありませんな。ですが、局地的な魔法など聞いたことはありませんな。あの時、ワシより後ろにいたものだけが首を飛ばされたのだ。証人はワシがしよう」


 戦の当事者でもあるマッシュが心強い言葉をかける。


「それは助かるぞマッシュ」


 サブローが頭を下げるとヤスとタンダザークは別のことで怒っていた。


「サブロー様、そもそも戦を仕掛けてきたのは向こうです。こちらが賠償金を支払う謂れは全くないのでは?」


「それに人質で、前当主の奥方様を差し出せなんてよ。私事で坊ちゃんから母親まで奪うってのは、いただけねぇな」


 この件に関しては、ローもマッシュも頷いている。


「こちらも戦の前なら母親のことも飲むと言ったが、事が起こってから強気に出るなど正気を疑うのは確かだ。それに賠償金は勿論、こんだけ巻き込んだデイル・マルには、きちんと償ってもらおう。幸いにもこちらには、向こうが悪いという証拠がこんなにもあるのだからな」


 1つは、デイル・マルが勝手に書き足した陛下の書状。


 そしてもう1つは、マッシュ・キノッコが保管していたデイル・マルが書き足していない綺麗なままの陛下の書状にオダ郡、領主として、これをお受けするという判子を押している。


「さて、ワシをここまで怒らせたのだ。陛下にもデイルにもドレッドにも痛みを伴ってもらわないとな」


「お受けするという判子を押したにも関わらず、それに対して、付け足したということにすることで全て反故にしてしまうなんて普通の人間は考えつきませんよ」


 マリーが俺のことを薄目で見てくる。


「仕方あるまい。こちらは飲むと言ったのだ。その証人がこちらにいるのだから」


「ガハハ。その通りだな。寧ろ、ここまで頭の回る人間をワシを含めて、ガキと侮ったのが間違いであろう。報いは受けねばな」


 サブローの言葉にマッシュが頷く。


「それにしてもですよ。判子を押してることに陛下はこちらだけを有効と言いませんか?」


「マリーよ。それは無理だろう。そんなことをすれば、陛下自らオダ郡に対して、戦争を起こしたことを認めるようなものだ。他の郡の領主たちも集まる場でそのようなことを認めれば、陛下がマル殿とベア殿の企みに乗ったことが明るみになる」


 マリーの言葉にローが的確に返す。


「まぁ、ロー爺が言ったことが全てだ。ロー爺、留守の間は委細任せる。ヤスとタンザクは、ロー爺を支えよ。マッシュとマリーはワシと共に王都に向かう。準備せよ」


 サブローの言葉に全員が頷くと準備を始めるのだった。

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