第7話 ショアランド平原の戦い(中編)

 先に仕掛けたのはガルディアン王国であった。


 カタパルトによる投石爆弾の雨を降らせる。


「あんなものを降らされれば、マジカル王国もたまったものではなかろう」


「若がそう思うのも無理は無いですがここからですぞ」


 飛んできた投石爆弾に対して、魔法兵が10人ひとまとまりとなり、何やらしたかと思ったら見えない壁に当たったかのように爆弾が爆発し煙が立ち込めるが煙が晴れた後には、無傷のマジカル王国の兵がいた。


「どういうことじゃ!?」


「若、驚かれましたな。魔法兵が防御魔法を唱えて、爆弾を無効化したのです」


「魔法とは実に興味深いものじゃ」


「良ければ、俺の知る限りのことを御教示しましょうか?」


「頼むロー爺よ」


「では、魔法を使う上で、精霊の力が込められた石があるのです。その石が良く見つかる鉱山を確保しているのがマジカル王国で、他国への輸出は禁止しています。これにより魔法を使えるのは、マジカル王国のみとされていますが、ごく稀にですが魔力石を用いずに魔法を使えるものがいるそうです。その者は、精霊をその身に宿しているとかなんとか。まぁ噂程度の話ですな」


「ふむぅ。では現状、魔法を使いたければマジカル王国の者である事以外不可能に近いということか」


「さては若、魔法を使いたかったのですかな?」


「無論じゃ」


「それは、残念でしたな」


 投石爆弾を防がれたガルディアン王国は、バリスタによる大型の矢を射出して、魔法兵を狙う。


「今度はあのバリスタとかいう兵器か。あんなもので狙われれば、逃げられないであろうな」


「若よ。あの魔法兵は爆弾を防ぐのですぞ。大型の矢など」


 言い終わる前に射出された大型の矢が魔法兵に向かって飛んで行ったはずなのだがそれが逆にガルディアン王国の歩兵隊を襲っていた。


「一体何が!?どうなっているのじゃ!?」


「若、マジカル王国は、魔法で風をおこして、大型の矢を跳ね返したのですよ」


「魔法とはなんでもありなのか?」


「いえ、魔法兵にも弱点はありますぞ。接近戦に対してものすごく弱いことです。そこに持ち込むまでが大変ではありますがな」


「それなら騎兵を前線に出せば、成程、あの大楯どもの役目は、そういうことか」


「気付かれたようですな。そうです、あの大楯どもの役目は、魔法兵に近付く、騎兵の足を削ぐこと。その隙に魔法で騎兵を倒すためです」


「成程な。魔法兵が弓兵の役割も担っているということか。ますます魔法とやらに興味が沸いたぞ」


「若、無い物ねだりをしてもどうしようもありませんぞ」


 跳ね返ってきた大型の矢により、ガルディアン王国の歩兵隊5000人が一瞬のうちに貫かれた。


 やはり兵器での攻撃は効果がないと判断したガルディアン王国は歩兵を前に全軍突撃して、魔法兵を駆逐する構えを取る。


「何もせずに兵を5000人失って、ようやく力攻めに切り替えるとは。あの兵たちが浮かばれぬであろう」


「魔力石を消費させるというガルディアン王国のいつものやり方ですな」


「成程、魔力石を使わせるために、か」


 人の生き死にをかけてまで、そのようなことをせずとも良い。


 あれはただの無駄死にじゃ。


 ガルディアン王国がマジカル王国に勝てない理由が良くわかった。


 マジカル王国は、戦術理解もしている。


 対するガルディアン王国は、兵数を利用したあくまでも力攻めだ。


 これでは、勝てるものも勝てないであろう。


 全く長篠ながしので戦った武田勝頼タケダカツヨリのことを久々に思い出したわ。アヤツも父から譲り受けた最強の騎馬隊の力に頼って、判断を誤った1人よ。


 父をも超える才覚を持っていたというのに一度の敗戦で、滅亡にまで追い込まれた惜しい男よ。


 まぁ、危険な男ほど味方にならぬのなら芽を摘んでおくしかなかったのだがな。


「ん?何やら戦場が騒がしいな。あの辺りか?」


「若、あそこは、アイランド公国の持ち場ですぞ。何かあったのかもしれませぬ。ここからでは、内容までは、分かりませんが」


「ふむぅ」


 ヤスに何も無ければ良いが。


 まぁ、父の心配は、せずとも良かろう。


 死んだところで痛手にもならん凡人よ。


 まぁ、言いすぎたかもしれぬが。


 日の本での我が父、織田信秀オダノブヒデのように知勇に優れた才覚はない。


 まぁ晩年は、織田家中を大いに混乱させてくれたものだがな。


 それを恨んで位牌に灰を大量に投げつけてやったわ。


 自分の尻拭いぐらいしてから逝けとな。


 そのことを奇行と判断されて、政秀の奴が腹を切るとは思わなかったがな。


 全く政秀には、苦労ばかりかけ、挙句のためワシのために腹を切らせてしまうとはな。


 謝っても謝りきれん。


 今頃、極楽浄土の世界とやらで、再会している頃であったはずがこのような異世界に輪廻させられるとはな。


 まだまだ、乱世を楽しめと。


 いやいや、このようなことお腹いっぱいじゃ。


「若、何やら慌ただしい様子ですな。アイランド公国の連中が撤退しておりますぞ」


「またしても負け、か。良い加減、父も学ぶべきだと思うがな。ルードヴィッヒ14世とやらについていては、未来がないと、な」


「辛辣ですな。では、若ならどうされると?」


「そうじゃな。先ずは、マジカル王国と同盟を結び、アイランド公国からの独立を宣言。アイランド公国を平定した後、ガルディアン王国をマジカル王国と共に強襲が無難であろうな」


「そのような話をマジカル王国が飲むとお思いか?」


「無理であろうな。だが、これからはどうなるかわからぬ。マジカル王国といえどもガルディアン王国とアイランド公国の2つを常に相手取るのは鬱陶しかろう。なれば、付け入る隙は、あるやもしれぬ。まぁ、マジカル王国がどう思っているかわからぬ以上、どこまで行ってももしもの話ではあるがな」


「確かにそうですな。若は、最終的に何処を目指しておられるのですかな?」


「そんなの勿論、天下統一よ。人と人が争わないで済むのならそれが1番であろう」


「それは、険しい道ですな」


「無論、覚悟の上ぞ」


「迷いもなく言い切られるとは。俺も力を尽くしますぞ」


「あぁ、頼りにしておるぞ。それにしても退き始めたということは、終わりのようだな」


「えぇ、早く戻りましょう。このようなところをロルフ様に見つかれば、お咎めを受けましょう」


「金平糖、嫌い。金平糖、好き。金平糖、嫌い。金平糖、好き」


 サブローは、マリーの手に金平糖を乗せる。


「わ〜い。金平糖だ〜」


「良し、戻ってきたな」


「若は、マリーの扱いが上手いですな」


「まぁな。此奴は優秀な女子ゆえな。マリーよ。戻るぞ」


「金平糖、なんて甘くて美味しいのでしょう。はっ。あわわわ。すっすぐに準備します」


 一通り、戦場というものを見ることができて満足して帰ろうとしていたのだがこの時、急にまた模擬戦の時のように空から見ているかのように視点となった。


 そして、地に伏している父と殿しんがりとなって、敵を押し留めているヤスの姿が映ったのである。

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