第六天魔王と恐れられし男転生す〜〜剣と魔法の世界で成り上がれ〜〜

揚惇命

1章 第六天魔王、異世界に降り立つ

第1話 道半ばでこの命捨てることとなろうとは

 日の本にかつて天下に最も近づいた男がいた。


 その男の名を織田信長オダノブナガという。


 有能な家臣を見抜く目を持ち、民の暮らしを良くした為政者だった。


 そんな男に弱点があったとしたら時代の風雲児として恐れられ第六天魔王と称され、裏切りの多い人生であったことだ。


 彼は今、本能寺ほんのうじという地にて、最後の時を迎えようとしていた。


 今回裏切ったのは、最も信頼する臣下の1人で、金柑頭と渾名を付けるほど気に入っていた男、明智光秀アケチミツヒデである。


 小姓として、可愛がっていた森蘭丸モリランマル森力丸モリリキマル森坊丸モリボウマルらからその報告を聞いた彼は一言『是非も無し』と呟くのみであった。


 アイツならもうどうしようもないという明智光秀への最大級の賛辞であった。


 思い返せば、裏切りの多い人生であった。


 血を分けた弟の織田信行オダノブユキには、後継者争いを起こされ、自分の考えに理解を示してくれ妹を託した友の浅井長政アザイナガマサには、最悪のタイミングで裏切られ、大事な家臣の1人である森蘭丸たちの父の森可成モリヨシナリを失う事となった。


 上洛を助けた足利義昭アシカガヨシアキにも、将軍家の臣下になれという、提案を断ったがために恨みを買い裏切られた。


 そして、信じていた宗教にも裏切られた。


 比叡山ひえいざんの僧を騙るものたちである。


 宗教者としての責務を果たさず放蕩三昧する彼らを見た時、信長は全てを一旦無にするしかないと考えた。


 するとどうだ。


 信長は神も仏も恐れぬ魔王じゃ。


 その中でも最高位の第六天魔王だいろくてんまおうじゃと忌み嫌われるようになった。


 信長の心を理解してくれるものは数少なかった。


 それぐらいこの時代における信長という男が成し遂げてきたことは革新的だったのだ。


 それを恐れた者たちによる反抗。


 それはどうやら1番信頼していた明智光秀にも伸びていたようである。


 絶体絶命の中もたらされる報告は、誰々が討ち死にしましたという報告ばかりである。


 思い返せばもっと上手く立ち直れたかも知れないと考えることもある。


 間も無く死ぬ身で何を考えてもせんなきことなのだが。


「蘭よ。決して、金柑頭きんかんあたまをここに踏み入らせてはならぬぞ」


「信長様のために必ずや食い止めます」


「うぬたち父子には苦労をかけっぱなしだったな。此度も死地の旅へと連れて行くことを許せ」


「何をおっしゃいます。大丈夫です兄上は優秀ですからきっと森家を守ってくださいます。私が成すべきは殿の命を何よりも優先することです」


「すまぬ。外に出たらここに火をかけよ。今生の別れじゃ。今まで大義であった。お蘭よ」


「はっ。では、時間を稼いで参ります。力・坊、ここの守りは任せたぞ」


「はい。兄上。我々が必ず食い止めまする」


 3人が出ていき。力丸と坊丸は入口の守護を蘭丸は外に出て、火を放ち、果敢に敵を斬る。


弥助ヤスケ、うぬにも世話をかけるな」


「ノブナガさん、オレのイノチ、スクッテクレタ。イマこそ、おんカエス」


「片言でわかりにくいが何が言いたい方はよくわかる。金柑頭に我が首、渡すでないぞ」


「イエス。ボス」


 人間50年下天の内をくらぶれば夢幻の如くなりであるか。


 ワシの好きな幸若舞こうわかまい敦盛あつもりの一幕じゃ。


 流石に踊ってる余裕はないがな。


 それにしても2年早く死ぬこととなろうとは。


 帰蝶キチョウ、うぬとの間に子を成せなかったことは心残りよ。


 であるがワシの心を誰やらも理解してくれていたのもまたうぬのみよ。


 信忠ノブタダ、お前の進言通り、少し兵を多くしておくのだったな。


 すまぬ父は先に逝く。


 帰蝶と織田家のことは頼んだぞ。


 実に恥も多いが愉快な人生であったわ。


 金柑頭よ。


 ワシの首、軽くはないぞ。



 こうして、弥助の介錯によって、その命を失うことになる。享年48歳であった。



 ん?


 ここはどこじゃ?


 ワシは確かに弥助の介錯によって、その生涯を閉じたはずじゃが?


 声を出そうにもあーやうーしか発せぬ。


 これではまるで赤子ではないか。


 まさか。


 そのようなことあるまい。


 輪廻転生りんねてんせいなど。


 しかし、眩しくてよく目が見えぬな。


 信長は、身体を動かすと目に小さい手が映った。


 まさか、ワシは本当に赤子に転生したというのか?


 ここは日の本なのか?


 一体どこじゃ?


 先ずは、置かれている状況を確認せねばなるまい。



 信長がうっすらと目を開けるととても日本とは思えないバテレンの宣教師のような白人の男性がこちらを見ていた。



 腰に剣を差しているが手入れがされている様子はなく。


 鼻が高く。


 口元は尖っていて、目は吊り目。


 髪の毛は金髪で身体付きは剣を差している割には、細すぎる。


 ろくに鍛錬もしていないことが伺い知れた。


 次に抱かれている女性の方を見ると。


 こちらは容姿端麗、まるでどこかのお嬢様というぐらいに容姿は整っていて、髪の毛は金髪で左右は渦を巻いていて、前髪は垂れていて、髪は長い。


 身体も女性らしく出るところはしっかりと出ている。


「でかしたぞマーガレット」


 女性の方の名前はマーガレットというらしい。


「可愛いですわね。ロルフと私の赤ちゃん、初めまして」


 男性の方はロルフというらしい。


 まぁ、この時は言ってることが分からず名前の部分だけしか聞き取れなかったのじゃが。


 どうやら、ワシは何処か異国の地に輪廻転生したようじゃ。


 こうしては居れん。


 日の本はどうなっている?


 すぐに知らねば。


 動かぬ身体が憎い。


 どうやら今は、この者らの子供として、成長するしかないようじゃ。


 是非も無し。


 ここより、金柑頭に一矢報いてくれようぞ。



 ここが全く別の世界とも知らず信長は、そう決意を固めるのだった。

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