顔なき魔法使いは笑ってる

@shikiefa

第1話 多分私は…

 私は病気らしい。治ることのない病気だ。

日の光を浴びれば体中に激痛が走る。

歩こうと立ち上がれば、足の骨が折れる。

くしゃみをしようものなら生死をさまよう

そんなありえないと叫びたくなる病気に私はかかってしまったらしい。

生まれた時から外に出たことはない。ずっと、病院の地下に作られた

光を一切通さない部屋で横になって生きている。

薄暗いが人の顔が確認できるくらいには明るい。

毎日、目を覚ませば真っ白な部屋で一人寂しく呼吸をし

眠りにつけばある夢を見て絶望する。

その夢は、自分が楽しそうに笑い、走り、友達を作り

遊んでいる。そんな夢。

動けば骨が砕け、外に出れば激痛、そんな現実の自分と比べて

心を閉ざす。

毎日、先生方は私に話をしてくれる。

面白い話もあった、そのたびに話をしようと口を開けるが

上手く声がでない。

力が入らないのだ。

15年私はここにいる

何度もここを出たいと思った。誕生日が来るたびに幸せを感じ翌朝には絶望した。

そんな私に両親は会いに来なかった。15年で一度も…。

こんな変な病気の子供だ、多分私を捨てたのだろう。

そう考えると涙があふれてくる。


16歳になった

毎年の誕生日、私は楽しみにしていることがある。

そう一口ケーキだ。私でも食べられるように先生が手作りしてくれた溶けるケーキ

ケーキの味をしっかりと残しつつ力を入れると顎が粉砕する

溶けるから私でも食べられる、最高の一品だ。

この日だけは、私は幸せそうに笑うらしい。

私は外に出れないから、これ以上に美味しいものなど知らない。

いつもは味の薄いゼリー、べちょべちょしているから苦手だし

あまり食べたくはない。

声が出れば変更を願えるのだが…。

無理に近い話だ、だからこのケーキが出るこの日だけは

私は幸せな気分で一日を過ごすことができる。

笑顔のまま眠りにつく。

その日も夢を見る。

友達をつれ、走り、転び、立ち上がり、また走る

そんな自分を少し遠いところから見ている。

楽しそうに笑う自分の顔が見える。


「今日ぐらいは…私がそっち側にいてもいいじゃん」


ぼそっと、そう言葉が漏れる。

夢の癖に涙は出るようだ。

言葉も話せれば、涙も出る。

なのになぜ私は向こうへ行けないの

そんなこと思いながら

飽きるほど自分が楽しんでいる風景を見た。


目が覚めれば真っ白な部屋、機械の音と天井につけられたテレビの音

いつもと何も変わらない。

自然と涙があふれてくる。

動かそうとしてもビクともしない腕

起き上がろうとしても痛みだけ残して動かない。

目を閉じれば浮かび上がってくる。

楽しそうに走り遊んでいる自分

動けない私の理想の姿


「なん…でよ!なんで!!」


初めて大きな声が出た。

お腹に痛みを感じる。

周りにいた全員が私のほうを見る。

出るわけのない人間から大きな声が出れば

見るのも当然だろう。

そんなことも気づかず、私は叫び続ける


「どうして!なんで!私は自分で起き上がることすらできないのに!

なんであんたは私に楽しそうに遊ぶ姿を見せてくるの!

自慢ですか!私は走れるし友達もできるって私に自慢しているのか!

夢の中でくらい、夢の…中、私も…走れたって…」


喉が痛い、お腹も痛い、背中も痛い、体中が痛い

先生たちが私に駆け寄る。

「大丈夫?」「大丈夫か?」などと私に話しかけている。

もう声はでなかった。苦しい。痛い、痛い

心なしかいつもより機械の音が早い気がする。


「心拍数上がってます!院長大変です!」


「どうしてだ!気をしっかり!!くっ!治療室へ運べ!」


このベッドはタイヤがついている何か起きれば

すぐに移動できるようにだ

扉が開き、私は風を感じた。

なんだか気持ちがいい。

ベッドに揺られ、先生たちが何か言っている

さっきまで感じていた痛みはもうなかった。

揺られて感じる風が今はとてもいいものに感じる。

瞼が重い。必死に呼びかけている先生たちがうっすら見える。


(先生、大丈夫です、もう痛くないです。

今は自分で力を入れることができて嬉しいんです)


今日はもう眠い、頑張ったからかな

不思議と今日はあの夢を見ない気がした。

別の、幸せな夢を見る気がする

私はゆっくりと目を閉じる。

明日はきっといつもとは違い元気があると思います。

そうして私は深い眠りへとついた。


夢を見た、見渡す限りの緑の中

真ん中で一人、歩いている夢だ。

私が夢の中で歩いている。

走れもする、ジャンプもできる

楽しかった。夢だと…思いたくないほど

私は楽しんだ。

でも夢は終わる。

突然と私はいつもの真っ白な部屋に居た。


「終わっちゃった」


そう言葉が出た。小さくもなければ大きくもない声

周りには誰もいない。ただ目の前に2つの光がある。

青い光と白い光だ。

白い光には人影が見える。女性と男性だろうか

お互いに手を取り、こちらを見つめている。

青い光には、長い髪の女性と小さい女の子、赤ん坊が見える。

体を起こす、力を入れればすっと起き上がることができた。

まだ夢の中なのだろう。

ゆっくりと光の方へと近づく。

近づくにつれて声が聞こえてくる。

青い光の方からだ


「師匠、この子は大丈夫なのでしょうか?」


「心配ないノアン、多分」


赤ん坊のことだろう、何かの病気なのだろうか

白い光からは何も聞こえない。

遠いからだろうか、私は白い光の方へと向かう。

近づいても何も聞こえない。

私はとりあえず光の目の前まで来た。

人影の握っていた手がほどける

女性の方が私に手を伸ばす。それを男性が手を間に入れ阻止する

女性は男性の方を見てうなずき、大きく息を吸った。

男性の方は私の方をじっと見ている


「向こうに…行きなさい」


女性が優しい声色でそう言った。

今にも泣きだしそうなのを抑えているようにも聞こえる


「お前にはまだ、早い」


早い?何を言っているのだろう

女性の方が顔を抑える

男性が女性の肩に手をまわし私の方を見て言う


「お前は目を覚ます。今度は元気にな」


涙ぐんだその声は、何故か私を安心させる。

男性のほうが指をさす、青い光のほうだ。


「じゃあな」


そういい手を振る。女性のほうも小刻みに震えながら手を振る

手を振られ、私も振り返す。

手が動く、あんだけ力を入れてもびくともしなかった手が…

興奮して笑みがこぼれる。

私が笑うと、人影が小刻みに震えているのがわかる

泣いているのだろうか。


「元気で…ね」


女性の声と共に白い光は消えていった。

白い光が消えると同時に私の目が覚める。

目を開ける、窓から差し込む光が見える。

痛くはない、温かさも感じる。

私を覗き込むかのように長い髪の赤毛の女性が私を見る


「ノアン、ガキが起きたぞ」


窓の外を見ながらそう言った。

確かに私はろくな食事もとってないから

身長はないが16歳だ子供じゃない。

赤毛の女性がそう言ってから数秒

ドン!と大きな音を立て、窓から私を覗き込む

金色の髪をした少女がいた。

金髪の少女は私を見てやや興奮気味に言った。


「やりました!やりました!師匠!これで私も一人前ですよね!」


飛び跳ね喜ぶ金髪の少女、私を抱き上げクルクルと回したり走り出す。


「一人前?ノアンお前がか?」


赤毛の女性がそう言うと、「え?」と声を上げ

立ち止まる。

赤毛の女性は山に指す。


「迷宮攻略もできないお前が一人前になれるわけないだろう」


そう言われると金髪の少女が崩れ落ちる。

力が抜けたのか、私から手を放す。

落ちるときふと手足が視界に入った。

小さかった。まるで生まれたての赤子のように

その時理解した。私は生まれ変わったのだと。

なら、前の私は……死んでしまったということ。

ていうより首の座っていない赤子を振り回すのってどうなの


金髪の少女が手元に私がいないことに気づき私のほうを見る

私は地面と当たる直前だ。

金髪の少女が叫び声をあげる。


「ししょぉおおおおおお」


「はぁ」


叫ぶ少女と呆れる赤毛の女性


「あ、あーう」


私の声が二人の間に入る

もう無理だ、絶対に当たる

赤子の体で声を上げた。

助けての言葉は赤子の声帯では出なかった。

目をつぶり、痛みを覚悟する。

死にたくない!!

せっかく、生まれ変われたのに。


痛みはなかった。死んじゃったのかな

私はそう思いゆっくりと目を開ける。

目の前には地面があり、私は浮いていた。


「師匠!」


金髪の少女のうれしそうな声が聞こえる。


それよりもなぜ私は浮いているの?

何が起きた?え、死んだってこと?

ぷかぷかと浮いている私を赤毛の女性が抱っこする

片手には杖を持っており、よく見ると青いローブに三角帽子

まるでアニメの魔女のような恰好をしている。


「師匠、ありがとうございます、ごめなさい!」


金髪の少女も白いローブに三角帽子、似たような恰好をしている


「ノアンもうガキ持ってはしゃぐんじゃねぞ」


「はい」


少し落ち込んだ声でそう返事すると

赤毛の女性が私を見る。

はぁ、とため息をし言った。


「ノアン、こいつに治癒魔法をかけてやれ」


「は、はい!」


魔法?なんの冗談?、そう思った。

赤毛の女性が私を金髪の少女へと渡す。

金髪の少女は私の胸に手を置く

目をつぶり、集中している。

金髪の少女が目を開けると

手から緑色の光が出ていた。


「師匠!終わりました!」


「なら早く寝かせてやれ」


魔法のある世界、確証はない、ないが多分。



       異世界に転生した。







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