第60話 今宵、星になる

【前回のあらすじ】

ことなつの活躍でオーグマン撃破! まい先輩、ぴあ、今戻るからな!」


   #   ♪   ♭


 出海でみ西にし高校、旧校舎中庭。

 せ戻った決戦の地で、ことは戦況を見渡す。


 中央に立つのは五侯爵の首魁・パルヴェーク。壁際ではまいがぴあを助け起こしている。


 そして、双方の間には、半ベソで膝を震わせているツインテ双子姉妹がいた。


「マヨミノ!? お前ら、わざわざ引き返して来たのか!」

ことセンパイ! こっちは全員無事です~!」


 マヨたちは、おっかない上司を相手に勇気を振り絞り、時間を稼いでくれたのだろう。ことは素直な感謝を表さずにいられなかった。


「二人ともよくやった。あとはオレに任せとけ」


 ことは速やかに双子たちと場所を入れ替わる。まいが安堵の表情を見せた。


「私も少しはことちゃんの役に立てたかなぁ」

「当然ッス。先輩もぴあも、マヨミノも……なつもスゲー頑張ってくれましたよ」


 なつの名を口にする否や、ぴあがはっと顔を上げる。


「そうですわ! 綾重あやしげさんはどうなさいましたの!?」

「心配すんな。あいつはオレを先に送り出してくれたんだ。ちゃんと後から来る」


 ことはぴあをなだめ、敵の方へ向き直った。


 泰然たるたたずまいのパルヴェークだが、無傷というわけではない。全身のあちこちには光弦で焼き切れた跡が、そして肩から胸にかけては魔剣による裂傷が刻まれている。


「あのオーグマンを倒して来たのですか」

「ああ。存分に戦えて満足してたみてーだぜ」

「……そうですか」


 パルヴェークは長いまばたきの後、ことを見据えて言い放つ。


めい治家じやこと。貴方を強者と認めましょう。ついては、わらわの配下として共に覇道を歩むつもりはありませんか?」

「はあぁっ!? 何言ってんだテメェ、イカレてんのか!?」


 思わずことは言い返すも、パルヴェークの態度は変わらない。


「貴方の力は悪魔にとっての脅威。だからこそ、弱いうちに芽を摘まねばならない。今まではそう思っていました」

「オレの強さが手に負えねぇってわかった途端、味方に引き入れて利用しようってのか?」


 ことの問いに、パルヴェークは悪びれる様子もなくうなずいた。


「妾が覇者となったあかつきには、人間界の自治・独立をできる限り維持できるよう取り計らいましょう」

「てめーの都合で部下を切り捨てるようなボスが信用できるはずねーだろ。却下だ、却下」


 当然、交渉は決裂。だが、パルヴェークはなおも強気である。


「強がりはおよしなさい。貴方にはもう戦える力は残っていないのでしょう」

「一発分は残してあるぜ。今のあんたを倒すにはそれで充分だろ?」


 ことは腰だめに構えた両掌に闘気をみなぎらせる。しかしパルヴェークは動じず。


「この間合いで妾に当てられるとお思いですか?」

「確かに、オレ一人じゃ無理だろうな。――おい、いるんだろ? マキナ!」


 ことは確信を持って、校舎中に響くよう声を張り上げた。

 ややあって、開け放たれた通用口から、銀髪の魔術士が飄々と姿を見せる。


「やあ、ことクン。ワタシの見せ場を取っておいてくれるとは感心だねぇ」

「ったく、重役出勤も大概にしとけよ」


 軽口を叩き合う。やけに懐かしい気分だ。感慨に浸りたくなる気持ちを抑え、ことはパルヴェークに注意を向けた。


「やはり来ましたか」

「パルヴェーククン、お別れを言いに来たよ。残念だが、ワタシたちは敵同士として出会ってしまったからね。どちらが倒れようと恨みっこなしだ」


 マキナの決意を見て取ったか、パルヴェークもそれを受け入れる。


「よいでしょう。元より我が後ろに道はありません。手に入らぬものならば――壊すまで!」


 殺気がにわかに膨れ上がる。凝縮された魔力が鋭い鎌刃と化して、パルヴェークの両手両足を覆った。

 もしことが攻撃を外せば、次の瞬間、確実にここにいる全員が「刈られる」。


「迷わず撃ちたまえ、ことクン。ワタシを信じるんだ」


 マキナの声がことの背中を押した。


「行くぜ……〈魂波ソルファ〉!!」


 ありったけの闘志を込めた蒼い波動が、ことの正面へ撃ち出され――横にかわされた。


「フフ……何と、あっけない……」


 パルヴェークは前のめりに崩れ落ちる。その背後と側方には、マキナがこじ開けた空間の亀裂がそれぞれ広がっていた。空隙くうげきを通った〈魂波ソルファ〉が背中側から直撃していたのだ。

 波動はパルヴェークの胸の傷痕を食い破り、致命傷となっていた。


「キミが切り捨てた部下デムネシュの力、活用させてもらったよ」

「道理で……貴方を閉じ込めておける……はずが、ない……」


 因果応報を悟ったパルヴェークの表情は、実に晴れやかだった。

 マキナはパルヴェークに歩み寄り、そっと問いかける。


「言い残すことはあるかい?」

「……ギョニソ」

「ああ」

「美味しかっ……た――」


 パルヴェークの身体は輝く星屑となって爆ぜ散った。ちょうど辺りを覆い始めていた夕闇を照らし出すかのように。


 マキナは黙って空隙を開き、中から取り出した聖杯で霊質を吸い寄せる。余さず回収を終えると、再び杯を仕舞い、元どおり空間を閉じた。


「……終わりましたのね」

「うん……」


 ぴあまいが確かめ合うのを聞いて、ことはその場にどっかと腰を下ろした。

 茫然と立ち尽くす双子たちを横目に見つつ。


かたき討ちならいつでも受けて立つぜ」


 マヨもミノも首を横に振った。


「マヨたちはセンパイについてく。パルヴェーク様が初めて許してくれた、マヨたちのワガママだから」

「右に同じ……」

「そっか」


 ことは納得した。思い返せば、パルヴェークは部下たちの望みをしっかりと叶えてやっていたのかもしれない。


 マヨとミノには、虚勢を張らずに生きられる居場所を。

 オーグマンには、持て余した力を存分に振るえる好敵手を。

 デムネシュには、JKにしばき倒されるというドMの夢を。


(最後で台無しじゃねーか! あのキモ男のことはもう思い出したくねーな……)


 頭を抱えることのもとへ、マキナがおもむろに近付いてくる。


「大丈夫かい、ことクン。随分とお疲れだろう」

「あんたこそ。ちょっとやつれたんじゃねーのか?」

「スリムになったと言ってくれたまえ。ヒーローにはデリカシーも必要だよ」


 マキナは隣に腰を下ろし、ことの肩に身を預ける。

 こんな甘えたふりをするなんて、どういう風の吹き回しだろうか――そんな疑問も、星の瞬く紫色の空を見上げるうち、ことの頭から霧散していった。


「ヒーローかぁ……」


 これまでは、ヒーローという存在に漠然と憧れていただけだった。今になって、その理由がやっとわかった気がする。


「オレはきっと、日常を守りたかったんだ。まい先輩と唐揚げ食ったり、ぴあと買い物行ったり、マキナとしょーもねーこと駄弁だべったりする、何でもない毎日をさ」

黄昏たそがれてるねぇ」

黄昏時たそがれどきだしな。それより、まだあんたには言ってなかったな。オレが実はホムンクルスだって」


 以前に電話で言いそびれていたことを、ことはマキナに打ち明ける。反応は予想どおりだった。


「気づいていたさ。最初にキミを見かけた時からね」

「やっぱりか。やけにしつこくスカウトしてくると思ったぜ」


 本当は、ほかにもっと話したいことがたくさんあったはずだ。

 でも、珍しくウザく感じないマキナの笑顔を前にしたら、どうでもよくなってしまった。


ことクン。ワタシはいつでもキミの味方だからね」

「は? 当たり前だろ」

「その言葉、決して忘れないでいてくれたまえよ」


 そう言った翌月、マキナはことたちの前から姿を消した。




(次章につづく)

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