第2話「あなたなんか大嫌いです(メアリー√)」

 

 今僕は一人の女性とベッドの上に座っている。

 その女性は例の不機嫌令嬢メアリーだった。

 メアリーはwikiによると相手役を嫌っていて、僕の予想だとその性格から強気で拒否すれば折れてくれるはずだった。

 本来ゲームではその役割を主人公のユリアがするのだろうが今回は僕が直接やる事になる。

 しかし本当の大人の女性を実際に相手にした僕は中々言葉が出てこなかった。

 同世代の女子高生とは違う圧があるのだ。

 加えてメアリーの不機嫌そうな形相はかなり怖く、夜伽と言う初めての状況も合わさって、僕は緊張と恐怖で震えていた。

 これなら意地を張らず攻略wikiをちゃんと見ておけばよかった……。

 しかし僕はなんとか勇気を振り絞って震え声でメアリーに声を掛けた。


「あ、あの、怒ってませんか?嫌ならいいんですよ?」


 僕は遠慮しがちに言う。

 彼女は僕の方を不機嫌そうに向いて口を開いた。


「嫌に決まってるじゃないですか。でも家の命令には逆らえませんから」


「そうですか……なんかごめんなさい」


「謝らないで下さい、義務ですから」


 彼女は淡々としかし鋭い目付きで僕に向かって答えた。

 そして着ていたドレスを半分脱ぐと布団でその美しい素肌を隠した。

 僕は最初戸惑っていたがいそいそとズボンを脱いだ。

 そして、彼女は片方の手袋を脱いだ。

 不思議に思った僕が眺めていると彼女はその手袋を僕の【自主規制】に被せた。

 内側の彼女のぬくもりとシルクの手袋のサラサラ感に思わず感じてしまう僕。

 彼女は手袋を掴むとそれを上下に動かし始めた。

 その刺激に僕は耐えきれずに果ててしまう。


「だらしがない人。はぁはぁ息を荒げて気持ち悪い……」


「だって……」


「だってもへちまもありません。私の婚約者になるんならこれ位耐えて下さい。このザマじゃ子作りなんてできませんよ?」


「うううう……」


 思わず涙目になる僕。

 彼女は半脱ぎしたドレスのスカートを嫌々たくし上げると、その純白の布を僕に見せつけた。


「男の人はこういうのが好きなんでしょ?泣くのをおやめなさい」

 

 彼女は僕が泣き止むのを見ると僕にまたがってその腰を前後に動かし始めた。

 先程見せた純白の布越しに彼女の体が僕に擦り付けられていく。

 彼女の体温を感じつつも僕のズボンは次第に熱くなっていった。

 そして―


【自主規制】


 夜伽の時間は終わった。

 彼女はハンカチで口を拭き、手袋を脱ぐとそれを汚らわしい物を捨てるかのようにベッドの上に放り投げた。

 僕は気持ちよさで意識が半分飛んだ様に朦朧としている。

 メアリーは僕の方を嫌悪に満ちた表情で睨みつけると舌打ちをした。


「じゃあ、私はこれで……」


「すみません、すみません」


「だから謝らないでって言ってるでしょう?まさかあなた童貞ですか?」


「うぐっ……」


 あまりの自分の情けなさに僕の目には涙が浮かんでいた。


「わァ、泣いちゃった。クスっ」


 それが彼女が初めて見せてくれた笑顔だった。


 ―


「で、彼泣いちゃったのよ」


「マジかよw情けねーなwww」


 皆が集まっている僕の家のテラスではメアリーが同じ婚約者候補のレイアと談笑している。

 無論その肴は僕の悪口だ。


「お、お前達!そんな事言ってるとモリガンさんに言いつけてやるからな!」


 モリガンの名前を聞きびくっとなる二人。

 しかしその数秒後に二人はニヤリと笑った。

 いじめっ子にチクると言えば待ってる展開はただ一つ、更なるいじめなのだ。


 ―


「はぁ、子作り以外の夜伽は正直したくないのだけれど……」


 相変わらず不機嫌そうな顔でメアリーが言う。


「いいじゃねぇか。生意気なショタを懲らしめるなんて楽しい遊びだろ?」


 レイアが大笑いしながら得意げに言う。

 僕はと言うとただパンツ一丁で二人からの指示を待ってるだけだった。

 それから―


【自主規制】


 メアリーは相変わらず汚らわしい物を触る様に口を拭いたハンカチと手袋を投げ捨てる。

 それを見たレイアは驚いていた。


「おいおい、勿体ねーじゃねーか。毎回捨ててんのか?」


「当たり前でしょ。こんな汚らわしいの、幾らお洗濯しても食べ物やお洋服、人に触るのになんて……特にハンカチはお口を拭くのに使うのよ?ありえないわ」


「ふーん、そういうもんかね」


 レイアは同じくハンカチで口を拭くとそのまま鞄に閉まった。

 内折にしてるから汚れは付かない……筈である。


「あなた、不潔だわ……」


「お前が潔癖症なんだよ」


 二人が不機嫌そうに言う。

 僕は完全に蚊帳の外だった。


 ―


 しばらくしてレイアは出て行った。

 今はメアリーと二人っきりだった。

 机には紅茶とお茶菓子があり二人でお茶を楽しんでいる。

 その時だけ彼女が笑顔になっていた、営業スマイルかもしれないけれど。

 しかし僕が見たい表情はそれじゃない。

 夜が近付くにつれ彼女の顔が不機嫌になっていく。


 そして戦慄の夜が訪れた。


 僕はすっかり彼女の不機嫌そうな顔の虜になってしまった。

 彼女の不機嫌な顔、不機嫌な声、嫌々動かす手、早く終わらしたいと急ぐ様、全てが僕の性癖にぶっ刺さっていた。


 本来なら彼女の回避方法は


「そんなに僕の事を嫌いなら素直に離れればいいだろ!君の父上には上手く言っておくから!」


 と強気で言えば彼女の面子も立つし彼女の性格からして後腐れなく去ってくれる。

 しかし今の状況を僕は楽しんでしまっている。

 そして同じくメアリーも嫌悪感を抱きながらも楽しんでいた。

 だって僕が眠った(フリの)後にこっそり見たら不敵な笑みを浮かべていたのだから。


「ああもう、本当に気持ち悪い。早く果てて下さい」


 その笑顔を見ている頃には僕の心の中にもうユリアはいなかった。


 BADENDその1、メアリーEND

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