異世界に落ちたらSFで、俺の黒歴史ノートが貴重な資料として飾られていた

白火取

バイブル

異世界に落ちることなんてあるんだな、正直驚いた。

どうせだったら転生か召喚でチートスキルを付けて欲しかった。


軟弱現代人が生きていけるといいなぁ、と思いながら辺りを見回すと、

手入れのされた森の向こうに、SFチックな先端が銀の球体の塔が幾つか見えた。

あ、もしかして剣と魔法の世界ではない?それは残念だ。

まあチートスキルがないから剣術も魔法もできる気はしないけど。


とか言っているうちに、気づけば囲まれていた。

ビームサーベルのようなもので動線を阻まれる。

うん、一応剣の世界だったかー。勝ち目がない。

リーダーっぽい人が手をかざすと、いきなり空間から檻が出現した。

うん、拘束魔法もあるのかー。勝ち目が全くない。


敵意がないことをどうやって示せばいい。

『大人しくしていれば何もしません。我々と一緒に来てください』

ああ、翻訳もそっち持ちですか。こりゃあますます無双の可能性が消えた。

とりあえず様子見しよう。平和な世界だといいなぁ。


まずは病院のようなところへ連れて行かれた。

輪っかの中に立つと、全身スキャン。何となく健康診断のようだ。

こっちでいう身長体重、尿検査に血液検査、レントゲン、

全部まとめて基本パック1スキャン、みたいな空気を感じる。

異常はなかったようだ。よかった、厳重隔離されることにはならなそうだ。


何かぷっくらしたシールを貼られたと思ったら、身体にじんわり染み込んで来た。

うーん、パッケージからして、子供用の予防接種ミックスじゃないかな。

検疫も防疫もバッチリな世界みたいで安心です。多分。


カフェテリアみたいなところを眺めていたら、飲み物と食べ物を買ってくれた。

同じ物を買って、食べ方と飲み方のお手本を見せてくれる。

うん、美味しい。食事無双も無しだな。

というかお手本ついでにガチでご飯してる気がする。

もしかして俺のせいでお昼ご飯食べ損ねたのかな、この人。


さて、この後どうなるかと思っていたが、研究室預かりになるようだ。

未知の生物を保護する部門かな?意外と人が良さそうだ。

動物の檻に入れられるかと思いきや、近くにあった宿直室を片付けてくれている。

宿直室に誰かの持ち込み寝袋があって怒られているようだが、そこまでは知らない。


掃除の間、研究所入口のホールに連れて行かれた。

何だか博物館みたいだ。謎のオブジェとか謎の古文書とかが陳列されている。


と、見てはいけない、見たくない物が目に入った。

ずっと前に書いてどこにやったか分からなくなっていた、厨二ポエムノート!

思わず目を見開いたのがバレた。

そこに連れて行って、説明文を読んでくれる。


『未知の文明の預言書。我々の文明の発展が、未知の言語で書かれている。

文字の長さを揃えて韻を踏んでいる様子から詩だと考えられる。

我々の文明が追い付いていなかった部分の開発が急速に進み、

この詩のとおりの展開となったため、預言書と見る学説が通説である』


ヤメテ!黒歴史ポエムの公開処刑やめて!タスケテ!

『この本を知っているのか?』

「全く知らない。この世に存在するべきではない。処分するのが良いと思う」

『知っているのだな』


研究者っぽいのがわらわら寄ってきた!

『この文字が読めるのですか!』

『我々の文明に関する貴重な資料です!是非解読にご協力を!』

『もしかして同じ文明の方ですか!予言の仕組みご存知ないですか!』

『食べると能力が上がる件の分科会の者ですが!』

『未知金属の加工方法ですが!』


うそーん!半分以上読まれてるじゃん!暗記されてるし!

黒歴史知識無双なんかしたくねーよ!

誰かタスケテ!助けて下さい!ここでお助けさんの登場だろ!


『聖典もいいですが、こちらの「黄昏よりも昏き王」について』

『まずは聖典だろう!』

『そんなマイナー文献後回しだ!』


お?


「ケンカ売ってる?その本こそバイブル!その本こそ至高!僕らの全ての始まりの本だよ。マイナーなんて言わせない!語らせたら長いぞ!」


た、助かったー。

ありがとう、偉大な先人ありがとう。

あなたに全てをなすりつけて誤魔化しながら、この世界で生きていけそうです。

偉大な作品たちよ、俺が語り継ぎますので、俺の黒歴史は闇に葬らせて下さい。


オネガイシマス。

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