第24話 ユキノさんの過去
アッシュさんの赤ちゃんが産まれたのを見届けて治癒院へと帰ってきていた。
色々と散らかしているので片づけなければいけない。
床に散乱していた、僕がまいた薬モドキたちを片づけていく。
「ヤブ先生って、子供が好きなんですか? 凄い子供に肩入れしている様な……」
「はははっ。そうですよねぇ。実は、僕には子供が居ます。ただ、一緒にはくらしていません。なんといえばいいのか。一時、僕のせいでお金を稼げなくなりましてねぇ。その時に出ていたんですよ」
「!?……そんなのひどすぎます! それを支えてこその家族じゃないんですか!?」
そう考える人もいるだろうけど。
「僕はよかったと思っているんだ。僕のせいで子供まで周りから酷いことを言われるのは避けたかったらね」
「んー。そういうものですか?」
「そうですね。僕は納得しています。それ以来会わせてもらえなくて、寂しい思いをしていたから子供には甘くなってしまうのかもしれません。それに、子供の為には親にも子供を好きになって欲しい。そういう思いが、あるんですよねぇ」
「なるほど。だから、あんなに必死に……」
「他にも理由はありますけど、それはまた後で。片づけましょっか」
床に散乱した物を片づけながら考える。
今までは薬でどうにかできた。
手術が必要になったらどうするか。
シービレが使えるのではないか?
痺れていれば痛みは感じないだろう。
あとは、あの蝶の眠りの鱗粉があれば完璧か。
でもなぁ、メスとかないし。
あの世界の道具を揃えようなんて職人が何人必要か。それにお金がどれだけ必要かわからない。
この世界ならではの治療法をみつけるしかないのかもしれないなぁ。
「私も、自分のことを話そうと思います」
どうしたんだろう。急に。
そう思い、首を傾げると。
「自分のこと何も話してないじゃないですか」
「いや、無理に話さなくてもいいですよ?」
「話したいんです」
少し暗い顔をしながら話し出した。
ユキノさんは子供の頃、治癒士に助けられたんだそうだ。咳をしていて、鼻水が出て、頭がボーッとして辛かったそう。
そんなときでも親はお金が無く、治癒士に見せることができなかったそうだ。親はなんとか少ない報酬で治療してもらおうといろんな治癒士にお願いしていたんだろうだ。
親は罵倒されたり、無視されたりとさんざんな対応だったそうだ。そんな中、一人の治癒士が名乗りを上げてユキノさんへ治癒魔法をかけてくれたんだろうだ。
それも、効果が弱いので何度もかけてくれたそう。その後、名前も名乗らずにフラっと帰って行ったそうだ。ありったけのお金を差し出したそうだ。
でも、その治癒士がお金を受け取ることはなく。ユキノさんへ美味しい物を食べさせた方が良いと告げて、その場を去ったんだそうだ。
僕が最初に患者さんを助けたところみて、その人と重なったんだそう。
だから、僕についてきて何かを学ぼうとしたんだとか。
それを聴いてむず痒い思いだった。
僕は、その人のように素晴らしい人ではないと思う。
少しでもお金を貰ってしまうような姑息な人間だ。
その人は旅をしているのだろうか。いつか会ってみたいものである。
「そこまで立派な人間ではないですよ? 僕みたいなヤブ医者についてたら後悔しますよ?」
「ふふふっ」
急にユキノさんは笑い出した。
何も面白いこと言ってないんだけど。
何したのだろう?
「先生は、ちゃんとした治癒士です。私が保証します。こう見えても、治癒士を十年しているんです。十五歳からずっと」
「それは凄い。頑張ったんですね」
「だから、わかるんです。先生の言っていることは間違ってない。そして、全て患者さんのことを思ってのことだって。今の治癒士は、自分のことしか考えていません。お金を儲けることしか考えていません」
「たしかに、この前の治癒士も。治せないのにお金を要求していましたね?」
「そうです。そんな輩ばっかりだったんです。それが、私は嫌でした。苦痛でした。何もできない自分が許せなかった」
その思いは、僕も味わったことがある。
どうしようもない無力感。
目の前で命の灯が消えていってしまう現実。
それは、到底受け入れられない感覚だった。
おかしいと思っていたのはそれになれる人がいること。
人の命が失われていくことになれる?
人としての感覚が無くなっていくような。
そんな感覚だった。
信じられなかった。
他の人は言っていた。
「慣れないとやっていけないよ?」
僕は思った。そんなのに慣れなければいけないなら、この職じゃなくていい。患者さんに寄り添い、一人の人が亡くなったら涙を流し悔しがる。
そういう先生に僕はなりたかったんだ。
それもあって最先端の大学病院を辞めたのだ。
「わかるよ。僕も自分が許せなかった。そして、失われていく命に慣れていくのが許せなかった」
「私もです。治癒魔法が効かない人は命が失われても仕方がない。そんなのおかしいです。何も方法を探ろうともしないなんて」
「うん。そうですね。おかしい。ユキノさんの感覚は、僕に近いです」
「……よかった。これからもついて行きます」
「ありがとうございます。僕が薬を諦めかけた時、諦めないでいてくれたから、どうにかなったんです。ユキノさんのおかげです」
頭を下げた。僕は、あのとき諦めようとしていた。喝とアドバイスをくれたユキノさんのおかげで成果が出たんだ。
「お役に立ててよかったです。さっ、夜ご飯、食べましょっか」
「はい。作るのも面倒です。屋台で買いましょうか」
「はいっ!」
ユキノさんと治癒院を後にした。
なんとかアッシュさんを助けられた。
それから、シービレで苦しんでいる人たちに、僕の作った薬が渡っていったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます