第6話 治癒士ギルドの有様

 次の日、泊めて貰った僕はゆっくりと睡眠をとることができ、傷口も順調に皮膚がくっついているように感じる。かさぶたができているのだから大丈夫だろう。


「それじゃあ、行きましょ!」


 ユキノさんが先頭になり、街へと繰り出す。

 

 廃屋と化した元治癒院は何個かあるらしい。

 まずは、廃屋を管理している治癒士ギルドへと向かう。

 治癒院なので、ギルドの方で管理していたようだ。


 白い壁の建物へと入っていくユキノさん。

 その後に続いて扉を潜る。

 潜った先にはガラーンとしたエントランスが広がっていた。


 受け付けの人は暇そうに肘をついてウトウトしていた。


「こんにちは! 元治癒院の物件、見せて欲しいんですけど!」


「あっ! はいっ! あー。ユキノさんですか。元治癒院の物件ですか? どうするんです?」


「この人と治癒院を開くんです」


「またー。魔法の効かないこのご時世、治癒院なんてやっても仕方ないですよ? もうこの世界の人達は病気や怪我をしたら、そのままにしていることしかできないんですよ」


 その発言に、僕は少し眉を寄せてしまった。

 何か方法はないかを探ることもしないなんてどうかしている。

 治癒士ギルドという名がついているのに、恥ずかしくないのだろうか。


「何か方法を探ることもしないのですか?」


 思わず口に出てしまった。

 しまった。と思ったが、すでに遅い。

 その受付嬢は目を細めるとカウンターを叩いた。


「他の方法なんてないでしょ!?」


「薬もないんですか?」


「魔力回復薬と回復薬はあるけど!? それで怪我は治らないわ! 体力が回復するだけよ!」


 ふむ。本当に模索もしていないんだね。

 研究もされていないなんて本当に廃れていたみたいだ。

 このギルドにはガッカリだ。


「ガッカリです。それでよく治癒士ギルドなんて名乗れますね?」


「はぁぁ? あんたなんなの?」


 受付嬢は僕に詰め寄り、睨み付けてくる。

 別にそういうことがしたいわけじゃない。

 そんなことをしている時間も惜しいのだ。


「この人は、魔法以外の治療ができる治癒士です! 見てください! この怪我。魔法で治していません。糸で縫ってくっつけているんです!」


 ユキノさんが得意気に受付嬢へと語っている。

 僕の足の傷を指さしてドヤ顔だ。


「なんですって!? あんた何者?」


「別に。ただの田舎の治癒士ですよ。物件、見せて貰えます?」


 少し苛立ちながらそう言い放つ。

 この人との会話は時間の無駄な気がする。

 奥へと行くと資料を持っていた。


 ザラザラの紙に場所と家賃がかかれている。

 ふーん。ひと月五千ゴールドなら破格の安さだろう。

 一人二千ゴールドとるにしても三人は診察に来るだろうから採算はとれそうだ。


「あの、先ほどは失礼いたしました! そんな技術をもった治癒士だと知らずに、失礼をしました!」


「別にいいですよ」


「あのー。治癒士としてのご登録は?」


「してません。するつもりないですけど?」


「なぜでしょうか?」


「魔法の効果がない。治療できない。その時点で他の方法を探るべきです。それなのに放っておいて、病気になって治らなくても仕方がない。傷を負って治らなければ死ぬしかない。そういうことですよね?」


「そ、それは……」


「そんなギルド。登録する必要あります? 患者を助けるつもりあるんですか? そんなんで、治癒士ギルドを名乗る資格あるんですか?」


「……」


 その受付嬢は無言になった。

 僕は怒っている。

 こんな人たちを医者だと認めたくはない。


「すまないね。君は志が高い治癒士のようだ。このギルドの長をしている。ギルドマスターだ。方法は探っていたのだが、まったく先が見えなかったんだ。まったく面目ない。君は、もう少しこちらの立場をわかっていなければいけないよ? この方の言う通り、治療法を見いだせていないのだからね」


 話のわかるツルピカの髭を生やした老人がやってきた。

 わかっているじゃないか。

 なぜ、先が見えないのだか理解できないが。


「私達はね、魔法でしか治療をしたことがなかったんだ。昔からそうやって治してきた。だから、他の方法を思いつきもしなかったんだ。まさか、縫ってくっつけるとは……。まさに、仰天の方法だ」


 こんなの日本の遥か昔からとられていた方法だ。

 まぁ、魔法があったのならそっちを使うことだろう。

 なにもできない人間だったからこそ、考え出された方法だともいえる。


「僕からしたら、基礎の様なものです」


「それは、素晴らしい。是非とも、治癒院を開き、患者さんを治療してほしい。後に、治療法を教えて欲しいのだが、お願いできないだろうか。この通りだ」


 そのツルピカの頭をこちらへと差出し、頭を下げている。聞いてあげようかなぁ、ただとはいかないけど。


「登録したら、何か僕にメリットがあるのですか?」


「ギルドマスター権限で、物件の家賃を無料にしよう。むしろ、建物を差し上げよう」


 その言葉を聞き、それなら治療費は全て使えるし、建物を貰えるなら寝泊りもできる。願ったりかなったりだ。


「それなら、いいですよ。登録しましょう。ユキノさん、よさそうな物件を見繕って貰えますか?」


「はいっ! 任せてください!」


 資料を見ながら気になった物件の紙を抜き取っていた。

 さぁ。物件見学といこうか。

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