第14話 容疑者は聖女様!

 屍術師ネクロマンサーを捕まえようとしたら……突如、探偵謎解きショーが始まった。しかも、聖女を殺した犯人は私だと。みんなの視線が一斉に私に集まる。


 ……へぇっ!?


 呆れが7割、驚きが3割の私は絶句して硬直する。視界の端で殺された本人であるフローティア(幽霊)も呆れてため息を吐いた。


『はぁ……早くあの屍術師ベルメールを捕まえればいいのに……』


 ―――ごもっともです。私もそう思いますっ!!


 ベルメールは、そんな私達の様子を見て得意げに推理を披露した。


「ふふっ! アナタ、昨晩は自室に居なかったみたいじゃないですか? そして姿を現したのは朝。アナタの無実を証明する人が居ませんねぇ~?」


 みんなの視線が少し冷たい……。同僚のリズは目を真ん丸として驚かせ、アリサは泣きそうな顔をして首を横に振っている。


 あっ……そう言えば、私。クロに近いグレーでした。でも……


「私は殺していません!」


 私はベルメールを見据えて答える。それは天に誓ってやっていない。

 大切な親友を手に掛けるなど私自身が許さない。


「ふぅ~ん? では、アナタは昨晩から今朝にかけて、をしていたんですか?」


「そ、それは……」


 ――そうだ! ここで私が聖女と言えば状況が変わるのでは!!


 そう思って目を輝かせたら。フローが私の考えを読んだのか、私の顔を覗きこみながら、口の前で“×ダメっ”と、指をクロスさせている。


 ええっ!! 言うなって!? ……思いもよらぬフローのリアクションで、私の挙動はさらに怪しくなる。


 ルイス君は……少し怖い顔をして私を見ている。


 ……仕方ない、昨夜から今朝にかけての行動答えよう。


 私が口を開きかけた時、開いた窓から黄色い鳥が入ってきてルイスの肩に止まった。「失礼……」彼はその鳥に触れると、鳥は小さく筒状に巻かれたメモへと姿が変わる。あれは魔法による通信手段だ。


 彼はそのメモを手に取り、読み始めた。やはり、ルイス君は助けてくれないよね? はぁ……


「ゴホン……私は、昨晩から今朝にかけて城の外に出ておりました。いえ! それよりも、私よりもベルメールさんの方が怪しいでしょう!?……ふがっ! ぐぅ~~~~!!!」


 ルイスが突然、私の口を手で塞いだ!!


 ―――まって!? なんで発言を邪魔するの??


 私は口から彼の手を離そうと抵抗するが、彼は離してくれず……私の代わりにルイスが話始めた。


「失礼……たった今、フローティア嬢のアリバイが確認できました。彼女は昨晩、日付が変わる前から夜明け前にかけて私の祖母の店に居た模様です」


「ふぇ? 祖母??」


 私は驚いた。思わず手の力が抜け目を丸くして彼を見つめた。大人しくなった私からルイスは手を離す。


 今、何と言いました? 私の祖母の店??


「ルイスのお婆様とはドロシー殿の事か!?」


 マジェンダ大臣も驚いている。彼女達は王宮魔術師団という共通項がある。顔見知りなのだろう。年はドロシーの方が上だが……。


 私のアリバイが確認できたと聞いて、ベルメールは慌てて反論を始めた。


「それがなんですかァ!その魔女とやらが眠ってる間に抜け出して、聖女を殺して戻って来るともできるだろう!!」


 確かにそれも出来るかもしれないけど、あの夜私は……

 だがその問いにもルイスはメモに視線を落しながら説明する。


「祖母の話だと彼女は、細かい魔法陣を一晩で描いています。更には眠らず本も読んで……日の出前にその召喚魔法!?……を失敗して、慌てて帰って行ったそうです。ふぅ……これならば、貧血で倒れるのも頷けますね? むしろよく城まで戻って来れました。無茶しすぎですよ? フローティア嬢」


 それを聞いて、イェロー大臣や魔法に心得がある物が慌てだす。


「一介の侍女が、大魔法使いに師事してるだと!? しかも召喚魔法まで!?」

「彼女は魔法が得意だったのか!?」

「……いえ、むしろ苦手だった筈です」


 まずい。騒ぎに成っている。

 探偵役のベルメールもそれを聞いて目を白黒させていた。


「なんだと!話が違うじゃないですか……!! じゃあ! 犯人はお前だ!! そこの侍女!!」


 彼はアリサを指差して怒鳴った。それににアリサは驚き、リズに抱きついた。

 じゃあって、何よ!!でも……彼のメッキが剥がれて来たぞ。


 ルイスは、ベルメールを睨みながら問いかける。


「……ベルメール殿は今回の件について、内情を知り過ぎじゃないですか?」


「ぎくうぅぅぅ!」


 この男、分かり易いなぁ……。ルイス君は詰問を続ける。


「なぜ旅人の貴方あなたが、市民よりも早く訃報ふほうを知ることが出来たんですか? フローティア嬢の不審な行動もなぜ知っているのです? それに、聖女様が発見された時の状況も……犯人じゃないと知り得ませんよね?」


 これが決め手になったのだろう。


「この男を捕えろ!!!」


 イエロー大臣が力強く指示した。しかし、同時にベルメールも本性を現す。


「ちっ……聖女諦めますか。でも収穫は有りました。では、私はここでおいとまします! お相手ならこの子がしますので! みなさんごきげんよう!! はっはっは!!」


 床から黒い影がにゅるっと浮き上がり、巨大な狼に似た2頭の魔物が現われる。

 一頭はベルメールを背に乗せて皆を突き飛ばしながら出口へと駆けて行った。


「待て! あいつを逃がすな!!」


 それを邪魔するようにもう一頭の魔物が通路を塞ぐが……


「凍れる槍よ!」


 クラウス導師が魔物に魔法を打ち込んだが、だが防御が堅い!!

 私はそれを見て素早く印を結び、魔法を展開した。ありったけの声で叫ぶ。


「そこを、どきなさぁぁぁいぃ!!!」


 空気を圧縮した魔法を魔物に命中させた。魔物は建物の外へと弾き出され、倒れ込む。


 一瞬の間を置いて、騎士達は逃げたベルメールを追いかける為に、屋外へと駆け出す。私も彼らの後を追いかけようとすると……


「こら、ダメですって!!」


 ルイスが私を止めようとするが……彼をひらりと交わした。後ろから狼狽えるルイスの声が聞こえる。ズレ落ちそうなヘッドドレスを投げ捨てて、私も走り出した。


 ベルメールは高確率でフローティアの仇だ。絶対に捕まえる!!

 

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