第12話 楽しい聖女の降霊会
自称シャーマンのベルメールが……
『聖女の魂を呼び、彼女を殺した犯人を聞きます!』
と言うので、私達は聖女の遺体が安置されている大聖堂へと向かった。
いつもと雰囲気が違う大聖堂。死者を
胸の短剣は抜かれ、白い
彼女の胸元には、輝きを失った魔除けの首飾りが今も主に寄り添って居た。白く細い腕にも、微かな光を受けて輝くバングルが嵌められている。
私とフローが年齢、背格好、顔の系統も近いとはいえ、誰も入れ替わった事に気づかなかったの? それはそれでマズいのでは??
私が困惑していると……
『へぇ~。バレないものですね? あの
死んだ本人である、
ひゃ~……。聖女の力で化粧を落ちにくくしたけど、これは強力すぎでしょう……さすがに引いてしまった。
改めて、フローの遺体を目の当たりすると、彼女を殺した人物に対してじわじわと憎しみが湧き上がった。もう彼女と手をつなぐことも出来ない、私の髪を梳いてくれない……絶対に犯人を捕まえて罰を与えてやる。
――あれ? フローが付けている魔除けの首飾りが発動してる。
この首飾りは、呪いかそれに準ずる邪な魔法を受けると、身に付けている者を護るために自動で小規模な結界が発動するのだ。その効果は約6時間程。今はその結界は消失している。……ただ、この結界は物理的な攻撃は防げない。
この中に犯人が居るのだろうか? どうか、外部の犯行であって欲しい……そう願いながらも、私は周囲に居る人々の様子を伺う。
―――あれ? あの人が居ない。
女神寺院の関係者も呼ばれているはずなのに、重要な人物が足りない。私は隣にいる騎士のルイスに小声で尋ねた。
「ルイス様、クラウス導師のお姿が見えないのですが……彼は
「クラウス様は現在聴取の最中です。動機が分からないとはいえ、状況証拠は彼が不利なものが多いので」
聖女の遺体の第一発見者で、寺院の鍵は彼が管理している。そして
む~? でもクラウス導師に殺される理由が思い浮かばない。
などと考えていると、ベルメールが聖女の棺に近づき言葉を掛けた。
「あら、お可哀そうに……さぞかし無念でしょうねぇ。それでは早速儀式を開始します。聖女様のお名前を教えて貰えますか?」
「メルティアーナ=ソルフローだ」
シアン大臣が答えると、ベルメールは頷き鞄から道具を取り出した。その怪しい道具を棺と自身の周りに配置すると、古びた本を左手に持ち、ドヤ顔で一言。
「わかりました。では聖女様の魂をお体に戻します!!」
―――お体に戻す??
ベルメールは集中すると、ブツブツと呪文の詠唱を始めた。周囲の道具が共鳴して仄かに光り出す。
私は降霊術に関する情報を思い出す。
……確か、降霊術は術者自身に霊を降ろして声を聞く技じゃなかったかな? 遺体に魂を降ろすなんて蘇生……いや、それって
私が顔を上げると……
―――キィン!
何かが当たり弾ける音がした。音がした方を見ると……棺の中の聖女が身に付けているバングルに嵌め込まれていた石が割れ、ポロリと落ちた。
護符が発動して相殺した。何この人!? 相殺する程強力な技使ってる!!
皆、はこの事に気付いておらず、神妙な面持ちでベルメールを注視する。
それもそうだ、あのネックレスとバングルが護符と知っているのは、私とフロー……そして、それを作った導師ぐらいだ。
ベルメールは頭を掻きながら、不思議そうに首を捻る。
「あれ? おかしいな……もう一度」
ベルメールの道具たちが先ほどよりも
―――あわわわわわ……!!!
私は慌てて、両手を組んで目を瞑った。聖女の技で、フローの体に結界を張る。
(お願いします!フローの遺体を邪悪な術から守ってください!!)
一瞬、大聖堂内が光で包まれ、それが消えると共に何かを弾く音が聞こえた。
―――パキィーーーン!!
どうやら間に合ったようだ。半球状の薄い光の壁が棺を護るように囲い、同時に棺桶の周りに配置されていた道具たちも光を失い割れる。
「あああっ!!僕の道具がっ!!」
一連の現象に聖堂内が騒然とする。
「なにが起ったんだ!?説明しろ!?」
シアン大臣がベルメールに詰め寄る。ベルメール自身も何が起って居るのかわかっていない様で、聖女の棺を見ると慌てふためいていた。
「なっ!まっ!結界!?この結界はまさか、聖女の……」
ベルメールが何か言いかけた時。
「―――その結界は、聖女様が身に付けている魔除けの護符が作動した物ですよ」
大聖堂の入口から落ち着いた口調の男性の声が聞こえ。皆一斉に振り向いた。
そこには4人の人影。騎士が二人とシスター、そしてクラウス導師が居た。
クラウス導師は静かに怒りながらベルメールに問いかける。
「お前は聖女様に何をしようとしたんだ?」
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