第51話 弓使いのアリシャ
それから、俺たちは近くの森にやってきた。
アリシャは完成したばかりのコンパウンドボウを背負っており、上機嫌そうに俺の隣を歩いている。
これだけ気に入ってもらえているというのは、作り手としてとても嬉しいことだ。
「さて、どんな魔物の相手をしてもらうのがいいかな」
俺は森を歩きながら、ちょうど良さそうな魔物がいないかときょろきょろと辺りを見渡す。
せっかくなら、生きていて動く標的の方がいいと思うのだが、あまり弱い魔物でも弓矢の威力が分からないかもしれない。
程よい強さの魔物って見つけるというのも、それはそれで難しいかもしれないな。
「あ、あそこに何かいますね」
すると、アリシャがぴたりと足を止めて何もいない茂みの奥を指さす。
ん? 一体、アリシャは何を指さしているんだ?
「え、どこにいるの?」
どうやら、リリナも俺と同じことを思ったようで、目を細めたあとにきょとんと首を傾げる。
「ほら、あそこ。ちょっと待って……『遠視』。カウバイソンですね。大きな角のある牛です。ロイドさま、あの魔物を標的にしてもいいですか?」
アリシャは遠くの方を見つめながら、俺にそう聞く。
俺は聞き覚えのあるスキル名を聞いて、アニメの設定を思い出す。
そうだった。エルフは目が良いんだったな。
エルフは昔から森に棲んでいて、狩りをしてきた一族だ。
だから、アニメでもアリシャが良く遠くの敵を見つけていたっけ。
俺はじっと何も見えない森の中に視線を向けてから、小さく頷く。
「うん。俺たちには何も見えないけど、そいつでいいと思う」
別に、試し打ちをするのは一度だけという訳ではない。
むしろ、俺たちには見えないほど遠い敵を倒せるのか。また、その命中率はどのくらいなのか。
そこら辺を把握するためは、ちょうど良い標的かもしれない。
「分かりました。それでは、標的はあの魔物と言うことで」
アリシャはそう言うと、背負っているコンパウンドボウを手にして、俺たちには見えない魔物に向けて構える。
アリシャは無駄な力が一切かかっていないような自然な構えをすると、矢を一本取り出して弓を引く。
「『魔法 瞬風』」
アリシャが魔法を唱えると、矢の先に矢が一本分通れるくらいの小さな輪が形成される。
バブルリングのようなものはその場でとどまって、くるくると凄い勢いで回っている。
あ、これアニメで見たやつだ。
アニメの三期で、アリシャが弓の威力を上げるために生み出した魔法だ。
「……『狙撃』」
そして、アリシャは『狙撃』のスキルを使用して、その輪を通すようにして矢を放った。
シュンッ!!
静かに風を切る音だけがその場に残り、目にもとまらぬ速さで矢がアリシャの手から消えた。
「モガァァッ!!」
それから、少し離れた所でそんな声が聞こえて、アリシャは口元を緩める。
どうやら、俺たちに見えない敵を簡単に仕留めたらしい。
「ロイドさま、やりました。一撃です」
「ああ。魔物の悲鳴からするに見事に当たったんだろうな。見えない敵を一撃で倒すなんて、アリシャは凄いな」
「そ、そうですか? ふふっ、嬉しいです」
アリシャはそう言うと、嬉しそうににこりと笑う。
歳のわりに大人びて見える笑みを前に、俺は何かを誤魔化すように頬を掻く。
「じゃあ、とりあえず、その倒した魔物を見に行くか」
「はい。そうですね。こっちです」
それから、俺たちはアリシャに案内してもらって倒したという魔物の元に向かうことになった。
バイソンカウという名前からすると、結構大きな魔物なんだろうな。
そんなことを思いながら歩いていたのだが、しばらく歩いても魔物の元にたどり着けずにいた。
「……アリシャ、倒した魔物の所までまだ距離ある?」
「もうすぐですよ。ほら、あそこです」
ようやくたどり着いたかと思って軽く振り返ってみると、先程俺たちがいた場所がはるか遠くに見える。
これって、百メートルくらいあるんじゃないか?
その距離の敵を撃ち抜くって、アリシャの弓の腕って相当いいんだな。
「え、アリシャこの魔物打ち抜いたの?」
リリナの驚く声に引かれて視線を戻すと、そこには前世で動画で見たようなバイソンのような魔物が倒れていた。
側頭部に風穴が開けられており、すぐ後ろにある太い木の幹には、深く刺さっている矢がある。
「これ、アリシャが?」
俺がそう聞くと、アリシャはニコッと笑みを浮かべる。
「はい! これも、ロイドさまのアドバイスと新しい弓のおかげです。『瞬風』を重ねればもっと、威力も出せますよ!」
そういえば、アニメでも『瞬風』を何重かに重ねて使うシーンがあった気がするな。
俺はアドバイスというほどのことは言ってはいないのだが、あれだけの情報から新しい魔法を作り出すとは……やっぱり、魔法の才能もとんでもないみたいだ。
そして、これだけ遠くのものを射抜くという弓の才能まであるとは。
俺は想像以上のアリシャの才能を見せられて、ただただ感心するのだった。
これなら、ケインたちにも後れを取らないかもしれない。
そして、俺は一人本気でそんなことを考えるのだった。
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