第49話 『生産』スキル
それから、俺とリリナは一足先に街に戻っていた。
アリシャは新しい弓矢の使い方を試行錯誤するために、もう少し森に残るらしい。
アリシャを一人で森に残すのは少し不安ではあるが、本人に一人の方が集中できると言われてしまえば、それに従うしかないだろう。
そして、街に戻った俺とリリナは宿の部屋に戻り、床に並べた工具や竹や木材などをじっと見つめていた。
「ロイドさまって、武器も作れるのですか?」
「いや、どうなんだろう。いちおう、武器を作るスキルは持ってるっぽいんだけど」
俺たちは床に座って、一通り揃えた道具と工具をじっと見る。
俺は今からアリシャのための武器を作ろうとしている。
前世で武器職人でもなければ、アニメでロイドが武器を作ったところなど見たことがないのにだ。
俺は森で確認したステータス画面を再び表示させて、スティールで盗んだスキル一覧を見てふむと呟く。
「『生産』か。上手く使えればいいんだけどな」
「『生産』スキルを持っているんですか?! ロイドさま、本当にすごい方なんですね」
リリナは俺の言葉を聞いて、目を丸くする。
それから、リリナが尊敬の眼差しを向けてきたので、俺は顔の前で手を横に振る。
「いや、俺が凄いわけじゃないんだよ。褒められるようなことじゃないんだって」
そもそも、このスキルはロイドが『生産』のスキルを持っている職人から奪ったものだ。
そう考えると、褒められても素直に喜んでいいのか迷ってしまう。
「……いいなぁ、アリシャ」
俺がそう答えると、リリナは銀色の耳を垂らしながらそう呟く。
だらんと垂らされた尻尾とアリシャを羨む言葉から、リリナが何を考えているのか大体想像がつく。
そうだよな。最初に出会ったのはリリナなのに、先にアリシャの武器を作ると言えば、多少は拗ねたりも羨んだりもするよな。
俺はそう考えてから、リリナに笑みを向ける。
「今回は無理かもしれないけど、ケインの一件が片付いたらリリナの武器も作ってやるからな」
「ほ、本当ですか?! 約束ですよ! 絶対ですからね!」
リリナはそう言うと、俺の手を両手でぎゅっと握って俺を見上げる。
自然と上目遣いになったような視線を前に、微かに自分の体温が上げられたような気がした。
「あ、ああ。約束だ。まぁ、俺が本当に武器を作れればの話だけどな」
「大丈夫です! ロイドさまなら絶対に作れます!!」
リリナは期待を込めたキラキラとした目を俺に向け、さらに強く俺の手を握る。
俺はぐいっと前のめりになったリリナを落ち着かせてから、笑みを浮かべる。
……ここまで期待されたら、できませんでしたとは言えないよな。
俺はそんなことを考えながら、目の前に置かれている材料と工具の方に視線を戻す。
「それで、ロイドさまはどんな弓を作るんですか?」
「昔動画で……いや、昔見たことがある弓を作ろうと思ってな。コンパウンドボウっていう少し変わった弓なんだけど」
「コンパ……なんです?」
リリナは聞き慣れない言葉にきょとんと首を傾げる。
そうだよな。異世界にそんな弓矢があるわけないよな。
俺はそう思いながら、前世でのことを少し思い出す。
一時、世界の武器を紹介する動画や、その作成方法をあげている動画などをよく見ていた時期があった。
中二病だと言われればそうかもしれないが、大人になっても武器をかっこいいと思ってしまうのは、男のさがなのではないかと思う。
そのときに、偶然動画で紹介されていたコンパウンドボウ。
原理的には輪軸になっている滑車と三本の弦を使うことで、通常よりも軽い力で弓を引けるという物だ。
普通は引けないくらい硬い弓でも引けるようになるので、アリシャの弓矢の威力を上げることができると思うのだが……。
「正直、深い構造までは覚えてないんだよな。でも、『生産』のスキルを使えば、できるかもしれない」
俺は自分にそう言い聞かせるようにして、さっそく作業に取り掛かることにした。
頭の中でコンパウンドボウの構造と原理を意識しながら、『生産』のスキルを使うと自然と工具に手が伸びる。
うん、なんだかいける気がしてきた。
俺はぐんと上げられた集中力を使って、そのままコンパウンドボウの作成をするのだった。
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