第11話 強ぐなりだいのでずぅうう!

「『勇者』パーティと因縁? まあ、おれは追放された身だし、その後もなにかと文句があるみたいだし、あるといえばあるっていうか……」


「では、また『勇者』パーティの方々と会うことも?」


「覚えてろ、なんて言ってたし、また来るんじゃないかな」


 すると、その女サムライは満足げに頷いた。


「それならば、私を貴方がたのパーティに加えていただけませんか!?」


 問われて、まじまじと相手を見つめる。


 凛とした整った顔。ポニーテールにした黒髪には艷やかな光沢。身にまとうのは東方の衣装。防具は軽装。左腰に挿した刀。


 美少女ではあるが、可憐な印象はない。彼女の真剣な表情と仕草、佇まいからはどこか危険な雰囲気を感じる。


「仲間は募集してるし、たぶん君は、相当の達人なんだろう。歓迎する……と言いたいところだけど、理由が知りたい。なんでセシルたちと因縁あるおれたちのところに?」


「はい。つい先日、セシル殿に挑んだところ――」


「ちょっと待って。挑んだ? なんで?」


「武者修行の一環で、ご高名なセシル殿に一手ご指南いただこうかと思いまして」


「セシルが応じたのか? そんな理由で私闘を認めるやつじゃないはずだけど」


「はい。断られましたので、強引に襲いかかり、死合っていただきました」


「えぇ……」


 おれとクローディアは若干身を引いた。


「ところがランドルフ殿に横槍を入れられまして」


「そりゃ入れるよね」


「私は魔法とやらに手も足も出なかったのです。私は喜びに打ち震えました。まだ強くなる余地があると。これから何度でもランドルフ殿に挑戦する所存。そしていつか雪辱を果たし……くくくくっ、失礼。強くなることを思うと、つい笑みがこぼれてくるのです」


 うわぁ、この子ヤバい子じゃない? 笑い方とか悪役のそれなんだけど。


「しかし、あのあと追いかけても逃げられてばかりなのです」


 そりゃ逃げるよ。おれでも逃げる。


「しかし、彼らと因縁ある貴方がたの仲間に加われば、私が追いかけずとも彼らのほうから接触してくるはず。そうなれば私の思う壺です。というわけで、ぜひ、このカナデ・タチバナを仲間にお加えください! 必ずやお役に立って見せますゆえ!」


「お断りします」


「な!? なぜですか! 技ですか、技ですね!? お見せしていないからですね! 承知いたしました、数分お待ちを! その辺のゴロツキでも捕まえて、試し斬りいたしますので!」


 だだだっ、とカナデは走って酒場を出ていく。


 おれとクローディアは見つめ合い、頷き合う。


「よし、逃げよう」


「はい、今のうちですわ」


 さっさと勘定を済まして、小走りに店から離れる。が、しかし――。


「あっ! どちらへ行かれるのです! 今しばらくお待ちを!」


 思いの外近くにいたらしく、すぐ見つかってしまった。すでに、ガラの悪そうな屈強な男に馬乗りになり、素手でボッコボコにしていた。


「ヤバい! 走るよ!」


 おれはクローディアの手を引いて、速力を上げる。


 だがしかし。


「急にどちらへ!? 緊急の御用なら、このカナデもお連れください! 必ずお役に立ってみせますゆえ!」


「ひぇ!?」


 なんとカナデは驚異的な瞬発力で、あっという間に追いついてきたのだ。しかもボコボコにした男を背負いながら。


「ちょ、君、なんでその人連れてきてるのさ!?」


「試し斬り用の罪人ですので! 賞金首がたまたまいたのは僥倖ぎょうこうでした! デッドオアアライブですので、斬って問題ありませぬ!」


「すでにほぼデッドだから! さっさと衛兵にでも突き出してあげなよ、可哀想だよ!」


「しかし技をお見せしなければ」


「強いのはもうわかったから! 大丈夫だから!」


 おれは諦めて足を止める。体力に劣るクローディアを連れていては逃げ切れない。いや、おれひとりでも逃げられるかどうか……。


 セシルたち、よく何度も逃げ切れてるな……。さすがランドルフの魔法だ。


「私の腕をお認めになるということは、お仲間に加えていただけると!?」


「いやだよ」


「んなあ!? なぜでずがぁあ~!?」


 ショックを受けて崩れ落ちるカナデ。しかし、まだめげないらしい。その場で土下座して懇願の泣き声を上げる。


「何卒! 何卒お願いいだじまずぅう! 強ぐなりだいのでずぅうう!」


 おれは自分の戦い方に、東方のニンジャのスタイルを組み込むため学んだから知っているが、この土下座という行為は東方において最大限の誠意を示すものらしい。


 このまま放置して逃げるのもさすがに可哀想だ。


「やめてくれカナデ、頭を上げてくれ」


「いいえ、私の誠意が伝わるまでは! どうか奥方も、お口添えくださいませぇ!」


 クローディアはきょとんと目を丸くする。


「奥方……ですか?」


「え、なんで」


「それはもう見ればわかります。おふたりの仲睦まじい雰囲気、言葉はなくとも目で通じ合うご様子。おふたりは夫婦めおとなのでしょう?」


 おれはなんだか急に嬉しくなってきた。


「そっかぁ。そう見えちゃうかぁ。あはは、照れるなぁ」


「はい。まさにおしどり夫婦という佇まい……はっ、これは気付きませんでした。夫婦水入らずのところに、このカナデが入る余地など始めからなかったと……。これは大変な失礼を!」


 地に頭を擦り付けるカナデだが、おれは上機嫌に彼女の肩を叩く。


「いや頭を上げてよ。おれたち夫婦ではないんだ、そこは謝んなくていいから」


「なんと、それは意外。ここまでお似合いの男女など、どこを探してもおりませぬのに」


 ますます嬉しくなって、おれはクローディアに笑顔を向ける。


「どうしよう? この子、やっぱりいい子かも」


 クローディアも両手を頬に当てつつ、でれっとした笑みを浮かべていた。


「はいっ。カナデ様は人を見る目のあるお方です」


「で、ではお仲間に!?」


「それはダメ」


 ガーンッ! と、いよいよカナデは言葉も失った。目に一杯の涙を溜めつつ、口を一文字に閉じて必死に泣くのを堪えている。ぷるぷると震えている様子には、同情を引かれるが……。


 クローディアがそっと耳打ちしてくる。


(ここで断ってもずっと追いかけてくるのでは?)


(確かに……。毎回逃げるよりは、味方にしといたほうがマシかも……)


 ふたりで頷き合って、こほん、と咳払い。


「カナデ、今のは撤回する。君の熱意に免じて、仲間になってもらうよ」


「あ――ありがとうございます! このカナデ・タチバナ、粉骨砕身いたします!」


 本当に嬉しそうに立ち上がり、にっこり笑顔。こうして見るとやはり美少女なのだが。


 なぜかカナデは刀の柄に手をかけた。


「ではさっそく、親睦を深めるため一試合いたしましょう!」




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次回、アランとカナデが対決! 果たして勝敗は!?

『第12話 なぜ正々堂々と立ち合わないのですか!?』

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