第48話 森の異変04
サイクロプスに近づきながら、後にいるみんなとの距離を見る。
(よし、十分だな)
とある程度距離が離れたことを確認すると、おそらく自分たちで広げたのだろうぽっかりと空いた草地で何かを食っているサイクロプスにまずは連続で風の矢の魔法を放った。
魔法は3匹ほどに当たり、
「グオォォ!」
という野太い悲鳴が上がる。
私は迷わず駆けだすと、サイクロプスの集団の中に突っ込んで行った。
慌てて粗末なこん棒を取り私めがけて振り下ろしてくるのを素早くかわしまた風の矢の魔法を放つ。
先程魔法を食らわなかった2匹にも何発か当たり同じように、
「グオォォ!」
と悲鳴を上げさせた。
次から次に襲い掛かって来るこん棒を、
(やはり目がひとつだと視野が狭いんだろうか?)
と妙なことを考えつつ素早く避ける。
そして、隙を見て魔法を放っていると、ついに1匹が沈黙した。
サイクロプスたちの周りを駆け回りつつ、また魔法を放つ。
今度はややためを作って大き目の風の刃を放った。
2匹が胴をちぎられて倒れる。
それを見て怒ったのか、残りの2匹が狂ったようにこん棒を振り回してきた。
(勝ったな…)
と思いつつも冷静に相手の動きを見定めて魔法で削る。
そして、隙を見つけると、素早く懐に入って、また風の刃で1匹の胴を斬った。
最後の1匹が一つしかない目を器用に怒らせて襲ってくる。
私はそこへ連続で風の矢を何本も放つと、やがて相手の動きが止まり、バタンと後ろ向きに倒れて沈黙した。
「ふぅ…」
と息を吐きつつ、トントンと腰を叩く。
(やっぱり身体強化系は疲れるな…。歳かねぇ)
と苦笑いしながら臭いが広がる前にと思ってさっさとサイクロプスを焼きにかかった。
3メートルを超える巨体が炎に包まれ、一瞬で灰になっていく。
サイクロプスから取れるのは魔石だけだ。
他はごみにしかならない。
(まったく、生産性の低い魔物だ)
と愚痴をこぼしつつ、灰になるまで高火力で丹念に焼いていった。
そんな私のもとにみんながやって来る。
「にゃぁ」(さっさと終わらせて飯にするぞ)
と言ういつものチェルシーの言葉になんだか妙にほっとして苦笑いを浮かべていると、
「あ、手伝います」
と言って、アヤメが燃やすのを手伝ってくれた。
やがて灰の中から魔石を取り出し、臭いがしない場所まで移動してから飯にする。
魔法についてはアヤメから、身体強化についてはサユリとツバキからそれぞれ質問され、それに簡単に応えながら和やかに食事は進んだ。
やがて昼食が終わりまた森の奥を目指し始める。
マユカ殿の見立てでもチェルシーの感覚的にも、どうやら目的の場所は相当近いらしい。
しかし、ここで無理をすれば夜戦になりかねないという判断で、その日はまだ午後の明るい時間から早々に野営の準備に取り掛かった。
晩飯までの間、お茶を飲みながら、
「明日はおそらく総力戦になる。みんなにも助けてもらうかもしれんが、まずはマユカ殿の護衛を一番に考えてくれ」
とサユリ、ツバキ、アヤメの3人に声を掛け、真剣な目を向け向ける。
そして、次にマユカ殿に目を向けると、
「無理だけはしないでほしい。撤退の指示には従ってくれ」
とお願いした。
「わかった」
と、こちらも真剣な目で言ってくるマユカ殿に軽く頭を下げる。
そして、
「なに。例え竜が出ても時間稼ぎくらいはして見せるさ」
と、あえて軽い調子でそう言って、軽く微笑んで見せた。
やがて早めの夕食を済ませ、それぞれが体を休める。
私もサクラを甘えさせてあげつつゆっくりと体を休めた。
翌朝。
しっかりと飯を食い、夜明けを待って行動を開始する。
みんなの顔には緊張の色が濃く出ていた。
当然私もそれなりの緊張感を持って行動する。
いつ、何が出て来てもいいように万全の態勢で辺りを注意深く観察しながら進んでいった。
やがて、
「もう、かなり近いぞ」
というマユカ殿の声についづいて、チェルシーも、
「にゃ」(あっちじゃ)
と言って方向を示す。
私は、両方に向けて、
「わかった」
と答えるとチェルシーが示してくれた方向へ迷わずサクラを進ませていった。
やがて、はっきりとした痕跡を発見する。
それを見て、私の中に緊張が走った。
なぎ倒された木、そして、人間のような足跡。
私はいったんみんなに手で合図を送って足を止める。
そしてひと言、
「どうやらオーガだ」
と現実を告げた。
その言葉にマユカ殿たちが衝撃を受ける。
「どうする?」
と聞くマユカ殿の言葉に私は少し考えると、まずはアヤメに向かって、
「矢は十分か?」
と聞いた。
「50は」
というアヤメの言葉にうなずき、続いて、サユリとツバキに、
「ミノタウロスの経験はあったな?」
と確認する。
「「はい…」」
と言う返事を聞いて、私はひとつうなずくと、
「行こう。やつは魔法にめっぽう強い。だが一応なんとかできる。しかし、この痕跡から言って複数だろう。何匹いるかはわからんが1匹くらい漏れてもおかしくない。マユカ殿を守りつつその相手は頼む。なに、基本はミノタウロスと同じだ。それに今回は倒さなくてもいい。とにかく牽制してマユカ殿に近づけさせなければいいだけだ」
と言って、みんなを真っすぐ見つめた。
しばらく痕跡を負った後、開けたところを見つけて、馬たちと荷物、そして、チェルシーをその場に残し行動を開始する。
私たちの周りの空気は限りなく重たい。
私は、
(まったく厄介な…)
と心の中で愚痴を言いつつも、最大限気を引き締めて進んで行った。
やがて洞窟の入り口にやや開けた所がある場所へ出る。
私が、
「ここだな」
と、つぶやくと全員がうなずいた。
「おそらく、中にいる。マユカ殿、頼んだぞ」
「了解じゃ」
「みんなも冷静に対処してくれ。基本を忘れなければ大丈夫だ」
「「「はい!」」」
と簡単な言葉で最後の確認を済ませると、マユカ殿を守りながらそっとその洞窟の入り口に近づいた。
やがて洞窟が見える場所に着き、マユカ殿に向かってうなずきながら目で合図を出す。
マユカ殿もうなずいて、さっそく薙刀を取りそれを地面に突き刺した。
爆発的にマユカ殿の魔力が増大する。
(相変わらずすごいな…)
とその膨大な魔力の気配を背中で感じながら、私も杖を油断なく構えた。
やがて、洞窟の中から慌てたようにドシドシと音を立てながら大きな影が近づいて来る。
私はその陰にまず最大級の力で炎の魔法を放ち、相手の出鼻をくじきにかかった。
「ウオォォ!」
という悲鳴とも雄叫びともつかない声が上がる。
しかし、私はそれに構わず今度は風の矢の魔法を連続で放った。
(一応、足止めくらいにはなるな…。傷も少しつけられただろう)
と、相手にさしたるダメージを与えられないことは織り込み済みでとにかく魔法を放ち続ける。
するとしばらくして、また、
「ウオォォ!」
と言う声とともにドシドシと足音を立てて、中から巨大な影がこちらに近づいてきた。
見える影は3。
(ちっ。ここまでだったか)
と思いつつも、足元を狙って魔法を放つ。
見ると、多少は痛がっているようだ。
それでも前進してくるヤツらを見て私は杖を背中にしまい、まな板と剣を持って私はオーガに斬り込んでいった。
オーガはまるで鬼のような角を生やしている。
顔面は人間のようだがライオンの鬣のような毛を生やし、手には巨大な斧のようなものを持っていた。
(あんな武器どこでどうやって作り出すんだ?…いや最初から体とセットで生まれてくるんだろうな…。まったく、だから魔物ってのは…)
と魔物の謎について変な考察を交えながら、その化け物のような斧をなんとかかわしながら、3メートルほどある巨体の足の辺りに斬りつけていく。
1匹斬りつけたらすぐに飛び退さって次の個体へ。
そんなことを繰り返し、オーガの注意を私に向けていった。
オーガが叩きつけた斧が岩を砕き私に降りかかってくる。
(ちっ…)
と思いつつそれを何とかまな板で捌き、振り下ろされた腕を斬りつける。
(やはり物理攻撃は効くな…)
と思って、
「ウオォォ!」
と痛そうに悲鳴を上げるオーガに構わずまた次の個体を狙って素早く移動した。
そんな攻撃を繰り返し徐々にオーガを削っていく。
段々とオーガの動きが雑になって来たが、私の息も徐々に上がって来た。
デタラメに振り回された斧が岩壁に当たり大きな石が落ちてくる。
(しまった…)
と思いつつ、なんとか避けるがその動きが隙を作ってしまった。
1匹がマユカ殿に向かっていく。
その1匹の足元に無駄だとわかりつつ、何の属性も無い魔力の塊を放った。
その魔力の塊が上手い具合にオーガの足首の辺りに当たる。
ダメージは無さそうだが、オーガは躓くようにして一瞬体勢を崩した。
そこにサユリが突っ込んで行くのが見える。
(よし…)
と思いつつ、私は残り2匹の相手に集中した。
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