第31話「こんにちはです」

 八月になった。夏の暑さは変わらず続いていた。


 朝から暑い。そんなことを思っていた今日は、橋本と琴音さんがうちに遊びに来ることになっていた。

 目的はもちろん、橋本の女性恐怖症(?)をなんとかするためなのだが、そのことを琴音さんとRINEで話していると、『私も行ってもいいですか?』と言っていたので、俺は『うん、いいよ』と返事を送った。


 俺は駅まで二人を迎えに行くことにした。ちょっと早く着いたので駅のベンチに腰掛ける。それにしても暑いな、汗が流れてきたので俺はタオルで汗を拭った。


 電車が来た。これに橋本が乗っているはずだが……と思ったら、改札の向こうで手を挙げた橋本が、そのまま改札を通ってこちらにやって来た。


「おーっす、すまんな、わざわざお迎えに来てもらって」

「いやいや、家に来るのは初めてだから、来ないといけないなと思って」

「そうだな、あ、あ、天乃原さんは、まだか?」

「ああ、橋本とは方向が違うからな、もうすぐ来ると思うが」


 しばらく話していると、反対方向から電車が来た。琴音さんは乗っているかなと思っていると、


「――あーっ、赤坂くん、おひさー! 夏はやっぱり暑いねぇ!」


 と、元気な声が聞こえてきた。あ、あれ? 琴音さんと、隣には望月さんもいる。望月さんも来ることになったのか。


「あ、お久しぶり……って、望月さんも来てくれたんだね」

「もちー。琴音に話聞いてさー、あたしも行きたーい! って言ったんだよねー」

「す、すみません大河さん、日葵が行くって言って……」

「ああ、いやいや、気にしないで。琴音さんもこんにちは」

「はい、こんにちはです。あ、橋本さんもこんにちは」


 琴音さんに挨拶された橋本……は、何も言わない。あれ? と思って見ると、どこか遠くを集中して見ていて、まるで気を失っているかのようだった。


「お、おい、橋本、大丈夫か?」

「……はっ!? あ、ああ、大丈夫……あ、こ、こ、こんにちは……」

「あれぇー? なんかカッコいい人がいるー! はじめましてー! あたし望月日葵っていうんだー、キミはもしかして橋本くん?」

「あ、あが、あう、は、ははは橋本、光星と、いいます……!」

「あははっ、なんか緊張してるー! 可愛いねぇ。あ、赤坂くんの家、どっちー?」

「あ、ごめん、みんな集まったし行こうか」


 四人で歩いて行くことにした。俺と琴音さん、橋本と望月さんが並んで歩く。橋本は大丈夫か……と振り向いたら、なんと望月さんが橋本と腕を組んでいるではないか。橋本は泡をふいて倒れそうな顔をしていた。


 そんな感じで、四人でうちまでやって来た。望月さんが「へぇー、ここかぁ、大きなお家だねー!」と言っていた。橋本はしゃべる余裕がないようだ。


「ただいまー、みんなどうぞ上がって」


 玄関を開けて、みんなに上がるようにうながす。そのとき、パタパタと玄関にやって来る人がいた。


「おー、大河おかえりー、そっちが話してた?」

「大河おかえりー、橋本くんというのは……?」


 そう、南美姉と咲美姉だった。二人には今日友達を連れてくることを話していた。


「ああ、みんな、こっちは俺の姉の南美と咲美。双子なんだ」

「へぇー、すっごーい! あ、はじめましてー! あたし琴音の友達の望月日葵っていいますー!」

「あらまぁ、琴音ちゃんのお友達! へぇー、明るくて可愛いわねぇ!」

「あらまぁ、そうなのねー、挨拶できて偉いわー。あ、琴音ちゃんもお久しぶりね」

「こんにちは、お久しぶりです。すみません今日はおじゃまします」

「いえいえー、琴音ちゃんは変わらずしっかりしてるわねぇ。あ、そちらが橋本くんね。へぇ、大河より背が高くて、カッコいいじゃないのー!」

「ほんとだー、カッコいいー!」


 南美姉と咲美姉が橋本の手をとった。橋本は「あ、あが、あぐ、は、ははは橋本です……」と、自分の名前を言うのがやっとだった。


 みんなをリビングに案内した。咲美姉がジュースを用意してくれた。


「はい、みんな飲んでねー」

「あ、ありがとうございますー! いただきますー!」

「おー、日葵ちゃんは見た目はギャルっぽいけど、しっかりしてるんだなー。さぁ、橋本くんも飲んで飲んで」

「あ、あが、あう、あ、あああありがとう、ございます……」


 ガッチガチの橋本を、南美姉がなでなでしている。頑張れ、ここは試練だ。男には乗り越えなければいけない壁があるのだよ。


「……橋本さん、緊張しているみたいですね」


 俺の隣で琴音さんがそっと話しかけてきた。


「ああ、そうみたいだね。なんとか女性恐怖症が克服できるといいけど」

「そうですね、すぐには難しいかもしれませんが、これも試練ですね」


 橋本を囲んで、南美姉、咲美姉、望月さんが話している。橋本は固まって動けないようだ。

 ちょっといきなりすぎたかな……と思わなくもないが、どうにか橋本には女性に慣れてもらいたいと思う俺だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る