離れていると思ったら会えたんですけど、これって運命ですか?――1

『みゃあ』さんが初の音声配信を行った、翌日の昼休み。


「火野くんのお弁当、今日も美味しそうだね」

「あ、ありがとう」

「わたしはね? 玉子焼きが上手に作れたの!」

「そ、そっか」


 無邪気な笑顔を浮かべ、「見て見てー」と、花咲さんが箸でつまんだ玉子焼きを見せてくる。


 対して俺は、まともに花咲さんの顔を見られず、挙動不審になっていた。


 なにしろ俺は、昨晩、花咲さんとふたり遊びをしたのだ。油断すれば、花咲さんの嬌声きょうせいが耳に蘇り、欲望がムクムクと膨らんでしまう。


 けど、しかたないじゃないか! 俺だって男なんだから!


 気まずさのあまり、しなくてもいい言い訳を心のなかでしてしまった。


 むしろ、この状況で平然としている花咲さんのほうがおかしいって! どんなメンタルしてるの!?


 俺とは対照的に、花咲さんには恥ずかしそうな様子が一切ない。エロ自撮りを普段からSNSに投稿していることで、耐性がついているのだろうか?


 居心地の悪さに口元をモニョモニョさせていると、花咲さんが、コテンと小首を傾げた。


「どうしたの、火野くん? 様子が変だけど」

「べべべ別にどうもしないよ!?」

「そう?」


 慌てて否定するが、花咲さんは納得していないらしく、首を反対側に傾ける。


 追及されたらボロが出る! なんとかして話を逸らさないと!


 急いで頭を回転させて、俺は新たな話題を振ることにした。


「と、ところで、もうすぐゴールデンウィークだけど、花咲さんはどうやって過ごすの?」

「顔を出すように言われてるから、おじいちゃんのところに行く予定だよ。火野くんは?」

「俺は実家に帰省するつもり。ゴールデンウィーク中は、ずっと向こうにいると思う」

「そっか……」


 花咲さんが、どこか寂しそうに肩を落とす。


 どうしたのだろうか、と眉をひそめていると、花咲さんがいてきた。


「ねえ、火野くん? ゴールデンウィーク中に、また専用アカで音声配信してもいい?」

「へっ!?」


 ドキリとして、声が裏返る。


 も、もしかして、またふたり遊びをするつもりか!? 昨日したばっかりだから、気まずいな。全然OKだけど! ウェルカムだけど!


 ドキドキとワクワクを覚えながら、俺は尋ね返す。


「ど、どうして?」

「ゴールデンウィーク中、わたしたち、会えないでしょ? それが寂しくて、声だけでも聞きたいんだ」


「ダメかな?」と、潤んだ瞳で上目遣いしてくる花咲さん。


 俺の胸が、キュン、と音を立てた。


 な、なんていじらしいおねだりなんだ! 可愛すぎるだろ!


 凄まじい破壊力に、胸を押さえて悶絶する。地面を転げ回りたい衝動を抑えるのに必死だった。


 予想とは違っていたけれど、花咲さんのおねだりは嬉しくてたまらない。


 顔がほころぶのを感じつつ、俺は頷く。


「ダメじゃないよ。俺も、花咲さんとお話しできたら嬉しいし」

「えへへへ、そっかぁ」


 花咲さんがふにゃりと頬を緩めた。まるで、ご主人さまに褒められたわんこみたいだ。ブンブンと振られる尻尾が、俺の目にはたしかに見える。


 可愛いが過ぎるでしょうよ! ああー、いますぐ花咲さんに課金したいっ!


 内心でもだえる俺に、花咲さんがニッコリと笑いかける。


「じゃあ、音声配信するね? 会えない分、いっぱいお話しようね?」

「ああ。楽しみにしてるよ」


 笑みを交わし、俺たちは約束した。

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